「日本の液化天然ガス(LNG)消費量を3割減らせます」――。こんな革新的な発電技術が2020年ごろの実用化に向け、今夏にも動き出す。キーワードは「トリプルコンバインドサイクル発電」。長崎造船所(長崎市)で実証研究を続けてきた三菱重工業が目指すのは燃料が持つエネルギーの70%を電気に変換する究極の火力発電所だ。
■三菱重、燃料電池を併用 LNG2300万トン節約
現在、LNG火力の主流はガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたダブルコンバインドサイクル型で、燃料エネルギーを電気として取り出す比率を示す発電効率は55~60%。これを全て70%に引き上げられれば、日本全体で年2300万トンものLNGを節約できるという。
日本では11年度のLNG輸入量が8300万トンと10年度比で18%も増えた。原子力発電所50基すべてが止まり、LNG依存度がさらに高まる見通しなだけに、実現すれば資源調達戦略に与える影響も大きい。
高効率の秘密は高温で発電する固体酸化物型燃料電池(SOFC)を併用することでLNGから3段階でエネルギーを搾り取る点にある。
仕組みはこうだ。LNGはまず、SOFCに送り込まれる。主成分であるエタンから取り出した水素と酸素を反応させ、電気を取り出す。次にSOFCが発する熱も使ってLNGを燃焼させ、その圧力でガスタービンを回し、2度目の発電をする。最後にガスタービンから出た排ガスの余熱で液体を沸騰させ、蒸気タービンで発電する。
三菱重工の小林由則・新エネルギー事業推進部次長は「高温に耐えられる素材開発は難しく、ここから先は燃料電池を組み合わせることで飛躍的に効率が上がる」と自信をみせる。
今夏にもまず小型の直径3メートル、長さ11メートルの250キロワット級の実証設備が東京ガスの東京・荒川の施設でスタート。14年以降には東北電力と組み、4万~11万キロワット級の実証にも入る計画だ。
石炭火力でも復権に向けた取り組みが始まった。主役は「石炭ガス化複合発電(IGCC)」と呼ばれる技術。石炭を燃やす従来の石炭火力とは異なり、石炭を高温でガス化してLNG火力と同じようにガスタービンと蒸気タービンで発電する。
Jパワー(電源開発)の若松研究所(北九州市)。半世紀前に同社初の石炭火力が運転を始めた場所で、日立製作所のプラントを使って「EAGLE」プロジェクトと名付けられた実証試験が進む。この研究が注目されるのは石炭火力の発電効率が現在の40%程度から46~48%に引き上がるからだけではない。
「融点が低くこれまで発電用に向かなかった石炭も対象にできる」(Jパワーの後藤秀樹技術開発部長)ことで、原料炭の調達先が一気に広がる可能性を秘めるためだ。
JパワーはEAGLEで確立した技術を実用段階に進めるため、中国電力と共同出資で大崎クールジェン(広島市)を設立。広島県大崎上島町に発電プラントを設け、17年にも運転を始める。
燃料電池を組み合わせた「石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)」にまで進化できれば、発電効率を60%程度に高めることも可能となる。
■CO2の回収・貯留実験も始動
火力発電にとっての課題だった二酸化炭素(CO2)の排出を抑える技術となる分離・回収・貯留(CCS)研究も今年度、北海道の苫小牧沖で始動する。
プロジェクトを主導するのは電力会社やエンジニアリング会社が出資する日本CCS調査(東京・千代田)。経済産業省から委託を受け、年10万トン以上の貯留実験の準備を始める。
液体のCO2をタンクローリーで、気体のCO2をパイプラインでそれぞれ圧入基地に運び、地下約1000~3000メートル程度までの層に送り込む計画だ。
CO2の分離・回収で先頭を走ってきた日本。独立行政法人、産業技術総合研究所がビニールハウスで加温のためにボイラーなどから発生する排出ガスから吸着・回収したCO2を、翌朝、作物に供給して光合成を促進させる循環型システムを開発。奈良県と岩手県で実証実験を続けるなど、様々な規模で実用化に向けた研究が進む。
半面、弱点とされたのが貯留技術だ。その開発が動き出すことで環境に影響を与えないゼロエミッション火力が現実味を帯びてきた。
太陽光をはじめとする再生可能エネルギーの研究開発が進むが、原発停止で高まった火力発電シフトを解消する即効薬にはなりにくい。中東などにエネルギーを依存するリスクが一段と高まっているだけに、効率よく電気を取り出す技術開発の重要性はさらに増しそうだ。
(加藤貴行、三浦義和)
[日経産業新聞2012年5月21日付]
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