文・村上 利幸(NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティング本部 コンサルタント)
図1●市町村の防災行政無線システムのイメージ
出典:総務省九州総合通信局のWebサイト
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防災行政無線システムとは、国および地方公共団体が非常災害時における災害情報の収集・伝達手段の確保を目的として構築している無線システムです(図1)。災害が発生した際には、災害の規模、災害現場の位置や状況を把握し、いち早く正確な情報を地域住民などに伝達する必要があるため、公共が提供する仕組みとして不可欠なものです。
日本は諸外国と比較して地震の発生が多く、東日本大震災(2011年3月)の前にも、大きな地震が発生しています。例えば、新潟県中越沖地震(2007年7月)、能登半島地震(2007年3月)、新潟県中越地震(2004年10月)、阪神・淡路大震災(1995年1月)などです。また今後、南海・東南海地震、東海大地震、および首都直下型地震の発生も懸念されています。防災行政無線システムによる情報収集や伝達手段の確保は、今後一層必要とされていると言えます。
3階層4システムで構成
図2●防災行政無線システムの全体構成
出典:総務省のWebサイト
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防災行政無線システムは、国、消防、都道府県および市町村の3階層4システムで構成されています。防災行政無線システムの全体像を示したのが、図2です。
(1)中央防災無線
内閣府を中心に、指定行政機関等(中央省庁等28機関) や指定公共機関(NTT、NHK、電力等52機関)、立川広域防災基地内の防災関係機関(東京都防災センター等10機関)を結ぶネットワークです。
(2)消防防災無線
消防庁と全都道府県の間を結ぶ通信網で、電話およびFAXによる相互通信と、消防庁からの一斉通報に利用されています。
図3●防災行政無線システムの衛星通信用パラボラアンテナ
出典:千葉県のWebサイト
(3)都道府県防災行政無線
都道府県と市町村、防災関係機関などとの間を結ぶ通信網で、防災情報の収集・伝達を行うネットワークです。衛星系を含めると、すべての都道府県に整備されています(図3)。
(4)市町村防災行政無線
市町村が防災情報を収集し、また、住民に対して防災情報を周知するために整備しているネットワークです。2011年3月末時点で、全1750市町村中、固定系/同報系については76.3%(1335市町村)、移動系については83.2%(1457市町村)が整備済みです。
図4●防災行政無線システムの屋外拡声子局
出典:長野市のWebサイト
市町村のシステムは、固定系/同報系と移動系の2種類があります。固定系/同報系は、市町村役場と屋外拡声子局(図4)、地域の各家庭・事業所などに設置される戸別受信機とを結び、市町村役場から地域住民に向けて災害・行政情報などを伝達するために使用します。一方、移動系は、市町村役場に設置した基地局と移動局との間、または移動局同士の間で、防災行政に関する通信を行うためのシステムです。
市町村防災行政無線と同様に、国民に向けて迅速に情報伝達を行う手段(警報)としては、「全国瞬時警報システム(J-ALERT)」もあります。こちらは自然災害だけでなく、万が一の外国からの攻撃(例えば弾道ミサイルの発射)などにも対応しています。また、防災行政無線の固定系/同報系を全国瞬時警報システムによって拡張させる機能として、消防庁から通信衛星を経由して緊急情報を受信し、情報の種類により同報無線自動起動機で同報無線を自動的に起動して、サイレンや音声案内を住民に伝達することも可能です。
平時から停電対策や耐震対策が必要
国および地方公共団体は、災害発生時でも防災行政無線システムの機能が十分に確保できるよう、平常時から停電および耐震対策を行う必要を訴えています。
1995年7月に中央防災会議が決定した「防災基本計画」でも、「国及び地方公共団体等は、災害時における情報通信の重要性に鑑み、災害時の通信手段の確保のため、情報通信施設の耐震性の強化及び停電対策、情報通信施設の危険分散、通信路の多ルート化、無線を活用したバックアップ対策、デジタル化の促進等による防災対策の推進等を図ること」などを定めています。つまり、無線設備の停電・耐震対策のための指針を参考に対策を講じるとともに、定期的な整備・点検が必要です。
中央非常通信協議会が発行する「非常通信確保のためのガイド・マニュアル」では、非常通信の基礎知識や防災用無線システムの概要など、災害時の非常通信の確保に必要な事前および非常時の措置についても解説しています。