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証言/焦点 3.11大震災
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焦点/地震学会が提言/施策参加、なお課題

鷺谷威氏

◎国の議論、透明性求める声

 反省から再生へ−。東日本大震災を経て、新たな決意を示した22日の日本地震学会。報告会に出席した研究者からは、地震学が「発展途上」のまま国の防災施策に深く関わらざるを得ない現状や、防災教育への取り組みの弱さなど、提言では掘り下げ切れない課題を指摘する声が上がった。
 「科学を踏み越えた部分があった。じくじたる思いだ」。約450人が詰め掛けた地震学会の報告会。中央防災会議の検討会委員を務める橋本学京大教授は総合討論で、東海、東南海、南海の3連動地震の震源域を、従来の約2倍に変更した中央防災会議の議論を振り返った。
 モデルは最大規模が想定され、四国に20メートル以上の津波が押し寄せるとした。しかし、発生のメカニズムは未解明の点も少なくない。
 橋本教授は、会議での議論が非公開だった上、委員には守秘義務もあるため、他の研究者らと検証できないという問題点を挙げ、「あいまいな行政判断にお墨付きを与える御用学者になっていないだろうか」と問題提起した。
 会場からは「国は施策の議論過程をすべて公開すべきだ」「国の方針に縛られず、自由に意見交換できる場が学会に必要」との意見も出た。
 研究成果を教育の現場などに伝える普及啓発活動も、テーマとなった。昨年の学会員向けのアンケートでは、子どもを対象とした講演の経験が「一度もない」との回答が7割近くに達するなど、消極姿勢が目立った。
 大木聖子東大助教は「震災を機に、普及啓発の大切さが学会に浸透しつつある。ほかの研究者も、このような活動を理解し、評価することが大事だ」と語った。

◎臨時委委員長・鷺谷名古屋大教授に聞く/健全な批判と発信力を

 東日本大震災の反省から、日本地震学会の提言は、地震学の在り方を厳しく問い直す内容になった。取りまとめに当たった臨時委員会委員長の鷺谷威名古屋大教授に、提言のポイントを聞いた。

<可能性に依存>
 −提言では、学会について「健全な批判精神やコミュニケーションの欠如」を指摘した。
 「例えば宮城県沖などの地震で、観測データから導き出されたシナリオは仮説にすぎないのに、みんなが従ってしまった。疑問を抱く人がいても、表立って批判しない雰囲気があり、議論できなかったのも問題だ。一つの可能性に依存するという、科学者として非常に危険な態度だった」
 「科学的成果をどう社会に伝えるか、それがどのように社会に受け止められるか、という意識も欠けていた。分かったことに加え、何が分からないのかも一緒に発信する努力が足りなかった。その結果、地震学の実力が社会的な期待の中で過大評価された」

<応用面進まず>
 −地震学は地震調査委員会の長期評価などを通じて国の施策に関与している。
 「委員会の参加者以外は長期評価や国の施策に無関心だった。他の研究者も関心を持ち、建設的に批判すべきで、それが学会としてのサポートになる。積極的に社会への啓発に取り組む研究者に対しても、学会が果たすべき役割を担っていると認識し、敬意を払うよう意識改革も促したい」

 −防災との関係も反省点に挙げられた。
 「地震学の研究者は地震や津波のデータを使って、まず断層モデルを正確につかもうとする。結果的に防災のような実用面、応用面をおろそかにしたことは否定できない。地震学の知見を生かし、工学系の研究者らと協力していく姿勢が絶対に必要だ」

<方向性を模索>
 −震災の本震は「想定外」だったと言われる。
 「2004年のスマトラ沖地震後、日本周辺でもマグニチュード(M)9級の超巨大地震が起きうることを示す論文が海外で出たが、国内で注目されなかった。地震がたくさんあり、観測データが豊富な日本にいると、研究が内向きになりがちだ。広い視野を持たないことの危険性が意識されていなかった」

 −提言は、研究者から寄せられた31本の意見論文とともに公表された。
 「これほど中身の濃い論文が集まった点を前向きに捉えたい。地震学の立て直しに向け、健全さは失われていないと感じる。提言に批判的な研究者もいるはずだが、提言をたたき台に議論を繰り返すことで、地震学が目指す方向性が定まるだろう」

<さぎや・たけし>1964年栃木県生まれ。東大大学院理学系研究科地球物理学専攻博士課程中途退学。名古屋大地震火山・防災研究センター教授などを経て2012年1月から名古屋大減災連携研究センター教授。専門は地殻変動学。47歳。


2012年05月23日水曜日

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