社会保障と税の一体改革関連法案をめぐり、野田佳彦首相と野党との本格論戦が続いている。
このなかで首相は「不退転の決意で今国会成立を期す」と、あらためて表明した。首相の決意は分かったが、野党との溝は埋まらず、成立に向けた展望は描けないままだ。
首相が政治生命を懸けるというのであれば、具体的な戦略が必要だ。それがないと首相のリーダーシップが問われ、国会はさらに政局へと傾きかねない。
理由の第一は、野党の主張との隔たりが大きいことである。
特別委で自民党は、2009年衆院選の民主党の政権公約を批判したうえ、参院で問責決議を受けた田中直紀防衛相ら2閣僚の交代を求めた。
首相は、09年の衆院選で消費税増税に触れなかったことについて謝罪したものの、2閣僚には続投させる意向を表明している。
これでは同じことの繰り返しで進展は望めない。
田中防衛相が、懸案の山積している安全保障問題について対応できる人材か、国民は強い疑念を抱いている。首相は更迭を決意すべきときではないのか。
一方、自民党にしてみれば、法案の追及を通して衆院解散に追い込みたいのだろう。だが、こちらも不毛な論議に終止符を打ち、具体的な課題に即してもっと掘り下げる必要がある。
理由の第二は、小沢一郎元代表が消費税増税に正面から反対していることだ。
輿石東幹事長は22日に首相との会談を小沢氏に要請し、来週中にも実現する見通しだ。増税法案採決に際し、小沢氏が反対すれば党分裂にもつながりかねない。
民主党にとって重大な局面である。事態がここまで切迫したのは、首相と小沢氏の話し合いが十分でなかったことに加え、政府・民主党の政策決定過程に問題があるからだろう。
鳩山由紀夫元首相の普天間移設迷走も、政府と民主党がばらばらだったことに一因があった。
小沢氏は民主党政権誕生の立役者の一人である。にもかかわらず、数の力を背景に「二重権力」のように振る舞うのは理解に苦しむ。野田、小沢両氏はもっと早い段階から論議を重ね、問題を解決しておくべきだった。
政治は、首相―小沢氏―自民、公明党の思惑が交錯し、三すくみ状態に陥っている。国民不在のパワーゲームの不毛を自覚し、議論を前進させなければならない。