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序章
001
 ある日、学校の帰り道で怪しげな爺さんと出会でくわした。汚らしい格好の上に縮れ毛の白髪と白い髭は伸ばし放題である。頭の上に乗せた眼鏡に気付かず「眼鏡眼鏡」と探している様子だったので、俺は「爺さん」と声をかけて頭を指し示してやったのだ。無事に眼鏡を探し当てた爺さんは開口一番こう言いのけた。

「私は神だ。どんな願い事でも一つだけ叶えてやろう」

 世の中には関わってはいけない種類の人間がいて、この爺さんは間違いなくその中の一種類に属していると判断した俺は、幼稚園の先生に習った「怪しい人には近付いちゃいけません」という教えに則って爺さんを華麗に無視することにした。

「いやいやいや、とりあえず騙されたと思って願い事言っといたほうがよくね?」

 無視された爺さんは神様っぽくない発言で俺を呼び止めた。
 しかしまあ、それは一理ある。

「うーん、そうだな。それなら好きで好きでその子のことしか考えられなくなるような可愛い女の子を紹介してくれ」

 爺さんの話をまったく信じていなかった俺は思い付くままに適当な願い事をした。

「む、なんか長い願い事じゃのう。メモるからちょっと待っとれ」

 ぶつくさ言いながら爺さんはメモを取っていた。神の名を語る不届き者と見下していたが、その実直な態度に高感度が少しだけ上昇する。

「それにしても世界征服とか不老不死とかじゃなくてええのんか?」
「ああ。俺が世界を征服したところで誰も幸せにならないからな」
「あい、わかった。それでは願いが成就される日を楽しみに待っておれ」

 そう言うと爺さんは煙のように消えた。
 げ、本物だったのか?
 あー、それならもっとちゃんとした願い事をしておくんだった。
 と――嘆き悲しんでいるところで俺は目を覚ました。殺風景な自室のベッドの上である。
 なんだ夢かよ。


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