NHKの数土文夫経営委員長が東京電力の社外取締役に就く人事が波紋を広げている。放送法の規定で兼職は問題ないとされるが、公共放送の経営トップが東電の経営に携わることを疑問視する声があるためだ。22日に記者会見した数土氏は「問題ない」と強調したが、実際に兼職するかは2週間後に開く次回委員会後に判断すると、結論を先送りした。
■放送法では禁止せず
「番組に影響は出ない」。会見で数土氏は東電の下河辺和彦次期会長から就任要請を受けた経緯を明かした上で、兼職についての考えを示した。
放送法はNHKと利害関係が生じる可能性のある企業や団体に所属する人材が経営委員に就くことを禁止している。電力会社は対象に含まれていないため、川端達夫総務相や枝野幸男経済産業相らは数土氏の兼職を「問題なし」としている。
しかし自民党総務部会は「兼職は報道の中立性を損ねかねない」とし、数土氏の国会招致を検討。NHK職員が加入する日本放送労働組合も社外取締役就任に反対する声明を発表した。
数土 文夫 | NHK経営委員長、 JFEホールディングス相談役 |
藤森 義明 | 住生活グループ社長 |
小林 喜光 | 三菱ケミカルホールディングス社長 |
能見 公一 | 産業革新機構社長 |
樫谷 隆夫 | 公認会計士 |
2007年に成立した改正放送法ではNHKの経営委員について、個別の放送番組の編集に関わることはできないとの規定が盛り込まれた。
しかし同年、経営委員長に就いた古森重隆富士フイルムホールディングス社長がNHKの国際放送について、「外国向けの国際放送では政府の主張を優先すべきだ」と発言。選挙期間中の報道のについても自身の考え方を述べ、「番組編成への介入だ」と批判を招いたことがある。中立性を問う声が出るのは、こうした経緯があるためだ。
「数土氏が東電の社外取締役に就けば、電力料金の値上げや原子力発電所の再稼働などの報道で影響が出ていると疑われかねない」とNHK幹部は言う。これに対して数土氏は「NHKは企業統制が効いている。経営委員長は番組編成には干渉できない」と反論した。
NHKは東電の社債約132億円を保有している。経営委員会はNHKの最高意思決定機関。経営方針や予算などを議決する権限を持つため、利害関係が生じるとの見方もある。数土氏は会見で「(社債の扱いなど)予算をどう使うかは執行部が担っており、経営委員会として権限がない」と指摘した。
■来月に結論持ち越し
同日開かれた経営委員会には2人が欠席。「意見を述べ合うなら、次回の委員会でやった方がいいという提案があった」として、兼職に関する結論は6月5日まで持ち越した。「十分考慮した上で私自身が最終判断する」と語った数土氏。兼職を決めるには一定の時間を置くべきとの判断をしたものとみられる。
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