【ワシントン】米原子力規制委員会(NRC)のグレゴリー・ヤツコ委員長が21日、突然辞任を発表した。同委員長は在任中、原子力業界や他のNRC委員との衝突で多難だった。
声明には辞任の理由が示されていない。同委員長は「米国民の安全を確保する努力を別の場で続けるのには、今が適切だと判断した」と述べた。
ホワイトハウスのスティーブンズ報道官によると、ホワイトハウスは早急に新委員長を任命する。ヤツコ委員長は、後任が決まり次第辞任すると述べている。
同委員長は在任中、原子力の安全性強化を主張し、原子力業界の一部をいら立たせていた。しかし、業界監視団体からは称賛を得ていた。業界は同委員長について、そもそも外部の人間で、安全問題へのアプローチが攻撃的過ぎると批判的だった。これに対し安全監視団体は、それまでのNRC歴代委員長が業界と親密過ぎるとみていた。また同委員長は他の4人のNRC委員と頻繁に衝突していた。NRCの監察官は同委員長がNRCの同僚をいじめており、NRCの安全任務を脅かしているとの疑いについて調査中だ。
同委員長はこの疑惑を否認している。同委員長は声明の中で、「在任中、NRCは連邦政府でのキャリアで最も働きやすかった部署の一つだ」と述べた。
昨年3月の福島第1原発の事故をきっかけに、同委員長と残りの委員4人との対立が深まり、新規の原子炉建設の認可をめぐる意見が合致しなかった。同委員長は福島の事故を受けて、NRCが将来設ける安全強化策にも従うと原発事業者が約束することを建設認可の条件とすべきだと主張した。
NRCは今年に入ってこれに関する採決を取り、事業者サザン・カンパニーによる原子炉建設を4対1で認めた。建設認可は米国で数十年ぶり。反対票を投じたのはヤツコ委員長だけだった。
辞任声明の中で、ヤツコ委員長は同僚に感謝の意を表し、NRCの最近の業績を列挙した。その中には東部海岸の地震や中西部の洪水後の原発一時閉鎖がある。
業界団体の米原子力エネルギー協会(NEI)のマービン・ファテル会長は、「われわれと同委員長は互いに共有する目標をどう達成するのが最善かをめぐって厳しく対立してきた」と述べた上で、「そのような状況であっても、彼とわれわれの間には常に対話の道が維持されていたし、彼は問題を丁寧に話し合う姿勢を示していた。これは称賛できる」と述べた。
NRCによるサザン・カンパニー原子炉認可に反対する団体を率いて訴訟しているダイアン・カラン弁護士は、ヤツコ委員長が「安全性に関する真の提唱者だ」と述べ、たった1人で反対することが多かったとしても、委員会から彼の意見が聞けなくなるのは惜しいと述べた。同弁護士は「裁判所というものはNRCに従う傾向がある」と述べ、「『これが法の求めるところだ』と積極的に主張するNRC委員が少なくとも1人いることが不可欠だ」と語った。
ヤツコ委員長は2005年にブッシュ前大統領によってNRC委員に、09年にオバマ大統領によって委員長に任命された。
NRCを監視する上院委員会に属す共和党トップのジェームズ・インホフ上院議員(オクラホマ州)は、ヤツコ委員長の辞任が「正しい」と指摘し、「辞任により、NRCはヤツコ氏の不適切な行動という障害なしに、安全の任務に集中することが可能になる」と述べた。
これに対し、かつてヤツコ氏をスタッフとして雇っていた民主党のエド・マーキー下院議員(マサチューセッツ州)は、ヤツコ氏が「厳格な安全規制に反対する原子力業界の最も頑強な連中との戦いをリードした」と指摘し、「NRCの安全担当スタッフが推奨する安全面の改善策をたった一人で支持していた」と称賛した。
ヤツコ氏は議会スタッフ時代、マーキー議員のほか、同じく民主党のハリー・リード上院議員(ネバダ州)にも仕えた。リード議員は長年、地元ネバダ州にある核廃棄物処分場の建設計画中止を優先課題にしていた。
ヤツコ氏はNRC委員長に就任後、この処分場をめぐるNRC作業を中止した。これをきっかけに、議会内で敵をつくり、同氏を批判する人々の疑惑を招いた。2011年の監査官のリポートは、ヤッコ委員長が合法的に委員の過半数票を集め、建設プログラムへの資金を撤回したとしながらも、他の委員の支持取り付けのため、情報を選択的にして委員たちに提供しない情報があったと述べた。
福島第1原発事故が発生した昨年3月以降、これに対して米国がどう対応するかをめぐり同委員長と他の4人の委員との関係が悪化した。ヤツコ委員長は、新しい規制について厳しい期限を設け、NRCの専門スタッフからの勧告を事実上すべて採用するようNRCを説得しようとした。他の委員はスタッフの勧告を検討する時間的余裕を求め、スタッフの勧告と逸脱することも辞さない態度だった。
こうした中で昨年10月、NRC委員4人が当時のホワイトハウスのデーリー首席補佐官(当時)に異例の書簡を送り、「ヤツコ委員長がNRCの上級スタッフを脅したり、いじめたりしており、冷え切った職場環境になっている」などと訴え、話題になった。
その後開催された議会の公聴会で、委員4人のうちの1人であるウィリアム・マグウッド委員は、ヤツコ氏が女性スタッフを口汚くののしったことがあると暴露した。ヤツコ氏はいじめの事実はないと否定し、NRCをより透明性のある機関にしようと努力しただけだと反論していた。