【亀岡暴走1カ月】「あの事故さえなければ」 けがの姉妹の父、寺口さん
2012.5.22 20:50更新
京都府亀岡市で集団登校中の小学生ら10人が軽乗用車にはねられ死傷した事故で、重傷を負った寺口結(ゆい)菜(な)さん(10)と軽傷だった歩(あゆ)璃(り)さん(8)姉妹のけがが、順調に回復しつつある。発生から1カ月となる23日を前に、結菜さんが退院。ようやく自宅に戻り安心して眠る姉妹を見て、父の賢司さん(42)は安堵した。それでも、後遺症や心の傷を思うと不安は募る。「喜びなんてない」。事故前の日常はまだ戻らない。
結菜さんが退院し、親類宅に預けられていた歩璃さんと一緒に自宅に帰ってきたのは19日。賢司さんは2人が寄り添って眠る姿を見て、「寝相が悪いな」と苦笑した。
事故後、入院を続けていた結菜さんの病室を訪ねたとき、歩璃さんは姉のベッドに腰を下ろした。「狭いからあっちに行って」と結菜さん。「そっちこそ足がじゃまだよ」と歩璃さん。寂しがり屋の姉妹が、けんかともいえないじゃれ合いを始める。
あの日まで、姉妹は自宅の居間で仲良く並んで宿題をしていた。結菜さんが「こんなこともわからないの」と言うと、歩璃さんは「もういい」とすねた。
「元に戻っていけるのかな」。賢司さんはそう思う半面、いまの気持ちを「喜びとは違う」と考えている。起こるべきではないことが起き、当たり前のようにあった幸せが奪われたのは揺るぎない事実だからだ。
首の骨を折るなどした結菜さんは、首の神経を守る膜が薄くなり、首の骨も元通りにならないと医師に宣告された。「麻痺が残ることはないと言われたが、将来なにか後遺症を抱えるのではないか」と賢司さんは案じる。
家族がそろうときに見せる明るさの裏側で、小さな胸の内が傷ついているのではないか、とも思う。
仲良しだった小谷真緒さん(7)が亡くなったことを、賢司さんは結菜さんに伝えられないでいる。ノートになわとびをする絵と「早くみんなと体いくをしたい」と書くほど学校が好きだった歩璃さんも、「学校に行きたい」とは一度も言い出さない。
「あの事故さえなければ、みんな穏やかに過ごせていたんだ」
賢司さんは結菜さんが歩璃さんの手を取って再び学校に通う日が来ると信じている。完全には戻れなくても、事故前のような生活に少しでも近づければ…。そう願っている。