上杉隆が暴走しています。
ダイヤモンド・オンラインのコラム(「ワールドカップ敗退で歓喜している国に、ベスト4など永遠に無理な話だ」「メディアの成長なくして、やはりW杯4強の夢は遠い」)のことです。
主張を簡単にまとめると、こんな感じですか。
「メディアがベスト16で感動をありがとう、などというお涙頂戴はダメだ。メディアは試合について、なぜ勝てなかったのかについて解説し、ベスト4という当初の目標を達成できなかったことについて、日本代表チームを批判しなければならない」
うーん、
この主張は、たとえば安全保障の話をしているときに、
「兵器がどうとか戦略とか戦力均衡とか、戦争が起こることを前提に話をしてるじゃないか!戦争をするつもりの人間が、平和を達成できるわけがない。本来の目的である、平和を目指していないのだから」
と言ってるのと同じレベルです。
つまり、無邪気というか、大まかに見ると完全な間違いではないのですが、前提となるべき知識や現状認識が全くといっていいほどないので、何も言っていないに等しいのです。
以下、詳しく見ていきましょう。
知らない人はこれで騙されちゃうんだろうなあ
94年の「ドーハの悲劇」からの4年間、日本のサッカー界は、確かに自己鍛錬の精神を保ち続けていた。
まずこれがおかしい。
あの試合、イラク戦は悲劇でもなんでもなく、日本が弱い、あるいは出来が悪かったから勝ち切ることができなかった試合でした。
つまり、あの頃から主要メディアはお涙頂戴だったわけですが、後述するように、そんな中でも、試合評をきちんとできたメディアは存在しました。
私自身は、審判のおまけでも何でもいいからとにかくワールドカップに行って欲しかったので、あの結末はまさに「悲劇」でしたが、「アメリカ大会予選の日本はワールドカップに出場するに値しないチームだった」と言われたら、悔しいけど認めるしかありません。
ジョホールバルでの「安っぽい歓喜」報道
98年のW杯予選最終戦、そのとき日本のサッカージャーナリズムが機能していたとは言いがたい
W杯出場の決まった夜とその翌日、日本のほとんどのメディアは、「野人」こと岡野雅行の決勝ゴールばかりを持ち上げ、本来の功労者である中田英寿の活躍をあまり気に留めない、という信じがたい報道を行った。
実況のアナウンサーが「岡野、岡野、岡野―」と絶叫したあたりから、どうも様子がおかしくなった。案の上、翌日の新聞やニュース番組ではその岡野ばかりにスポットが当たる報道が始まった。
あの場面で、決めた岡野の名前を連呼するのは当然だし、翌日の新聞の一面が、ゴールを決めてベンチに凄い顔して走ってくる岡野になるのも当たり前です。
それとは別に、あの試合での中田英の活躍はきちんと評価されていましたよ。
元サッカー少年としては、その日のことは決して忘れられない。
私にとってのワールドカップ初体験は1982年のスペイン大会だった。中学のサッカー部に所属していた当時、
こういう、門外漢は黙れという批判に対抗するだけのための、無駄な記述はいらない。
実は、その日、中盤でボールを支配し続けたのは紛れもなくMFの中田であった
どう考えてもその試合のMVPは中田英寿、その人であった
当時のメディアには、まだ中田のプレーを正当に評価する力は存在していなかったようだ
だから、フジテレビも試合直後に中田にインタビューしてたじゃん。
会見じゃなくて、本当に試合直後にピッチのすぐ外でね。
あの試合以後、サッカーファンのみならず一般人の間でもスターになったのは間違いなく中田英。岡野ではない。
「クール」などと評され、プレイのみならずその言動・ファッションまでがひとつの社会現象になったと言ってもいいくらい。
『anan
岡野はCF出演を果たすなど「英雄」に仕立て上げられ続けた。日本サッカー界のヒーローの椅子は、しばらくの間、その「野人!」が占めることになった
もうメチャクチャだこいつ。
よくこんなウソが書けたもんだ。
岡野が出たCMって、デカビタでしょ?カズや城と一緒に出てたやつ
まさか、アコムの
「決めたー、最後は野獣ー。ついに、ついに、ギャラクシーカップー」
というCMのことを言ってるわけじゃあるまい。それに、あのCMに岡野は出てないし。
オープラスっていう、今でいうサプリメントドリンク?のCM覚えてないかな。
それ以前にも、中田英は前園と一緒にインスタントラーメン・ラ王のCMに出ています。
五輪代表として、28年ぶりとなる96年のアトランタ五輪の出場に貢献し、「メダルより図書券が欲しい」などとよく分からない発言をしていた中田英は、ジョホールバル以前から、サッカー選手のなかでは一般人にも割と知られている存在なのでした。
日本のサッカージャーナリズムの「存在」を知らない上杉隆
ここからが本題です。
イタリア・セリエAでは、スポーツ紙の「ガセッタ・デロ・スポルト」が国際大会だけではなく、通常のリーグ戦についても、ひとりひとりの選手の出来を数値で評価する。
4.5、6.0……、それによって選手は反省し、発奮し、場合によっては怒り、実力もついていくという側面があることは否定できない。
ワールドカップのベスト4に入ってくるような国では、ほとんどのメディアがこのような厳しいサッカー観を持ち、それが当然のごとく受け入れられている。
日本のメディアもやってるんだけど。
読売新聞の採点は結構おかしいから気にしてないけど、「サッカーダイジェスト」「サッカーマガジン」はJリーグ、代表の国際試合、「ダイジェスト」「マガジン」の国際版である「ワールドサッカーダイジェスト」「ワールドサッカーマガジン」は、海外の試合についてちゃんと採点してますよ。
そもそも、中学時代サッカー部なら、「ダイジェスト」や「マガジン」の存在くらい知ってるでしょ。自分たちや対戦相手が載ることだってあるわけだし。
現に、今回のパラグアイ戦の後でも、日本代表でロシアのチームで活躍する本田圭祐は、たぶんに皮肉も込めて「批判をしてくれた人に感謝したい」と言い切った。サッカーの盛んな国では「批判こそが情報」として受け留める訓練がされているのだろう。
違う違う(笑)。恥ずかしくないのかね、こんなこと書いて
上杉の主張で正しい部分があるとすれば
「ワイドショーをはじめテレビ、新聞など、マスコミのサッカー報道はレベルが低い」
というものです。
正確に言うと、地上波民放、スポーツ新聞のサッカー報道のレベルは低い、といったところでしょうか。全国紙の運動面は△かな。
サッカーファンは、既に一般的なマスコミから試合やプレーの解説等で質の高い情報が得られるとは期待しておらず、中継はスカイパーフェクTV(スカパー)、活字メディアは「サッカーダイジェスト」「サッカーマガジン」等の専門誌に頼っています。
前述の「ドーハの悲劇」についても、「弱いから負けた」と伝えたのもこの辺のメディアです。
そういったメディアに能動的にアクセスしないと、まともなサッカーの情報は得られない。
日本は残念ながら、サッカー報道においてはそういう国です。
そう、メディアを選別して、能動的にサッカー情報にアクセスしないとダメなんです。
読売新聞の勧誘はどこの家にもしつこいくらい来るけど、サッカーマガジンの勧誘が来ることはないし。
上杉はラジオで、解説ではなくほとんど応援しかしない松木安太郎を批判したそうですが、これもおかしな話です。
松木が酒場のオッサンみたいな応援しかしてない中継って、テレビ朝日でしょ?
あれは視聴者のレベルに合わせてるんですよ。
新世紀メディア論−新聞・雑誌が死ぬ前にでも書きましたが、局側が視聴者として、相当なバカを想定して中継やってますから。
松木がスカパーで解説やれば、ちゃんとまともに話します。
少なくとも、NHKの特番では、普通にサッカーの話してましたよ。
サッカーの戦術を解説させたらこの人:西部謙司
もし、日本のマスコミのサッカー報道のレベルを上げようと本気で思うなら、まずは上杉隆レベルの輩にはサッカーを語らせないことから始めるべきでしょう。
2002年、日本で開催されたワールドカップの時も、「サッカーでフィジカル、フィジカルってよく言うけど、ボールを上手く扱うのもフィジカルだろ?」とか、個vs組織のくだらない日本文化論とか、普段サッカーを観てない論者のピント外れの評論がメディアには溢れていたのでした。
結局、伝える側であるマスコミがサッカーをよく分かっていないので、ああいうおかしなスタンスになるのでしょう。
ベスト4という目標を達成できなかったことを批判?
サッカーというスポーツを本当に愛し、日本チームのことを思う者であるならば、敗退した日本代表と、ベスト8に残った上位国の代表のプレーにどのような違いがあるのかを知りたいはずであろう。まさしくそれを知ることが今回の日本の敗因を分析する最大のチャンスにもなるのだ
残念ながら、日本のメディアでは、すでに今回の南ア大会は終わったかのような扱いになっている。
いつものことではあるがが、大会から日本チームや日本人選手が消えれば、それで取材も事実上、終わってしまうのである。
それは、ファンにもいえる。真のサッカーファンであるならば、今後、見られるであろうスーパープレーの数々に、期待で胸をときめかせるのが普通である。
日本代表が敗れたからといってサッカー観戦をやめるのは、それは「サッカーファン」ではなく、単に「日本人ファン」に過ぎない。
同じこと、ブラジル人にも言ってこいよ(笑)
イタリア人でもいい。
自国が敗退した、すべてのサッカー強豪国のファンに言ってこい。
ちなみに02年の日韓大会の時は、オランダでは、まるでワールドカップなど開催していないかのようにファンもマスコミも大人しかったのでした。
上杉の「普通」は、少なくとも日本以外の国では普通ではないのです。
善戦したとはいうものの、自ら目指した目標に到達しえなかったのは間違いない。それならば、なぜそうした結果に終わってしまったのか、という点をサッカージャーナリズムは分析しないのか
今回の日本代表についての報道は「感動をありがとう」で正解なんです。
ワールドカップしか見ない人にとっては、大会前あれだけボロクソに言われてたチームが予想外の活躍をして、しかも自国開催以外では初の決勝トーナメント進出を果たしたわけだから「日本よよくやった。あっぱれ」という感想が自然でしょう。
他方、普段からサッカーを見ていて、代表チームをずっと見守ってきたサッカーファンにとっても、今の選手の力からいって、誰が監督で、どう戦ったところでこれ以上の結果は望めないのは分かっていますから。力を出し切った、という評価になります。
もともとベスト4なんて、最善を尽くしたところで到達可能な目標ではなかったですから。
目標設定からして、すごくおかしかったんです。むしろメディアが批判するとしたらそこですよ。
やる前から、できるわけがないのを分かっていたのに、後から批判してもしょうがないでしょう。この辺も、上杉の感覚はあまりに現実離れしています。
確かにオシムの言うように、トーナメント1回戦の相手、グループリーグを1位で抜けてきた相手が優勝候補のシード国ではなく、パラグアイだったのはラッキーでした。イタリアが大コケしましたからね。こんなチャンスはめったにありません。
が、今の日本では、そのパラグアイにすら勝つのは難しいのです。
オシムの「勇気を持て」、中田英の「日本は力を出し切ってない」が具体的にどういう意味なのかは知りません。もっと攻撃的に行くべきだった、という意味でしょうか。
しかし少なくとも、岡田監督は選手交代で攻撃的にチームをシフトし、90分か120分かは知りませんが、ゴールして勝つための戦い方はしていました。
中村憲、岡崎、玉田といった、かつての岡田ジャパンでよく試合に出ていた交代選手が果敢に攻めたものの、結局ゴールを奪えなかったのは、戦い方の問題ではなく、力の限界です。
「ああ、やっぱりいつもの日本だな」としか思えなかったです。
日本代表の各選手が言っていたように、日本が今後ワールドカップでベスト8以上の成績を狙うなら、個々の選手がレベルアップするしかないのです。
もしくは、今の代表選手を追い抜くくらいの凄い選手が出てこないと。
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つまり、普段サッカーを見ない一般人、サッカーファン、どちらにとっても、結論は「よく頑張った。胸を張って日本に帰ってこい」で正解なのです。
ワールドカップが終わった後、日本代表を含め大会の総括が見たいという方は、「サッカーダイジェスト」「サッカーマガジン」が毎回、大会後に出す決算号がおすすめです。
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