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大飯再稼働の政治 - 野田佳彦の強気と橋下徹の奸計
再稼働の政治の正念場というのは、繰り返し何度も訪れる。政権と官僚が再稼働を画策しては失敗し、先送りにし、そして満を持して再び強行突破を図ってくる。その都度、市民の抵抗と世論の反撃によって潰え、再稼働の正当性は否定されてきた。昨夏は九州が騒動の舞台となり、やらせが発覚して玄海再稼働の策謀は阻止された。今年は関西が政治の焦点になっている。仙谷由人に丸投げして、4月に大飯再稼働を目論んだ政権は、それに失敗し、野田佳彦自らが陣頭指揮を執る事態となり、NHK-NW9に出演して再稼働を断行すると宣告した。身の程を知って二兎を追うのを止め、消費税一本に獲物を絞ったかに見えた野田佳彦だが、官僚と財界に突き上げられたのか、原子力村を守るべく、重い腰を上げる出番を覚悟したようだ。これからまた暫く、再稼働をめぐる熾烈な攻防戦が続く。少なくとも3週間、新聞もテレビもこの報道で明け暮れるだろう。当然のことだが、大越健介がこの話題を番組の冒頭に持ってきたことは、事前のシナリオが組まれていて、再稼働の意思表明が最も重要なメッセージだったからである。台本の存在が明白なのは、話の途中で(橋下徹などの)編集映像が挿入されたり、井上あさひがフリップを用意していた細工で誰でも分かる。NHKは政府の御用放送局だ。


番組では消費税政局の話もあったが、新聞社はすぐに再稼働宣告を記事にしてネットで配信した。新聞社に対して事前に予告と指示がされていたのに違いない。そして、即座に細野豪志を派遣して(5/19)関西広域連合の会議を組んでいる。次は福井県の専門委の最終報告とそれを受けての西川一誠の最終判断であり、再稼働へ向けて着々と工程を進めている。時岡忍と西川一誠の不満は、政府が本腰を入れて再稼働を主導せず、地元自治体の判断に政治責任を押しつけているというもので、脱原発の多数世論からの批判が福井県や大飯町に集中しするのは困るから、政府が再稼働を引っ張る姿勢を見せよと要求していた。野田佳彦のNHKでの再稼働宣告は、時岡忍と西川一誠のリクエストに応えたもので、二人が今月末に再稼働容認の発表を出しやすいよう環境を整えた意味がある。土日の反響を注意して見守ったが、朝日が翌日(5/19)の社説で「大飯原発-再稼働はあきらめよ」と反論、野田佳彦の出鼻を挫く一撃を発した。TBSのサンデーモーニング(5/20)でも、岸井成格が「国民の信頼を得られない」と、再稼働に否定的なコメントを発している。NHKを使った野田佳彦の急襲は衝撃だったが、マスコミからカウンターが入り、影響を稀釈された形勢になっている。朝日は本日(5/21)の朝刊で世論調査を掲載、1面に「大飯再稼働『反対』54%」「安全策『信頼せぬ』78%」の見出しを並べた。

朝日の世論調査でも、毎日の世論調査でも、再稼働に賛成は反対の半分しかない。勢力比は2対1である。少数派である原発推進派からすれば、原発ゼロで夏を超えられるかもしれない現在は、まさに生死を境する正念場だろう。原発推進派の恐怖と不安は察するに余りある。もし、原発ゼロで最大需要期の夏場を乗り切れば、原発が不要だと事実で検証され確認されたことになり、再稼働する根拠と理由を完全に失ってしまう。原発なしでも電力需給の逼迫はないと言ってきた脱原発派の主張の正当性が証明され、確定する。政府が関電管内に15%の節電を求めたのは、「電力不足」のアリバイ工作であり、節電したから需給逼迫を回避できたと理由づけるための政治だ。だが、4月の大飯再稼働が失敗した後に急造された「需給検証委員会」では、関電の「電力不足は」25%→19%→15%とネコの目のように変わり、数字の妥当性と信憑性を大いに怪しむ粗雑で拙速な試算作業だった。「需給検証委員会」は、「専門家による第三者委」と銘打ちながら、委員長は内閣府副大臣の石田勝之で、副委員長は経産副大臣の牧野聖修、実務を指揮しているのは松村敏弘。どこから見ても官僚のお手盛り報告を出すための、その場凌ぎの工作機関である正体は見え透いている。この需給検証委の報告が出て、政府(エネルギー環境会議と関係閣僚の合同会合)が正式に関西の節電対策を15%と決定したのが5/14だった。

ところが、その翌日(5/15)には、府市エネルギー戦略会議に出席した関電副社長の岩根茂樹が、電力不足は5%にまで低減可能だと証言、その映像がテレビ報道で全国に放送され、前日(5/14)の政府のコミットは意味のないものになった。需給委員会の予測では、東電管内は供給予備率が+4.0%と試算され、節電対策の対象になっていない。ここで、2か月前の3/26の産経の記事に注目しよう。柏崎刈羽の6号機が定期検査に入り、東電の原発が全て停止になった際の報道である。次のように書いている。「東電の保有原発17基が停止するのは、原発設備のデータ改竄問題を受けた平成15年春以来。東電は原発なしで今夏の電力需給を乗り切る計画だが、最大13%超の電力不足になる可能性がある」。わずか2か月前の記事だ。原発推進派の産経だから供給不足を強調しているのではなく、当時のマスコミは概ねこのような報道で夏の電力不足の不安を煽っていた。煽ってはいたが、電力会社と経産官僚が表に出す数字は嘘ばかりなので、この「東電-13%」の情報についても、真に受けて焦る者は少なかった。事実として、-13%だった東電の需給予測が、2か月弱で+4%となった。差分17%。そして関電の需給予測は、-25%→-19%→-15%→-5%と一気に低減して行った。国民の多くは、関電が他社と較べてタイトな事情は納得しながら、再稼働しなければ電力不足に陥るという認識を持っていない。信用していない。

今回、野田佳彦が再稼働に強気に出たのは、背景に何があるのだろうか。勝算なく虚勢を張っているのではあるまい。4月の時点で、仙谷由人に丸投げした挙げ句に先送りしたときは、明らかに野田佳彦の消極姿勢が顕著で、二兎を追うリスクを恐がった気配が漂っていた。一兎である消費税増税にフォーカスしたというシグナルとして受け止められた。そこから逆算して推測するなら、おそらく一兎の方はシューティングの目途がついたのだ。すなわち、自民党との間での裏交渉が妥結して、消費税増税法案を可決させる見通しが立ったのだろう。①最低保障年金の撤回、②0増5減、③小沢切り、④話し合い解散、を条件に法案成立の密約ができたという裏に違いない。本命の一兎を首尾よく仕留めたため、二兎目の方に銃口を向けて照準を合わせ始めた。動き始めた特別委員会の審議は、単に採決までに必要な時間稼ぎの消化試合であり、質疑と答弁は役者が台詞を読む茶番劇であって、二党で結論は出ている。国会の進行を報道するマスコミは、徐々に、衝撃と抵抗を殺ぐよう工夫を凝らしつつ、国民に真相を明かしていくだろう。消費税増税も原発再稼働も、それを強行する側(支配層)からすれば、言わば汚れ役の仕事であり、死に体寸前の野田佳彦に押しつけて、最終処分させたいのである。選挙で政権を狙う自民党も、次の新代表を目論む前原誠司も、悪役になって難題を引き受けるのは御免で、早く始末したいのが本音だ。

もう一つ、野田佳彦が再稼働で強気な理由は、自民党との消費税密約だけでなく、この問題の最大障害物である橋下徹とも水面下で妥協ができたからだろう。橋下徹の当初の再稼働への姿勢は、民主党政権を大上段に批判し、「原発再稼働に関する8条件」を提示して、早期の再稼働に反対の立場でマスコミの前で騒いでいた。8条件には、「原発から100キロ圏内の都道府県と安全協定を締結」とか、「新体制のもとで安全基準を根本から作り直す」などの項目が列挙、それを政府が認めれば今夏の再稼働は不可能となるものだ。ただし、この8条件の発表と同時に、橋下徹は「こんなもの政府は無視すればいい」「国民が選挙で判断すればいい」と言い出し、政府の再稼働を拘束する条件要求としての意味を自ら否定、将来の変節時の弁解を含んだ布石として、単なる選挙の宣伝材料だと意味をスリカエる詭弁を吐いていた。その時点で、橋下徹に本気で再稼働を阻止する意思がなく、人気取りのパフォーマンスである点は明瞭だったが、その後も時間の経過と共に方針を二転三転させ、再稼働がない場合は増税も検討するだとか、電力制限を一度は経験してみればいいなどと、関電と政府の側にスリ寄る態度を際立たせていた。そして遂に、5/19の関西広域連合の会議で、1-3か月の臨時稼働を公言するに至ったのである。この提案は、いつもの橋下徹の思いつきには違いないが、同時に、政権との間で事前に取り決めていた口上だとも推測できる。

再稼働の政治における最大の障害物だった橋下徹が、「再稼働反対」から「期間限定稼働」に立場を変えてくれれば、「周辺自治体も理解が深まった」という環境になり、西川一誠は再稼働容認の発表が容易になる。詭弁の暴走でここまで来た橋下徹だが、原発問題での変節は支持率に悪影響をもたらすだろう。5/19の関西広域連合の会議のニュースで、少し奇妙に感じたのは、首長の中で最も再稼働に反対であるはずの嘉田由紀子の姿がなかったことである。所用で日程が埋まっていたのだろうか。とすれば、マスコミのカメラの放列が並んだこの会議は、相当に慌ただしく召集されたものだという事情が窺える。が、それにしても、多忙の程度なら橋下徹の方が嘉田由紀子よりも上だろう。邪推かもしれないが、橋下徹と政府が謀って、強硬な反対論の場面が出ないよう、嘉田由紀子を意図的に外したのではないか。マスコミ報道に橋下徹の「期間限定稼働」をクローズアップさせ、さもこれが関西首長の共通の対案であるかのように一般に印象づけようとした政治工作の疑いがある。いずれにしても、勝負はあと1か月で決着する。この夏を再稼働なしで越すか、原発の発電依存に逆戻りするか、二つに一つの政治の結果が出る。今夏の再稼働を阻止すれば、日本はドイツやイタリアよりも早く脱原発を達成する。私は、Twitterにも書いたが、一刻も早く原発問題をターミネイトさせ、産業や雇用の問題に集中する政治に切り換えたいと願う。原発にばかり注力するのは国民のエネルギーのロスだ。

他にも深刻な問題が山積している。ここで再稼働を阻止し、原発の電力と手を切り、延々と長く続いた原発論議の日々に終止符を打とう。


by thessalonike5 | 2012-05-21 23:30 | Trackback | Comments(0)
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