角川書店や幻冬舎などで20年以上にわたってバリバリ働き、数々のベストセラーを世に送り出してきた敏腕女性編集者、山口ミルコ。結婚や出産といった生き方を選ばずに、仕事一筋の生活をしてきた彼女が、ある日突然ガンを宣告された……。出版業界の最前線から一転して、突然の闘病生活を強いられた記録が『毛のない生活』(ミシマ社)である。
幻冬舎の名物編集者・見城徹氏の下で20年間を激務に費やし、フリーランスとして新たな人生を歩もうとした彼女に、医師は無情にも「乳ガンがリンパ節に転移している」と告げる。まだ44歳。これからという時期に、彼女の生活は一変した。腫瘍切除手術や放射線治療を行いながら、ガン闘病記や気功をもとにした健康法である野口整体の本、江戸時代に記された『養生訓』まで、さまざまな健康本を読み耽る山口。それまで気を使っていなかった食事でも、肉食を断ち、マクロビオティック中心の食生活に切り替えた。飲酒、禁煙はもちろん、化粧品や洗剤に含まれる化学物質にまで気を使う闘病の日々。
本書のハイライトといえるのが、彼女が最も恐れていた抗ガン剤治療の日々だ。抗ガン剤は、ガン細胞も良性細胞も、あらゆる細胞を一緒くたに打ちのめし、良い細胞だけを再び立ち上がらせる。その効果は絶大だが、同時に強烈な吐き気に悩まされ、食事を摂ることもできない。突然汗をかいたかと思えば、悪寒が走ったりと、「ジェットコースターみたい」な副作用に苦しめられる。山口も、吐き気や便秘、白血球低下などの症状に襲われた。そして、抗ガン剤投与から14日目、いよいよ脱毛の症状が現れ始めた。ユニクロで1,500円で買ったニットキャップと共に「毛のない生活」が始まる……。
「いかに苦しい思いをしたか」あるいは「どのようにして病気を乗り越えたか」といった闘病記としては、本書はあまり役に立たない。しかし、ガンによって変わった生活に対する意識や、身体に対する感覚、そして世界を捉える視線は、ガンという絶望を体験したモノにしかわからないものだろう。編集者時代の激務から一転、静かな生活を送る山口は、落ち着いた口調でこれまでの生活に対する反省を語り、ささやかだがとても大切な発見を繰り返していく。
「部屋を意味なくウロウロし、作り付けのクローゼットを開けてみる。
ぎゃあ。私が二十年かけて溜め込んだ衣類のなだれにおしつぶされそうになる。
もう私はキャリアウーマンではないのだから、こんなに服はいらないぞ。
着ていく場所もなければ髪もない。
(略)
まぼろしだったなあ。
すべて終わったことだ、と扉を閉じる」
「我が家に積まれた本の山を眺めながら、成長、拡大、増殖のメッセージはもうたくさんだと思えてくる。
いっそのこと。『小さくなる』のはどうだろう?
焦ってはいけない。
自分の小ささを知る。
そして究める」
本書は、ガンに苦しむ人々ではなく、かつての著者がそうだったような、健康に甘えて身体に無理をさせ、多忙な毎日を送る人々こそが読む一冊ではないだろうか。ガン患者の視線を通して見るこの社会は、とても“不健康”で不可解に思えてくる。
●やまぐち・みるこ
1965年東京都生まれ。角川書店雑誌編集部を経て94年2月、幻冬舎へ。プロデューサー、編集者として、文芸から芸能まで幅広いジャンルの書籍を担当し、数々のベストセラーを世に送る。2009年3月に幻冬舎退社後はフリーランスに。クラリネットとサックスを吹き、ジャズ・吹奏楽関連の執筆や演奏活動もしている。
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ある日突然のガン宣告……敏腕編集者の闘病記『毛のない生活』
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