出来上がったジャケットは、いつものクラシックとは一線を画す、今の流行を取り入れた、モダンなタイプでした。着丈は短く、パッチポケットで、貝ボタン、肘には流行のエルボーパッチまで付いています。ピッティを歩いているオッサンたちが、いま一番着ているタイプです。ジャケットのスタイルとしては、よく見ると、ポケットの上部が円弧を描いていたりして、ディテールへの遊び心も満載です。
「こういうのもできるんだ」と感想を言うと、
「今っぽいでしょ? 本当は革のパッチにしようかと思ったんだけど、ちょっとやりすぎかなぁ、と思ってね」
と余裕のコメント。
なるほど、トラディショナルの守護者も、今のトレンドはしっかりおさえているようです。
肩から背中へのフィット感や、キレイに絞り込まれたウエストは、オーダーメイドならでは。袖付けのあたりを見る人が見れば、一目でハンドだとわかります。
一度でもオーダー品を試したことがある方ならわかっていただけると思うのですが、その着心地は、プレタとは相当違います。極端にいうと、肩を洋服に掴まれているような感じなのです。最初は戸惑いますが、肩周りがカチッとはまる快感は、慣れると病みつきになります。
トレンドと巧みの技がうまくミックスされた、実にお洒落な一着ができました。