'99/2月記事
穀類に魚に緑茶、「米国版長寿食」に日本の伝統食

日本の伝統食である大豆や魚が、「悪玉」コレステロールをさげ、心臓病の予防に役立つとして米国で注目されているが、そうした中、米国の有名紙「USA Today」が「病気を寄せつけない、免疫力を高め、長生きをするための10の食品」を取り上げた。いわば米国版「長寿食」のようなもの。戦後、日本は急速に欧米食へと傾倒していったが、こうした食の移行は明らかに心臓病や糖尿病、高血圧や肥満といった「生活習慣病」をもたらす要因となっている。「USA Today」では、日本の伝統食である穀類、魚、緑茶などを疾病予防に有益な食品として挙げているが、あらためて欧米化の進む日本の「食文化」を再考する必要がありそうだ。

未精白穀類、魚、果物・野菜中心の食事が免疫力を高め、長寿をもたらす

「USA Today」では「病気を寄せ付けず、免疫を高め、長生きするための10食品」について以下のような食材を取り上げている。ただし、あくまでも食材であり、日頃から食卓に添え、健康管理に務めることが必要。(※以下の記事は要約に(・)注釈を加えたもの)

1・ トマト

トマトはがんの危険性を40%減少させるという強力な抗酸化剤、リコペンを含む。また、高齢者の精神機能を向上し、心臓病の危険性を半分にする。

  • 今年、2/16日付けの「USA Today」でもトマト並びにトマト加工食品を多く摂ると数種類のがんに罹る危険性が減少すると報じている。これはJournal of the National Cancer Institute誌に掲載された研究報告を紹介したもの。
    それによると、ハーバード大学研究者グループが、過去に行われた研究72件を分析し、トマトやトマト加工食品の摂取と様々ながんとの関連性を調べたところ、57件が関連、そのうちの35件が強い関連を示したという。またがんの中でも、肺がん、前立腺がん、胃がんの危険性低下に強い関連があると指摘。理由として、リコペンなど細胞の酸化を守るカロチノイドがトマト製品には多く含まれていることを挙げている。 研究者によると、生、ケチャップ、スパゲッティ・ソース、トマトペーストなど、どのような形の摂取でも有効性はあるとしている。
2・オリーブオイル

心臓病やがん死率が低いといわれる地中海ダイエットで重要な役割を果たす。心臓発作を経験した患者で地中海ダイエットを行っている患者の死亡率は半分に減少したという研究報告もされている。これは、オリーブオイルの強い抗 酸化作用の影響であることを研究者は指摘している。

  • オリーブオイルについては、これまでに試験皿の中で行われた実験で、バクテリアのヘリコバクター・ピロリが原因となる潰瘍の成長を抑制した、という研究結果が報告されている。これは昨秋、ボストンで開かれた科学者会議「63rd Annual Scientific Meeting of the American College of Gastroenterology」の中で発表されたもので、多価不飽和脂肪が含まれているオリーブオイル、ひまわりオイル、魚油をバクテリアに加えたところ、繁殖が抑制されたという。ちなみに魚油の場合は培養皿で50%の抑制という。
3・グレープ(赤)

赤紫色のグレープジュースの抗酸化力はオレンジジュースやトマトジュースの4倍以上といわれる。赤ワインも同程度の有効性を持つ。

  • 赤ワインを飲むことにより、心臓病の危険性が低下することは世界的にも知られていることだが、赤ブドウのジュースでも同じような効果が得られるということが最近判っている。昨年11月に米国ダラスで開かれたAmerican Heart Association会議で発表された研究報告によると、ジョージタウン大学研究者グループが、グレープジュース溶液に混ぜた血小板と他の溶液に溶かし込んだ血小板とを比較したところ、グレープジュース溶液に混ぜ込んだ血小板の凝固率は、他のものに比べ30%低くなったという。また、グレープジュース溶液の血小板の方が、フリーラジカルの放出率が55%少なかったという。
  • 赤いグレープジュースを飲むと冠状動脈系疾患に罹る危険性が低下する。今年3月、こうした調査報告が、American College of Cardiology学会で発表されている。
    それによると、同ジュースの摂取が血小板の活動を抑制するという報告は昨年発表されているが、心臓病患者14人を調べた今回の研究によると、赤のグレープジュースを飲むことで「悪玉」コレステロール(LDL)の酸化が遅くなったという。 研究では、ジュースを毎日2週間にわたって飲みつづけた被験者の血液サンプルを調べた。
4・ナッツ

最近のハーバード大学の研究によると、ナッツ類を1週間に5オンス(約140g)以上食べると女性の心臓発作による死亡が40%減少するという。ナッツは脂肪が多いが、ほとんどは有用な脂肪といわれる一価不飽和脂肪並びにオメガ3。

  • ナッツ類をよく食べると心臓病の危険性や心臓病での死亡率が減少する。昨年11月、こうした研究報告がBritish Medical Journal誌に掲載されている。
    それによると、現在続行中の8万6千人以上の看護婦を対象にした調査、Nurses’ Health StudyをHarvard School of Public Health研究者グループが分析したところ、1週間に5オンス(約142g)以上ナッツ類を食べる被験者は全く食べない被験者に比べ、軽い心臓発作を起こす率が32%低下、心臓発作による死亡率が39%少ないことが分かったという。またナッツ類をよく口にする被験者ほど、健康的なライフスタイルを送る傾向にあることも分かったという。
5・未精白穀類

ミネソタ大学の新しい研究によると、未精白穀類を多く食べるほど、様々な疾患による死亡率を下げることができるという。1日に1種類以上の同穀類を食べる中年層の女性は精白された穀類を食べる女性に比べ死亡率が15%減少するといわれる。同食品は抗がん物質を含み、血糖も安定させる。

  • 未精白穀類を1日1杯食べれば、がん、心血管系疾患などの死亡率を低下させることができるという研究報告はAmerican Journal of Public Health3月号にも掲載されている。
    それによると、Iowa Women’s Health Study参加者のうち55歳から69歳までの3万8千740人を調べたところ、未精白穀類を摂取するほど被験者ほど病気に罹らない健康な生活が営める傾向にあったという。またミネソタ大学研究者グループが、未精白穀類を1日1杯以下から3杯以上摂取の範囲での健康状態を調べたところ、高齢者では少なくとも1日1杯食べれば、疾患からの死亡率が15%減少することがわかったという。
6・サケなど油の多い魚

オメガ3脂肪を多く含むことで知られる。同栄養素が不足すると、思考力が低下、また動脈が詰まり関節が炎症を起こすなど様々な健康問題が生じる。1日に1回あるいは1週間に2回は油の多い魚を食べるといい。

  • 油分の多い魚を余計に摂った場合、心臓発作の危険性が低下する。昨年10月、こうした研究報告がBritish Medical Journal誌に掲載されている。
    それによると、英国のウェールズ大学研究者グループが、心臓発作から回復した2千33人を対象に2年間調査したところ、週ごとに油分の多い魚を2皿ほど食べた場合は、死亡件数が29%減少したという。油分の多い魚に豊富に含まれているオメガ3脂肪酸が凝結を防ぎ、心臓の血液循環をリズミカルに保つと考えられている。
7・ブルーベリー

抗酸化剤がかなり多く入っている食品の一つ。タフツ大学の動物を使った研究によると、記憶力衰退など老化による変性を防ぐ働きをする。生を1日半カップほど摂るといい。

  • ブルーベリーは視覚機能改善素材としても日本でもよく知られるようになったが、米農務省(USDA)、Human Nutrition Center on Agingが最近行った研究で、果物や野菜40種のうち、抗酸化作用が最も顕著であるとして選ばれ ている。Eating Well誌(1999年1―2月号)ではブルーベリーを「フルーツ・オブ・ザ・イヤー」に指定している。
    1995年、イリノイ大学研究者グループが行った研究では、ワイルドブルーベリーやビルベリー(ヨーロッパ産の小粒のブルーベリー)などを含む数種の果物のエキスには、がん発症に関わる細胞の分割のスピードを早める酵素活動を阻害することが分かっている。
    また、Rutgers Research Centerとウィスコンシン大学研究者グループが現在、ブルーベリーの抗凝血力を調べる研究を行っているが、ブルーベリーの抗酸化力でLDL(「悪玉」コレステロール)の酸化を減り、動脈のプラーク蓄積や血小板の粘着質が低下し、結果的に心臓病が防げられると考えられているという。
8・ガーリック

抗がん、心臓病予防、さらに老化による疾患予防の働きをする抗酸化剤が多く詰まっている。がん患者の存命期間を5%長くすることが、ドイツの研究で分かっている。

  • 生のあるいは料理したガーリックを毎日食べると胃がんや結腸がんの危険性が低下する。今年4月、こうした報告がAmerican Association for Cancer Researchで発表されている。
    それによると、ノースカロライナ大学研究者グループが、総計10万人以上を対象にした研究17件を分析したところ、ガーリックを多く食べた被験者はあまり食べなかった被験者に比べ、胃がんの発生率が50%低かったという。また、結腸がんについては30%低かったという。研究者によると、1週間に18g食べると効果が現れるという。ガーリックの一塊は約3g。
  • 生ガーリックのがんへの有効性はこれまでの研究で指摘されているが、生なら半個、また料理したものなら4個半で有効性が現れるという研究報告が今年のNew Scientist並びにNutrition and Cancer誌5月号に掲載されている。
    それによると、がんに対する有効性を示す研究で、これまでガーリック中の二硫酸塩ジアリルが、がん誘発物質を払いのける酵素を生み出すことが指摘されていたが、ニュージーランドの研究者グループがラットに様々な投与量の二硫酸塩ジアリルを与えたところ、60%までで酵素の濃度が増えたという。つまり、体重1kgあたり二硫酸塩ジアリル0.075mgから0.3mgで効果が見られたという。これは、ヒト一般では半個にあたる。
9・ほうれん草

ガーリックに次いで強力な抗酸化作用を持つ。葉酸も豊富に含まれており、抗がん、心臓病予防、精神系疾患予防などの効力が期待される。生でも火を通したものでも効力は変わりない。

  • 昨年のThe Journal of Neuroscience10月1日号に、ほうれん草が老化による脳機能の衰退を遅らせることが判った、との研究報告が掲載されている。
    それによると、農務省支援によるラット実験で、毎日いちごを適量あるいはほうれん草サラダをかなり摂ったところ、老化による中枢神経組織の衰退や認識行動障害の予防、さらに神経変性障害の抑制に効果があったという。ラットには、いちご、ほうれん草、ビタミンE補助剤を配合した食事を毎日8ヶ月間与えた。
    研究者によると、老化で抗酸化剤が徐々に不足していくため、特に脳が活性酸素(フリーラジカル)で損傷を受けやすくなる。その点、いちごやほうれん草は抗酸化剤が豊富に含まれているという。
10・お茶(緑茶/紅茶)

専門家によると、緑茶でも紅茶でも含まれている抗酸化剤の量やその効力は同じだという。最近のハーバード大学の研究によると、1日に紅茶1杯飲むと心臓病の危険性が半分になるという。

  • 緑茶のカテキン成分の中でも特にEGCG(epigallocatechin-3-gallate)のメカニズムを指摘した研究成果が、昨年12月にサンフランシスコで開催された38回American Society for Cell Biologyで、Purdue Universityのドロシー・モーア、D・ジェームス・モーア両研究者により明らかにされている。両氏はEGCGががん細胞増殖に必要な酵素を抑制し、 健康細胞を傷つけずに培養がん細胞を殺すことを指摘、1日4杯以上の緑茶を飲むとがん細胞の増殖を抑制する成分を活性化できることを示した。
  • 紅茶を飲むと心臓発作の危険性が低下するといわれているが、今年のAmerican Journal of Epidemiology1月号によると、Harvard Medical Schoolの研究者らが、心臓発作を起こしたことのある患者340人と健康体340人を対象に、紅茶、コーヒー、カフェイン抜きのコーヒーの効果を調べたところ、紅茶を1日に1杯以上飲むグループは紅茶以外のグループに比べ、心臓発作を起こす危険性が46%低かったという。研究者は、紅茶に含まれる抗酸化剤、フラボノイドが「悪玉」コレステロール(LDL)の酸化を少なくしていると考えている。