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社会保障と税の一体改革の柱である消費税の増税には、さまざまな課題が残っている。最大の懸案は、所得の少ない人への対策だろう。
消費税は、家賃や医療費、学校の授業料など一部の例外を除き、モノやサービスへの支出に幅広くかかる。
所得の少ない世帯は食料品など生活必需品を中心に消費の割合が高く、家計に占める消費税の負担率は高所得の人より高い。いわゆる「逆進性」だ。
政府案の通り消費税率が14年4月に8%、15年10月には10%へと上がれば、問題は深刻になっていく。
与野党を問わず声が上がり始めたのが、軽減税率の導入だ。食料品などは増税の対象から除き、税率を5%にすえ置くべきだ、との主張である。
しかし、その長所と短所をあわせて考えると、軽減税率は消費税率を10%超に上げる必要が生じた時の課題とし、今回は別の対策をとるべきではないか。
■線引きの難しさ
軽減税率の長所は、わかりやすいことだ。食料品に適用すれば、所得の少ない世帯は確かに助かる。増税への反対が根強いだけに、メッセージとして伝わりやすい点が法案を審議する国会議員には魅力だろう。
だが、短所は少なくない。
まず、高所得世帯まで恩恵を受ける点だ。所得が高いと消費額は多いので、軽減税率で免れる税金も多くなる。
何を軽減税率の対象とするのか、線引きも簡単ではない。真っ先にあがるのは食料品だが、高級牛肉もキャビアも対象にするのか。外食はどうか。生活に不可欠という点では、電気やガス、水道、電話代もある……。
さまざまな業界から適用要望が相次ぐのは必至で、消費税収が大幅に目減りしかねない。
すでに軽減税率を導入している欧米諸国も、標準税率との線引きには頭を悩ませてきた。
「チョコレートはカカオの含有率が50%以上か未満か」(仏)、「ハンバーガーは店内で食べるか持ち帰りか」(独)、「ドーナツは5個以下か6個以上か」(加)といった具合だ。いずれも前者は標準税率、後者が軽減税率である。
政府税制調査会によると、欧州連合(EU)各国の付加価値税(日本の消費税に相当)の税率を単純平均すると、標準税率が20%強、食料品への適用税率は11%だ。
主に先進国からなる経済協力開発機構(OECD)では、19%と9%強。中国や韓国、シンガポールなどアジアの7カ国・地域では標準税率が10%弱で、食料品への軽減税率はない(いずれも11年1月時点)。
食料品等に軽減税率を導入した国も時期はまちまちだ。英独仏は付加価値税の当初から、それまでの税制との整合性をはかって軽減税率を設けた。スウェーデンやノルウェーなどは標準税率が20%を超えてからだ。
■支えあいのために
あくまで日本として判断すべき問題である。ただ、「軽減税率は10%前後で、標準税率の半分程度」という平均値は参考になるのではないか。
ここで、一体改革の狙いを改めて思い起こしたい。
高齢化で医療や年金、介護といった社会保障費は膨らみ続けている。保険料と税金では足りず、多額の赤字国債の発行で穴埋めしている。将来世代への借金のつけ回しである。
支えあいで成り立つ社会保障には、国民が幅広く負担する消費税をあて、国債の発行を減らし、財政破綻(はたん)を防ぐ。これが一体改革の趣旨だ。
■10%までは給付で
軽減税率の導入による税収の目減りで社会保障に回す財源が足りなくなり、一体改革による子育て支援策などがおろそかになっては本末転倒だ。配慮が必要な低所得層に絞った対策を工夫すべきである。
政府案は軽減税率を盛り込まず、2段階の低所得者対策を考えている。
税率を10%に引き上げていく段階では「簡素な給付措置」をとる。住民税が非課税の低所得世帯に、毎年、一定額の現金を戻す案が出ている。
その後、本格的な対策に移る。「給付付き税額控除」が候補だ。所得税を納めているものの所得が十分でない層への減税(控除)と、より所得の低い人への現金支給を組み合わせた仕組みだ。個人ごとに収入と負担の状況をつかむ必要があり、共通番号制(マイナンバー)の導入が前提になる。
簡素な給付措置も、バラマキになりかねない危うさがある。政府はまず、対象や金額の具体案を示す必要がある。給付付き税額控除は、就労や子育ての支援策として欧米で実施されている。研究を急ぎたい。
民主、自民の両党は、ともに「消費税率10%」を掲げ、問題意識には共通点が多い。低所得者対策でも議論を深め、早く結論を出すべきだ。