「宿輪先生の通貨のすべて」

第7回 最も頑丈な金庫の持ち主が“紙幣”を生んだ

紙幣と銀行のはじめて

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2011年2月7日(月)

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 銀行の起源は両替商(両替屋)と言われることが多い。これはどういうことなのか、今一つイメージがわかない方が多いのではないか。

紙幣のはじめて:金貨の「預り証」で取り引きを決済

 かつて中世では、おカネは、だいたいどの国でも金・銀・銅など鉱物貨幣だった。貨幣の発行量はどれだけ鉱物を保有しているかにかかっていた。つまり、取り引きで手に入れるか、鉱山を見つけるしか、通貨の発行量を増加させることができなかった。

 一般的に金貨が一番価値の高いおカネであることが多かった。したがって、金貨を大量に持っていると泥棒などが心配になる。そこで、その地域で一番頑丈な金庫を持っている両替商(Exchange)や金細工師(Gold Smith)に預けることになる。当然、両替商は「預かり証」を発行し、保管手数料を得ていた。

 商売の決済をするときには金貨が必要になるため、商人は、預かり証を両替商に持って行って金貨を引き出す。そして取引相手に金貨を渡す。しかし、取引相手はすぐに金貨を両替商に預けることになる。

 ほとんどの人々が金貨を両替商に預けるようになると、取り引きの決済をその預かり証の授受だけで済ますようになった。その方が手間が省けて便利だからだ。この預かり証が最初の「紙幣」だとも言われている。

銀行のはじめて:預かった金貨を元に貸金業を開始

 さらに、この両替商が、貸金業(銀行業)をスタートしたとも言われている。両替商は、預かっている金貨のほとんどが金庫の中で動かなくなることに気付いた。そこで、この金貨を担保にして紙幣を発行し、貸し出すようになった。貸し出しの手数料として利子を受け取るようになった。

 このスキームの下で金貨に比べて紙幣の量が多くなっていく。これによって信用創造が起きた。

 注意しなければならないのは、この金貨(預金)が一斉に引き出されると、このスキームは破綻することだ。預金者が銀行に預金を引き出そうと殺到するのが「取り付け騒ぎ」である。実際に英国では、ライバルの銀行を破綻に追い込むため、結託して預金を引き出すことも横行した。その後、英国では1844年に、イングランド銀行(中央銀行)以外の銀行が紙幣(預かり証)を発行することが禁止された。通常の(商業)銀行は紙幣を預かるだけになった。

信用の拡大:信用乗数に応じて貸し出しが増える

 銀行から貸し出しを受けた顧客は、その紙幣で支払いをする。すると、その取引相手は紙幣を預金口座に入金する。顧客が紙幣を使わない場合は、それがそのまま口座に残る。いずれにせよ銀行は、その預金金額をベースにして、さらなる貸し出しが可能となる。これも銀行の信用創造である。その預金が増える比率を信用乗数という。信用乗数は、景気が良くなると大きくなる。この預金(マネタリーベース)の増加は景気を活性化させる効果もある。

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著者プロフィール

宿輪 純一(しゅくわ・じゅんいち)

宿輪 純一1963年生まれ、麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒業
(職歴)1987年、富士銀行に入行。国際資金為替部、海外勤務、決済事業企画部などに勤務。1998年、三和銀行企画部に移籍。決済業務部、UFJ銀行(合併)、UFJホールディングス経営企画部、UFJ総合研究所国際本部などに勤務。
(教歴/兼務)2003年東京大学大学院非常勤講師(3年)、清華大学大学院(中国)顧問、2007年早稲田大学非常勤講師(現職)、2009年上智大学非常勤講師。
(現在)博士号(経済学)を持つエコノミスト。早稲田大学非常勤講師。ボランティア公開講義「宿輪ゼミ」代表。
(専門)通貨、国際金融、市場、決済。マクロ経済、国際経済。企業戦略。
(趣味)映画評論、シネマ経済学。
(委員)アジア開発銀行「アジア債券市場イニシアティブ(ABMI)」、財務省「ASEAN為替制度と金融市場研究会」、経済産業省「グローバル財務研究会」、外務省「アジア太平洋経済委員会」、全国銀行協会「SWIFT委員会」、「大口決済システム検討部会」、「全銀 システム検討部会」ほか。
(単著)『通貨経済学入門』、『アジア金融システムの経済学』、『実学入門 社長になる人のための経済学―経営環境、リスク、戦略の先を読む』(以上、日本経済新聞社)。『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』(東洋経済新報社)。
(共著)『マネークライシス・エコノミーグローバル資本主義と国際金融危機』(日本経済新聞社)。『円安VS円高―どちらの道を選択すべきか』、『決済システムのすべて』、『証券決済システムのすべて』(以上、東洋経済新報社)ほか.
オフィシャル・ウエブサイト:http://www.shukuwa.jp/
過去のコラム:宿輪純一の「逆張り経済論」



このコラムについて

宿輪先生の通貨のすべて

 テレビでもおなじみ! 第一線で活躍中の博士号(経済学)を持つエコノミストで、早稲田大学で教鞭も執る宿輪純一氏が、大きく変わりつつある国際通貨制度を独自の視点で斬る。通貨理論の基本を解説するとともに、現在進行中のパラダイムの転換を分かりやすく読み解く。
 通貨危機の発生を抑える処方箋はあるのか? 円の国際化に展望はあるのか? アジア共通通貨に導入可能性はあるのか? ドルが弱くなった時代の基軸通貨体制はどうなるのか? ユーロと人民元が果たす新たな役割は何か? 検討が進む新しい国際通貨制度は? 新興国通貨の今後は? 投資に必要な通貨の知識は? 通貨と経済の関係は?
 グローバル化と金融資本主義が進む今、ビジネスパーソンに必須の知識と視点を分かりやすく提供する。

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