野田政権は19日、関西7府県などによる関西広域連合の会合に細野豪志原発相を派遣し、関西電力大飯原発(福井県おおい町)の再稼働へ理解を求めた。だが、安全基準に対する疑問が相次ぎ、周辺自治体の反発は収まりそうにない。
細野氏が再稼働の条件として設けた暫定的な安全基準などの説明を終えると、原発再稼働に反対し続けてきた橋下徹大阪市長が口火を切った。
「なぜ民主党政権が信頼を得られていないのか、はっきり分かった」
暫定的な安全基準を「対策であって基準ではない」と切り捨てたうえで、「原発がどうしても必要だという場合にも、動かし方はいろいろある。安全基準ができるまで、1〜3カ月の臨時運転という方法もあるのでは」と提案した。
この日は欠席した嘉田由紀子滋賀県知事とともに、再稼働に向けた7項目の提言をしている山田啓二京都府知事は「新しい基準をつくるのに、なぜ原子力安全委員会に決定させなかったのか」と不満を表明。仁坂吉伸和歌山県知事や、広域連合長の井戸敏三兵庫県知事らも、専門家による原発の安全確認を済ませてから再稼働を最終判断すべきだと強調。野田政権の進め方に疑問を投げかけた。
橋下氏は会合終了後、報道陣に「今の日本に安全基準はない。(再稼働は)認めない」「民主党政権には目を覚ましてほしい」と改めて政権の対応を批判した。山田氏も「(再稼働に反対する)気持ちは全然変わっていない」と語った。
■福井県の同意、政権期待
この日の会合は、もともと18日にまとめた政権の夏の電力需給対策を説明する場だった。そこへ、福島第一原発事故直後から安全対策にかかわった細野氏を急きょ派遣した。あえて細野氏を送ったのは、大飯原発が立地する福井県の西川一誠知事から再稼働に慎重な滋賀や京都の理解を得るよう求められていたからだ。
大飯原発が立地するおおい町の町議会は、14日に再稼働に同意。野田政権は福井県の同意も近いとみる。西川知事が「特別な原発監視体制」を求めた15日、藤村修官房長官はただちに検討を表明し、最後の追い込みに入る。一方で、西川知事の意向を踏まえ、周辺自治体の説得に乗り出す姿勢を示す必要があった。
2010年の夏との比較で15%と設定した関電管内の節電要請も、大飯原発が再稼働すれば必要なくなる。野田官邸は早期に再稼働させたいという意向は変えておらず、「節電要請が始まる7月2日まで時間はあまりない」(首相周辺)との声も漏れる。再稼働が決まっても送電までは3〜4週間程度かかるとされ、7月に間に合わせるには月内の決断を迫られる。
この日の会合の冒頭、細野氏は関西とのゆかりに触れ、「両親が滋賀県で生活している。大飯原発に万々が一のことがあれば、ふるさとが大変なことになる」と出席者側に寄り添う姿勢を強調。斎藤勁官房副長官が読み上げた野田佳彦首相のメッセージは「国民世論を二分する困難な課題だが、今と明日の生活に責任を持つ判断と責任が求められている」として、政権の覚悟を示したものだ。
首相は17日夜のNHKの番組で「判断の時期はそろそろ近い」と明言。福井県の同意が得られれば、すぐにでも関係閣僚会合を開き、再稼働の最終判断をする考えだ。
この日の会合で橋下氏が「臨時運転」を提案したことに、政権幹部は「前向きな意見だ」と受け止める。通常の原発の運転手法からはかけ離れてはいるが、「落としどころ」とする可能性もある。ある官邸スタッフは「関西の経済界は再稼働を求めている。あとは福井だ」と述べ、周辺自治体が反対しても福井県の同意だけで再稼働を決めることを示唆した。