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スポーツ報知>コラム>城田憲子の「フィギュアの世界」

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日本のメダリストのコーチたち~佐藤夫妻〈5〉

佐藤夫妻との積極的なコミュニケーションで復調してきた浅田真央(写真提供・今永百合子)

 天才少女と言われ、今のフィギュアスケートブームの一端を担う浅田真央。ジャンプのスランプ、母親の死去を乗り越え「佐藤教室」で復活への序曲を奏で始めた。

 城田「先生たちの今の一番の難題と言えば、真央ちゃん?」

 久美子氏「真央ちゃんを引き受ける時は…やっぱり一番悩んだのよね。だって、オリンピックのメダリストですよ!」

 城田「あれだけの選手を引き受けるとなるとね…。もう挑戦という以上の苦労が伴うはずだから、先生たちも大変だったと思うわよ」

 久美子氏「私は初め、(引き受けるのを)やめようと『これはちょっと無理です』って言ったの。例えうまくいったとしても、『真央ちゃんなら、うまくいって当たり前』ってことになるでしょうし…。私たち、いつになく悩みましたね」

 城田「でも私は、『信夫先生は、きっと引き受けるな』と思ったのよ。だってやっぱり、挑戦したいでしょう? それができるだけの体力さえあればね。そうしたらやっぱり引き受けてくれて、2シーズンたったわけだけれど。信夫先生の頭の中は、いつも真央ちゃんと小塚君でしょう? あの2人を、これからどうやって…」

 信夫氏「どうやって料理するか?(笑)」

 久美子氏「真央ちゃんもやっとこの頃、ちょっと動き出したかな、って感じ」

 城田「さすがに先生のところに来て、スケートは上手くなったわね。スピードはまだまだ、もうちょっと出せるといいと思うけれど」

 久美子氏「今、中京大では1人でリンクを使えて、すごくいい条件で練習してるでしょう? でも1人で滑っていると、スピードにしても滑りにしても、比較する対象ががない。でもここ、新横浜のリンクに来たら、たくさんの選手たちの隙間を縫って滑らないといけない。だからたまにここに来ることが、すごくいいみたい」

 城田「名古屋と横浜、行ったり来たりの練習が、かえっていいのね」

 久美子氏「最近はやっと、いろいろな動きも見え始めたから、これからよね。私たちとの会話も、やっとちゃんと通じるようになったし(笑)」

 信夫氏「練習しながら、『ここはこうしなきゃいけないよ』『今度はこんな練習をこうやって、試合に持っていくからね』と話をするでしょう? それを彼女が守らなかったら、『こら待て!』と、ピシッと言う。そこからだんだん、『このジジイの言うこと聞かないと、ちょっとやばいぞ』と思わせるようにしてきたんです(笑)」

 城田「じゃあ真央ちゃんも少しずつ、いわゆる『佐藤教室』にはまっていきそう?」

 久美子氏「うん、なんとかね」

 信夫氏「でもどんなに頑張っても、やっぱり3年はかかるかなあと、僕は思ってる」

 城田「そうすると、ソチ五輪にちょうど間に合うくらい?」

 信夫氏「ギリギリかな(笑)」

 久美子氏「真央ちゃん自身も、変わってきてる。最近は目の前のものだけでなく、外にも目を向けるようになったのよ」

 信夫氏「そう、去年の(GP)ファイナルに行った時も、こんなことがあったんです。試合前の公式練習が終わった後、『僕は男子の練習を見てから何時のバスでホテルに帰るからね』って、いったん別れたんだよ。でもいつの間にかひょこっと隣に来て、『私も一緒に練習見ていきます』って言う」

 城田「へえ!」

 信夫氏「僕は知らなかったけど、連盟の人たちが『珍しい、珍しい』っていうから、男子の練習を見るなんて、彼女にしたら本当に珍しいことらしい。そんな時に、ちょこちょこっと入れ知恵をしてみたんです。『どうして男の子たちがこういう練習するか分かる? ここはこう、これはこういうわけなんだよ』すると、『うーん、なるほど』って。

 久美子氏「そんないろいろなことが、彼女にとっては新鮮みたい。特に女の子は、自分が試合に出るとなると、なかなか他の人の練習は見られないでしょう。でも最近の真央ちゃんは、男の子の練習も、ダンスの練習も見に行ってる」

 城田「そういえば、(伊藤)みどりちゃんも、余裕がある時はいつも男の子の試合を見てた。そうやって人の滑りを見ることも、勉強になるものね」

 信夫氏「トリプルアクセルを譲るようになったのも、その影響です。NHK杯で男子の試合を見ていて、『なぜあの人たちは、ショートプログラムで4回転をやらないのか』って話になった。『点数計算してごらん。この場合、4回転を失敗したら何点、3回転をきちっと跳んだら何点。さてどっちがいい? それはあなたのトリプルアクセルも一緒でしょう?』って」

 久美子氏「それでフリーでは、『トリプルアクセル、やっぱりやめます』って」

 城田「そういうことを教えてもらえる機会、これまではなかなかなかったのかな。お母さんが亡くなられるなど、いろいろ環境も変わって…。その影響は、どうなのかしら…」

 信夫氏「それが僕には、まったく影響があるように見えないんです。お母さんが亡くなった以降も、ものすごくしっかりしている。生活面は、ガラッと変わったみたいだけどね。最近はお父さんが助けてくれて、リンクにも車で連れてきてくれるし」

 久美子氏「お母さんが病気で大変だった間は、お父さんがずっとお母さんについていたから、真央ちゃんは何もかも一人で全部やってたのよ。車の運転も自分でして」

 城田「私もあの頃、彼女といろいろ話したのよ。『最近は自分でご飯を作るし、車も運転してリンクに通ってる』って。『運転出来るから、1人でもいろいろなところに行くんですよ』なんて、そんなに自分のことを話すなんて珍しいわね、って思った」

 久美子氏「お母さんの病気のことも、実は私たちにはほとんど言わなかったんです」

 信夫氏「だからお母さんがどのくらい大変だったかも、僕らは全然分からなかった」

 久美子氏「お母さん自身も、スケートのことには一切立ちいらず、私たちに任せきり。だからお母さんも、たぶん自分の身体が…」

 城田「長くはないって、分かってたのね…」

 久美子氏「たぶん、この先の真央ちゃんを見続けられる自信がなかったんじゃないかな、と想像するだけだけど…。結局、私たち、お母さんとは最後までほとんど話はしなかったんです」

 城田「あまりにも亡くなるのが早かったよね。母親がいないのは、つらいよね」

 久美子氏「うん、父親がいないより辛いものよ。亡くなる前から、辛いってことを私たちにも言わなかった。それを黙っていることも、つらかったと思う」

 城田「でも、つらいことを乗り越えたからか、最近の真央ちゃん、ちょっとしっかりしたみたい」

 久美子氏「今はもう、舞ちゃんより真央ちゃんの方がお姉さんみたいだもの(笑)。お父さんも一緒になって頑張って、真央ちゃんがしっかりやっていけるよう、いろいろ教えてるみたいだけれど」

 信夫氏「そうなんだよ。すごくしっかりしてきた。中京大のリンクで練習する時も、親しい人だけじゃなくリンクの偉い人に対しても、びしっとあいさつするからね。おお、すごいな、とこっちが思ってしまう」

 城田「私も久々に話を聞いた時、ずいぶんしっかりしたなあ、と思った」

 久美子氏「そしてやっぱりあの人は、不思議な人ですよね。スター、というか」

 信夫氏「うん、それは感じるね」

 城田「そう、何か違うものがあるのよね」

 信夫氏「練習の時も、『もうちょっと上手く滑れないかなあ?』なんて思いながら見てるんだけど、そうしてるうちに思わず、『いや、上手いな…』なんて考えてる。そして気が付いたら、彼女の滑りに引きずり込まれてる」

 城田「あるわね、そういうこと!」

 信夫氏「そんなことが本当にある。不思議な、本当に不思議な人です。

 久美子氏「不思議な人よね。(安藤)美姫ちゃんを教えていた時も、やっぱり素晴らしくて同じことを思ったけれど、真央ちゃんは真央ちゃんで、また違った不思議なものを持ってる。あの2人は、不思議な魅力を持った子たちです。やっぱりああいう選手たちがいないと、スケート界は盛り上がらない。もちろん今、ここまでのブームになったのは、(荒川)静香ちゃんが先陣を切って、さらに大ちゃん(高橋大輔)や、みんなが素晴らしかったから。それでもやっぱり真央ちゃんの力は半端ないな、と思います。その意味でも、私たちも頑張らないといけないな、とは思うんだけれど…」

 信夫氏「こういうことを言うと叱られるかもしれないけど、きついのはやっぱり、彼女に関してメディアの人たちが放っておかないこと。それが一番大変です。もうちょっとだけ静かにしてもらえれば、もうちょっとうまくまとめられるのになって、いつも思う。試合のたびに囲まれて、『今回はああだった。スピンはこうだった。前回はもっとこうだった』なんて、うわーっと来て、根掘り葉掘り、集中攻撃されちゃうと…」

 城田「あれは大変よね」

 信夫氏「無視するのも失礼だから、何らかの答えはしないといけない。でも次から次へ、あれはどうするんだ、これはどうするんだ、と聞かれる。一つ良くなってもすぐ、『じゃあ、こっちはどうするんだ?』と聞かれる。やっぱり、負担ですね。もう少し伸び伸び、僕も彼女も自由にやれたらいいのになって、思います」

 城田「そんなに大変なのね…」

 信夫氏「全日本の時も、始まる前に1回先生の囲み(取材)をやらせてもらえませんかって言われて、僕は簡単に『いいですよ。今日は、何も予定がないから』って請け合った。そうしたら記者の人、30人以上来ちゃったもんね」

 久美子氏「真央ちゃんだからねえ。全日本だったし」

 信夫氏「うわあ、浅田真央って人は、こんなにすごいんだ、と」

 久美子氏「そんなですから、不安な部分もありますよ。我々のやり方で、大丈夫なのかな。この人をちゃんと見てあげられるのかな、と。頑張らないと、と思う気持ちも大きいし、複雑だよね、お父さん? 」

 信夫氏「うん、複雑」

 久美子氏「いかんせん、私たちもちょっと年を取りすぎたかな、とも思うし(笑)」

 城田「でも逆に、あまり若い先生では突っ走っちゃうこともあるしね」

 久美子氏「そうだよね。まあ私たちは、何が起きても冷静に接してしてあげることはできるかな。それは年をとって良かった部分? 」

 城田「そう、若いころと違って、ちょっと押して、ちょっと引いて。それが真央ちゃんを相手にしても、今の先生たちはできると思うのよ。そして引き受けちゃったからには、またメダルを取らせてくれるわよね(笑)? 」

 久美子氏「これからどうなるかなんて、分からないですよ。分からないけど、真央ちゃんがうちにいる限りは、やっぱり誠心誠意、やるだけ」

 信夫氏「ただそれだけだね」

 久美子氏「それこそ自分たちの、ありったけのものを彼女にぶつけるしかない。もちろん真央ちゃんだけじゃない、崇彦だってそうです」

 信夫氏「だからもうちょっとだけ、時間を下さい。もうちょっとしたら、いいものをご披露できるんじゃないかな(笑)。まだ少し時間はかかるけど、それでもなんとかして、上手に彼女を動かせるようになったとしたら…。やっぱりそれは、我々にとっても大きな喜びになるでしょうね」

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(2012年5月19日17時57分  スポーツ報知)

著者略歴 城田 憲子(しろた・のりこ)

 1946年7月4日、東京都生まれ。立大卒。選手時代はシングルとアイスダンスで活躍し、全日本選手権ダンス部門2連覇。現役引退後は日本スケート連盟で選手強化を手掛け、長野五輪からトリノ五輪までフィギュア強化部長を歴任。また、国際審判員とレフェリー資格を持ち、五輪をはじめ多くの国際試合でレフェリー&ジャッジも務める。

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