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インターネットの動画サイトで公開されている、ある最終処分場の映像。
雨水が濾過処理されることなく、そのまま川に流れ出ているという。
この最終処分場、実は、「震災がれき」を焼却した灰の埋め立て予定地なのだ。
茶畑が辺り一面に広がる静岡県島田市。
ここで作られるお茶は年間およそ5,700トン、県全体の生産量のおよそ14パーセント占めている。

<茶畑で作業している女性>
「深蒸しで、渋くなくて甘い感じのお茶。おいしいと思いますよ」
しかし去年、静岡県内で生産された一番茶から、当時の国の基準値、1キロあたり500ベクレルを超える679ベクレルの放射性セシウムが検出された。
島田市のお茶は基準値を下回っていたが、価格が3割ほど下がったという。
<谷口原茶農業協同組合 大石喜則組合長>
「静岡県のお茶から基準値を超えるお茶がでたということで、静岡のお茶全体が静岡茶ということだけで敬遠される状況はあった」
今年の一番茶からは、放射性セシウムは検出されていない。
「風評被害も収まる」と胸をなでおろした矢先、 新たな問題に直面したという。
<谷口原茶農業協同組合 大石喜則組合長>
「できれば持ってきて欲しくない、というのが生産者の本音だと思います」
<島田市 桜井勝郎市長・今年3月>
「被災された皆さまの痛みを少しでも軽くできたなら、私は本当に幸せです」
島田市は今年3月、「震災がれき」の受け入れを正式に表明した。
岩手県山田町と大槌町の「がれき」を年間5,000トン受け入れる予定で、「がれき」を燃やした後に出る焼却灰は、茶畑に隣接する最終処分場に埋め立てられる計画だ。
<松浦雅則さん>
「市の説明ですと、これは溶け出すことはないということなんですけども、実際こんな感じで大雨が降ると溶け出したような状況になっています」
最終処分場の映像を、ネット上に公開した松浦雅則さん。
自らも茶を栽培していて、最終処分場の安全性に疑問を抱く1人だ。
現場に案内してもらうと、処分場は茶畑の目の前にあった。
<松浦雅則さん>
「実際こんな感じで雨が降ると、(焼却灰が)だんだん溶けてきてます」

現在は一般ゴミの焼却灰を埋め立てているが、灰を覆う土が雨で削られ、一部が露出している。
雨水は道を伝って処分場の下へ下へと流れて行き・・・ すぐ下には、地域の飲み水をとっている大井川が流れている。
松浦さんは、「震災がれき」の受け入れが、健康、そして仕事に与える影響は大きいという。
<松浦雅則さん>
「最終処分場の回り全部茶畑。実際、影響が無いとしても、位置関係を見た人は危ないと思う。それこそ風評被害だと思います」
島田市は雨水を貯める穴を作ることで、川への流出を防げるとしているが住民の不安はこれだけではない。
<細野環境大臣>
「ぜひ皆さん、(放射線量を)図りに来てください」
<住民>
「細野さんの説明はテレビでも聞いています」
<細野環境大臣>
「ちょっと私の話を聞いてくれませんか」
今年2月に島田市で行われた「震災がれき」の試験焼却。
市民グループが調べたところ、ゴミ焼却施設の煙突から放射性セシウムが漏れ出た可能性があるというのだ。
静岡県島田市のゴミ焼却施設、「田代環境プラザ」。
島田市と隣町から出た一般ゴミ、あわせて100トンが毎日、運ばれてくる。
岩手県から受け入れる「震災がれき」は、ここで一般ゴミと一緒に焼却される予定だ。
<ヘリ記者リポート>
「『がれき』の試験焼却が始まりました。白い煙が上がっています」
今年2月に行われた「がれき」の試験焼却。
細野環境大臣も現地を訪れ、安全性を訴えた。
<細野環境大臣>
「安全性はこれで十分確認できていると思います」
試験焼却の結果、「がれき」の焼却灰1キログラムに含まれる放射性物質の量は64ベクレル。

島田市の一般ゴミの焼却灰とほとんど変わらないため、国は「安全性は確かめられた」としている。
しかし・・・
「がれき」の広域処理に反対する静岡県の市民グループのメンバー、野田隆宏さん。
試験焼却のデータを独自に調べたところ、セシウムが大気中に放出された疑いがあるというのだ。
<いのちと大地を守る会 野田隆宏さん>
「18万ベクレルのセシウムが、大気中に放出された可能性が高い」

国のサンプル調査をもとに野田さんが計算したところ、焼却炉に入れた「がれき」に含まれる「セシウム137」は、およそ34万ベクレル。
これに対して、焼却後に出た灰には21万ベクレルしか含まれていなかったという。
焼却灰以外に付着した分を差し引いても、11万ベクレルの行方がわからないという。
これに「セシウム134」を合わせると、18万ベクレルが大気中に出たと考えられるという。
<マル調>
「これから本焼却が始まろうとしてますけれど、それについてはどういう考えですか?」
<いのちと大地を守る会 野田隆宏さん>
「非常に危険だと思います。どうみても安全が担保されているとは思えない。そういう状況において、燃やすべきじゃないと思ってます」
セシウムが漏れ出たことを示すデータは、他にもあった。
<マル調>
「これは何が入っているのですか?」
<京都大学大学院工学研究科 河野益近教務職員>
「松の葉っぱです」
放射線計測を専門とする京都大学大学院の河野益近さん。
試験焼却の前と後に、島田市内の松の葉に含まれるセシウムの量を計測したところ、6か所中4か所で数値が上がっていたという。
しかも、施設の風下の地点では、近辺の2か所の10倍近い値が出たというのだ。
<京都大学大学院工学研究科 河野益近教務職員>
「少なくとも島田市のシステムでは、(セシウムが)漏れていると思います。一番(風下)だけ突出して高い。それは、明らかに焼却場の影響だと思われます」

施設周辺の松葉に含まれるセシウムは、2ベクレル程度。
しかし、施設の風下の地点では、18.3ベクレルが検出されたという。
果たして、焼却場の煙突からセシウムが漏れ出したのか?
市民グループの調査結果について、島田市の担当者に聞いた。
<マル調>
「市民から疑問の声が上がっているということについてデータに示されているのですが、どう思われます?」
<島田市環境課 田中一彦課長>
「思わないです。答えられません」
「(試験焼却では)国の基準より低いものが出たとしか言いようがない」
では、広域処理を進める環境省はどう答えるのか?
<環境省 広域処理推進チーム 関谷毅史チーム長>
「今回のデータは、出口(煙突)から出る排ガスの中にセシウムがどのくらい含まれているか確認する測定。実際、それに必要な精度は十分保たれている。ここから出ている排ガスの中野セシウムは不検出。これによって安全性はきちんと確認されています。(市民グループが)計算することは意味がない」

「不検出」、つまりゼロとは言い切れないが、機械で測定できる限界の値よりも低いので安全だという主張だ。
しかし原子力の専門家は、国の測定方法ではセシウムを検出できる限界の値が高すぎるため、安全を保証できないと指摘する。
<京都大学原子炉実験所 小出裕章助教>
「検出限界が高すぎる。こんなもの測定になっていない。ですから、不検出と言えるようにきちっと測定をしなくてはいけないと思います」
測定方法に問題はないのか?
そして、放射性物質は本当に漏れ出さないのか?
国が丁寧な説明を尽くさない限り、受け入れ側の住民の不安が払拭されることはない。
美しい茶畑が広がるこの町で、来週にも「がれき」の本焼却が始まる予定だ。
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