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どうなる泊:原発穴埋め、期待の自家発電 エネルギー無駄なく 苫小牧の製紙工場、蒸気を再利用 /北海道

毎日新聞 5月8日(火)10時56分配信

 北海道電力泊原発3基(出力計207万キロワット)がすべて停止し、注目されているのが製造業者などがもつ自家発電設備。北電から買う電力を減らすだけでなく、売ることによって電力不足を避けられると期待されている。そのうちの一つで100年以上の発電の歴史をもつ王子製紙苫小牧工場(苫小牧市)を訪ねた。【小川祐希】
 JR苫小牧駅から南西へ約1キロの市中心部。同工場は札幌ドーム約25個分の敷地があり、1日に1300万部分の新聞用紙を生産する。必要な電力は約20万キロワット時。平日の日中は100%自家発電(火力80%、水力20%)でまかない、要請があれば北電にも売る。一方、料金が安くてコスト面で有利な夜間と休日は北電から購入している。
 敷地中央にある火力発電所は縦約100メートル、横約10メートル、高さ約8メートルの平屋。ドアを開けると、「ゴォー」と会話できないほどの大きな音に包まれた。細長い建物に1列に並んでいるタービン(縦約5メートル、横約2メートル、高さ約2メートル)12台がうなりを上げていた。
 それぞれすぐ横に、タービンを回すための蒸気を作るボイラーがある。建物内は蒸し暑いのに近寄ると一層汗が噴き出す。夏には内部の温度が50度を超えるが、運転は自動化されているので人影はほとんどない。案内の担当者は「それでも中に入る時は、耳栓をして水分補給に心掛けるよう会社から指示されている」と話した。
 発電所は1940年に完成。最大出力は、道内最大の泊原発3号機の3割にあたる27万キロワット。燃料は石炭や重油、製紙過程で出る紙の切れ端や丸太の皮などさまざまな物を使う。近年は原油高のため、重油使用率を落としている。低価格の「RPF燃料」(廃プラスチックと紙を混ぜた固形燃料)を使う「RPFボイラー」を04年から導入し、今では発電量の3割を占める。
 タービンを回した蒸気は、製造した紙乾燥用のローラーを温めるのにも使う。同工場の野間俊哉・動力部副部長(48)は「できるだけエネルギーを無駄にしない理想的な使い方」と胸を張った。
 所変わって、火力発電所から北西に約25キロ。送電線を右に見ながら支笏湖方面に向かう山間部の細い道を車で進むと、同社の第1水力発電所(千歳市)が現れた。1910年の工場操業時から稼働し、今も現役。水車の建屋は第二次大戦中、米軍に攻撃されないよう目立たない灰色に塗られたという。
 同社は支笏湖から流れる千歳川5カ所に水力発電所を所有し、計約3万6000キロワットの発電能力がある。第1は最も上流にあり、支笏湖まであと約5キロだ。野間副部長は「発電に使うきれいな水、製紙に必要な木と電力がある支笏湖は、苫小牧工場の原点」と話した。
 ◇今夏北電購入予定、需要予想の1.7% 企業と交渉、上積みへ
 北電が電力供給の助けに期待する各企業の発電設備。昨冬は約7万キロワットを購入し、今夏は8万キロワットを見込む。ただ、8月の予想需要484万キロワットのわずか1・7%に過ぎず、北電は各企業と交渉して上積みを図るという。
 北海道経済産業局によると、出力1000キロワット以上の発電設備は道内204カ所にある。製紙や鉄鋼の工場のほか、道営水力発電所、自治体のごみ焼却施設の熱を利用した発電も含まれる。北電などによると、企業がそれぞれ販売している電力量や単価は公表できないという。
 王子製紙苫小牧工場は、北電から売電の要請を受けた昨冬、燃料価格が高くて利用を控えていた重油ボイラーによる発電を稼働させて対応した。以前も北電の設備が故障した時に緊急に電力を融通したことがあったが、昨冬のように大量の売電は初めて。「社会的要請に応じた。赤字ではないが利益も出ていない」という。
 同工場はこの時、電力不足回避のために昨年度制度化された国の「自家発電設備導入促進事業補助金」を利用した。電力需給が逼迫(ひっぱく)する恐れがある地域で、1事業所5億円を上限に、発電設備の再稼働や増設の費用、燃料費に2分の1〜3分の1が補助される。
 道内では昨冬、他に日本製紙の勇払、白老、旭川事業所と釧路工場が利用した。同局によると、5事業所への交付総額は1億円近い。今夏に備え、新たに王子製紙釧路工場と新日鉄室蘭製鉄所も補助金適用を申請。計3社7事業所への交付が4月末に採択された。
 新日鉄室蘭製鉄所は来年4月の稼働を目指し、出力12万5000キロワットの発電設備を増設中だ。現在、製鉄工程で発生するガスを使った発電設備が5基(出力計27万2000キロワット)ある。うち、老朽化した3基(同7万5000キロワット)と取り換える。新設備が完成すれば総出力は32万2000キロワットになる。
 王子製紙苫小牧工場の早野裕康工場長は「北電の要請があれば、国や道の指示に従い可能な限り売電したい」と話し、日本製紙の担当者も「設備が有効利用できるのなら前向きに対応する」と話す。【平野美紀、小川祐希】
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 ◇主な発電設備(北電除く)
名称      場所   認可出力
新日鉄     室蘭    27万2000キロワット
電源開発    10カ所 計21万5800キロワット
日本製紙    釧路    13万2500キロワット
王子製紙    釧路    12万 570キロワット
JX日鉱日石  室蘭    11万9780キロワット
日本製紙    白老    11万9500キロワット
道営水力発電  8カ所  計 7万 940キロワット
太平洋セメント 上磯     5万6500キロワット

5月8日朝刊

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最終更新:5月10日(木)16時14分

毎日新聞

 

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