「福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」(以下「暫定的考え方」という。)は、福島県や文部科学省が、福島県内の学校等で行った放射線モニタリングの結果を踏まえ、学校等の校舎・校庭の利用判断に関する目安を示したもので、4月19日に政府の原子力災害対策本部が原子力安全委員会の助言を得てまとめたものです。
具体的には、年間1から20ミリシーベルトを学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的目安とし、今後できる限り、児童生徒等が受ける線量を減らしていくことが適切であるとしています。
また、毎時3.8マイクロシーベルト(1年間365日毎日8時間校庭に立ち、残りの16時間は同じ校庭の上の木造家屋で過ごす、という現実的にはあり得ない安全側に立った仮説に基づいた場合に、年間20ミリシーベルトに相当)の空間線量率を校舎・校庭等の利用判断における暫定的な目安とし、校庭等の空間線量率がこれ以上の学校等では、校庭等での活動を1日当たり1時間程度にするなど、学校の内外での屋外活動をなるべく制限することを求めています。4月19日時点でこれに該当する学校は13校ありましたが、現在では、この目安以上の学校はありません。
さらに、文部科学省は、児童生徒等の受ける線量が実際に継続的に低く抑えられているかを確認するため、原子力安全委員会の助言を踏まえ、
こととしています。
また、今回の「暫定的考え方」は、モニタリングの結果等を踏まえ、おおむね8月下旬を目途に見直します。
「暫定的考え方」は学校の校舎、校庭の利用の判断基準となる考え方であり、「年間20ミリシーベルトまで放射線を受けてよい」という基準ではありません。
放射線防護の国際的権威である国際放射線防護委員会(ICRP)は、緊急時や事故収束後等の状況に応じて、放射線防護対策を行う場合の目安として「参考レベル」という考え方を勧告しています。緊急時は年間20~100ミリシーベルト、そして、事故収束後の復旧時は年間1~20ミリシーベルトの幅で対策を取るべきとしています。
「暫定的考え方」では、いまだ福島第一原子力発電所の事態が収束していない状況ではありますが、児童生徒等を学校に通わせるという状況に適用するため、緊急時の参考レベルではなく、復旧時の参考レベルである年間1から20ミリシーベルトを暫定的な目安とし、これをもとに、毎時3.8マイクロシーベルトという校舎・校庭の利用判断の目安を導いたものです。
具体的には、児童生徒が放射線の強さが毎時3.8マイクロシーベルトの校庭に1年365日毎日8時間立ち、残りの16時間は同じ校庭の上の木造家屋で過ごす、という現実的にはあり得ない安全側に立った仮説に基づいた場合に、年間20ミリシーベルトになることになります。
実際には、放射性物質は時間の経過とともに減衰します。実際にその後放射線レベルが下がっていることが確認されています。仮に3月10日以前の生活パターン(校舎内5時間、校庭2時間、通学1時間、屋外3時間、屋内(木造)13時間。3月11日以降はより屋内中心の生活となっていると想定される。)に基づく、より現実的な児童生徒の生活パターンに当てはめて試算すると、児童生徒が受ける線量は4月14日時点の校庭で毎時3.8マイクロシーベルトの学校の場合でも、多くてもICRPの参考レベルの上限である年間20ミリシーベルトの半分以下であると見込まれます。
子どもに対する放射線防護措置である「暫定的考え方」は、避難等の対応を必要としていない地域において、特に学校に関し、児童生徒の安全の観点から、特別の配慮をするために示したものです。
これまでの知見では、高線量の外部被ばく、内部被ばくについては子どもが放射線に対し感受性が高いとされています。内部被ばくに関しては、その影響を見積もる方法は、子どもに配慮したものとなっています。
ICRPは、放射線防護のための指標は年齢について平均化したもので示すべきとしており、「暫定的考え方」の根拠となっているICRP勧告における事故収束後の復旧時の参考レベル(年間1~20ミリシーベルト)は、大人も子どもも含めた一般公衆に対応したものですが、毎時3.8マイクロシーベルトという校庭の利用判断の目安を導くにあたっては、子どもの放射線に対する感受性を考慮し、十分に安全側の条件を設定して計算しています。
呼吸による内部被ばくについては、国際原子力機関(IAEA)等が提唱している専門的手法を用いて、土壌に沈着している放射性物質が空中に巻き上げられ、それを呼吸によって吸入する影響を学校の校庭で調べた結果、その内部被ばくの影響は、内部外部合わせた全体の被ばく量の2%程度となり、それに基づいて「目安」を設定しています。
食物や水については、暫定規制値が定められており、それを上回る食品等に対しては出荷制限等の措置が講じられるため、流通している食品等については、内部被ばくに有意な影響を与えることはないと考えられます。
「管理区域」とは、原子力発電所や放射性同位元素を取り扱う病院等の施設の中で、放射線の線量等が一定限度を超えるおそれのある区域として、その設置者により指定されている区域のことです。放射線に係る国内法令では、放射線量が3ヶ月で1.3ミリシーベルトを超えるおそれのある場所と定義されています。「管理区域」は、平時の場合において、強力な放射線源が存在する場所を厳格に管理することで、放射線業務従事者の年間線量限度である50ミリシーベルトを超えないように定められたものです。
また、厚生労働省における放射線被ばくの労災認定要件は、労災認定の観点から、労働者への補償に欠けることのないよう定められたものです。
これらは、「暫定的考え方」のもととなっているICRPの年間1―20ミリシーベルトとは観点を異にするもので、これらを単純に比較することは適切ではありません。
文部科学省が校庭の空間線量率が毎時3.8マイクロシーベルトであると仮定して、3月10日以前の実際の児童生徒等の生活パターン(校舎内5時間、校庭2時間、通学1時間、屋外3時間、屋内(木造)13時間。3月11日以降はより屋内中心の生活となっていると想定される。)に即して試算した結果、事故発生から1年間の積算線量は、学校内外合わせて10ミリシーベルト程度(うち学校内分は2割弱の1.7ミリシーベルト程度)となっています。なお、この試算は、比較的簡便な方法を用いて行っており、この方法も含めホームページ(※)等で公表しているため、生活パターンの違いによる変化も活動時間を変えることによって算出できるようになっています。
また、学校等の教職員に携帯していただいている積算線量計による5月30日から6月5日までの実測値を基にした試算によれば、学校内分の1年間の積算線量は平均で0.24ミリシーベルト、最大0.73ミリシーベルトとなっています。
【学校における積算線量予測(年間)】
福島県内における学校等の校庭等の土壌対策に関しては、5月17日に、原子力災害対策本部において「原子力被災者への対応に関する当面の取組方針」を策定し、教育施設における土壌等の取扱いについて、早急に対応していくこととされました。
また、第1次補正予算により、福島県内の全幼稚園、小中高等学校、高等専修学校等に、携帯できる積算線量計を配布することとし、5月27日に配布しました。これにより、各学校等における、年間の積算線量の測定が可能となりました。
これを機に、「暫定的考え方」で示した、今後できるかぎり、児童生徒等の受ける線量を減らしていくという基本に立ち、今年度、学校において児童生徒等が受ける線量について、当面、年間1ミリシーベルト以下を目指すこととしました。具体的施策として、文部科学省または福島県による調査結果に基づき空間線量率が毎時1.0マイクロシーベルト以上の学校等を対象として、校庭等の土壌に関して児童生徒等の受ける線量を低減する取組に対して、学校施設の災害復旧事業の枠組みで財政的支援を行うこととしました。
4月19日に示した「暫定的考え方」は、児童生徒等が学校内外で受ける放射線量について、年間1から20ミリシーベルトを暫定的目安とし、今後できる限り減らしていくことが適切であるとしています。
5月27日に示した「当面の対応について」は、この「暫定的考え方」を実現するため、その方針に沿って、今年度、学校内における線量低減の目標を掲げるとともに、目標実現のための方策を示したものです。
具体的には、今年度、学校内において受ける線量について、当面、年間1ミリシーベルト以下を目指すとともに、土壌に関する線量を下げる取組に対し、国として財政的な支援を行うこととしました。
今回の措置における年間1ミリシーベルト以下というのは、「暫定的考え方」に替えて屋外活動を制限する新たな目安を示すものではなく、文部科学省として、今後、まずは学校内において、できる限り児童生徒等が受ける線量を減らしていく取組を進めるにあたり、目指していく目標です。
したがって、年間1ミリシーベルト以下を目指すことによって、学校での屋外活動を制限する目安を毎時3.8マイクロシーベルトからその20分の1である毎時0.19マイクロシーベルトに変更するものではありません。
5月8日に独立行政法人日本原子力研究開発機構が福島大学の協力を得て実施した実地調査の結果を踏まえ、学校の校庭等における空間線量の低減策を提案したものです。実地調査の結果によれば、土壌は20cm程度の厚みで線量率を90%程度低減させる効果があるため、放射線遮へいの観点からは20cm程度土で覆うことで十分効果的であるとしています。また、具体的な校庭等の空間線量低減策として、「校庭等の表土をまとめて地下に集中的に置く方法」と「校庭の土壌の上下を入れ替える方法(上下置換法)」の2つの方法について、有効であるとしています。
一般論として、窓を閉めることには放射線の遮へい効果があります。加えて、児童生徒等が受ける線量をできるだけ低く抑える観点から、土ぼこりや砂ぼこりが室内に入らないように、特に風が強いときなどには窓を閉めることも配慮として考えられます。
一方で、5月19日及び26日に福島県内の8校の校舎内の空間線量率の測定において、窓を閉止した状態と窓を開放した状態での比較測定を実施しましたが、その結果、窓の開閉によって大きな変動は見られませんでした。また、現在、校庭等の空間線量率が、毎時3.8マイクロシーベルト以上となっている学校はなく、福島県内における空間の放射性ダストは極めて少ないことから、通常どおり校舎の窓を開けて授業を行っても差し支えありません。
学校の屋外プールの水には水道水等を用いていますが、現在、厚生労働省が食品安全委員会に対して飲料水を含めた食品の暫定規制値について「食品健康影響評価」を諮問し、同委員会において検討が進められているところです。プールの水質の検討に当たってはその検討結果を踏まえる必要があると考えています。
一方で、最近の福島県の水道水等については、ヨウ素及びセシウム等の放射性物質は不検出となっており、屋外プールの利用に際して児童生徒等が受ける線量は極めて低いものです。こうした状況を踏まえ、学校の屋外プールの利用に当たっては、各学校において屋外プールの水のモニタリングを当初は月2回程度行っていただき、放射性物質が確認された場合には、測定値を文部科学省に報告していただければ、文部科学省において児童生徒等の受ける線量を推計し、お伝えすることとしています。
以上
【参考リンク】
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