◆金融ビジネスの思惑
構造改革を叫んだ小泉内閣が進めた郵政民営化。それは米国の対日要求に応えるものであった。具体的には米国の民間保険会社の市場開放要求である。
05年時点で郵貯と簡保を合わせ残高は350兆円でこのうち簡保は120兆円だったが、米国が一貫して日本にさまざまに要求したのは貯金より額の少ない簡保、つまり保険分野だった。
金融ビジネスにとって預金は預金者が自由に金融機関を選び出し入れすることができるため安定性に欠ける資金だが、保険は一度契約をとれば長期にわたってコンスタントに保険料が入ってくる。一方、死亡保険などで支払いが求められるのは20年、30年先であろう。関岡氏によれば、それが米国金融ビジネスが郵貯よりも簡保にこだわった理由だという。
◆儲け目的の医療制度
図に示したのは米国の医療保険制度の概念図である。
公的医療保険としては年収の少ない貧困層を対象にした「メディケイド」、65歳以上の高齢者には「メディケア」という制度がある。 それ以外の国民は民間保険会社の医療保険に加入するしかない。しかし、年収が低ければ医療保険には入れないため、しばしば指摘されるように無保険状態の人が3000万人以上もいるといわれる。
オバマ大統領が進めた医療保険制度、オバマケアはこれらの人々も対象にしようとしたものだ。しかし、米国では強制加入のこの改革は、国民が自分の意思に基づいて契約できるとする米国憲法に違反するのではないかと最高裁で争われているし、共和党は大統領選でこの制度の即時廃止を訴えていくようなあり様である(本紙4月20日号の中岡望氏インタビュー参照)。
関岡氏は、このような米国の医療保険制度は民間保険会社にとって「もっとも居心地がいい場所」だという。高齢者はすぐに病気になって保険金を支払わなければならないし、貧困層はそもそも保険料が支払えない。つまり、民間保険会社にとって「高齢者と貧困層はお呼びでない」のであって、民間保険会社に相手にされない人々は国が面倒をみる、という制度。つまり、社会保障制度などではなく、民間保険会社が稼ぐための「金融商品のマーケット」としての保険市場となっているともいえるだろう。
◆混合診療解禁が狙い
保険会社は営利企業であるため保険金の支払いを渋る。そのため米国では保険会社が患者や病院に対して診療制限をかけるような事態もあるという。
一方、日本はこの図でいえば「線引き」などない医療保険制度といえる。貧困層の増大で最近では健康保険料を納めることができない人も出てきたことは問題だが、わが国は国民皆保険制度である。
米国はTPP協定で公的医療保険制度を廃止し私的な制度に移行するよう要求はしていない、と日本政府は説明している。この点について関岡氏はこの説明のとおり米国は国民皆保険制度の廃止を求めるのではないが、いわゆる「混合診療の解禁」を要求してくると指摘する。
混合診療とは保険がきく医療と保険外のそれが併用される制度のこと。たとえば、保険の適用外の薬も自己負担で使えるようになる。しかし、負担は高額となり、それを軽減するために民間保険が登場する?、これが米国が要求していることだという。
つまり、社会保障制度としての医療保険制度に、利益を追求する金融商品としての保険が参入する、ということを意味するだろう。一部の高所得者は民間保険も活用して十分な医療が受けられるが、それによって公的医療保険の役割が縮小していくことにもなりかねず、国民皆保険制度の崩壊につながる懸念は日本医師会も表明していることである。
◆共済も保険ビジネス
このように米国が求めているのは「保険」分野への参入であって、その意味では医療保険も簡保も共済もターゲットとしては同じだということになる。
JA共済も含め共済は組合員間の相互扶助として事業が行われているが、米国の資本の論理では共済も保険ビジネスなのであって、市場を開放せよ、ということになる。
実際、在日米国商工会議所は「金融サービス白書」2011年のなかで米国に民間保険会社と共済が日本の法制下で平等な扱いを受けることを求め、徹底した規制の見直しとそれが実現するまで新商品の開発や既存商品の改訂などを一切行わないよう日本に提言している。
相互扶助や協同組合という、まさに「この国のかたち」が狙われていることを認識しなければならない。