第52会期麻薬委員会ハイレベル・セグメントにおいて採択された政治宣言(仮訳)
2009年3月11~20日
於:ウィーン
I. 政治宣言
第20回国連特別総会において世界の薬物問題に対処するとのコミットメントを行ってから10年が経過し、その間に各国、国際機関及び市民社会による努力や進展が益々みられるにもかかわらず、薬物問題は、すべての人類、特に我々の最も貴重な財産である若者の健康、安全及び福祉に深刻な脅威を与え続けている。さらに、世界の薬物問題は、貧困撲滅への取組を含めた持続的発展、政治的安定及び民主主義制度を阻害し、国家の安全及び法の支配を脅かしている。薬物の不正取引と乱用は、何百万人もの人々とその家族の健康、尊厳及び希望に対する主要な脅威となっており、生命を奪っている。我々は、すべての人々が健康的で、尊厳をもち、平和的に、安全と繁栄の下で生活できるようにするため、世界の薬物問題に対処し、薬物乱用のない社会を積極的に促進することを決意する。従って、
我々、国連加盟国は、
世界の薬物問題により増大する脅威を深く懸念し、信頼と協力の精神の下、2009年以降の世界の薬物問題に対処するための今後の優先課題と緊急対策について決定するため、第52会期国連麻薬委員会のハイレベル・セグメントにおいて会合し成果の達成を目的に第20回国連特別総会において採択された政治宣言、行動計画及びガイドラインの実施から学んだ重要な教訓を念頭におき、
世界の薬物問題が、依然として効果的かつ更なる国際協力を必要とし、また、供給及び需要削減戦略に対する統合的、学際的で相互に補完的かつ均衡のとれたアプローチを必要とする、共通及び共有の責任として残されていることを十分に認識し、
- 需要削減、供給削減及び国際協力のあらゆる側面が、国連憲章、国際法及び世界人権宣言の目的及び原則、特に、国の主権及び領土保全、国家の内政不干渉原則、すべての人権、基本的自由、個人の固有の尊厳、並びに国家間の平等及び互恵の原則に完全に調和させることへの変わらぬコミットメントを再確認する。
- 需要及び供給削減戦略と持続可能な開発戦略の究極の目標が、人類の健康及び福利を保証し、需要及び供給削減のベストプラクティスの交換を促すよう不正薬物及び向精神薬の入手可能性及びその使用を最小化し結果的に撲滅することであることを再確認するとともに、双方の戦略はその一方を欠く場合には効果がないことを強調する。
- 世界の薬物問題は、多国間枠組の中において最も効果的に取り組まれること、また、麻薬統制諸条約及びその他関連する国際約束が国際的な薬物統制システムの要であり続けていることを断言するとともに、すべての加盟国に対し、未だ実施していない場合には、これらの国際約束を批准または加入するための手続きをとることを検討するよう要請する。
- 医療及び研究目的で使用されるアヘン及びアヘン原料の合法的な供給と需要のバランスを維持するため、伝統的かつ確立された供給国を支援する。
- 第20回国連特別総会において採択された政治宣言、薬物需要削減の指針に関する宣言、不正薬物栽培の撲滅及び代替開発に関する国際協力行動計画、薬物需要削減の指針に関する宣言の実施行動計画及び第46会期国連麻薬委員会の閣僚級会合において採択された共同政治宣言を再確認する。
- 国連ミレニアム宣言、2005年世界サミットの世界の薬物問題に関する成果文書の記述、HIV/AIDSに関する政治宣言、及び2008年12月18日の決議63/197、並びに前駆物質の流用や密輸防止のための地域的及び国際協力に関する決議をはじめとするその他関連する国連決議を想起する。
- 2009年2月26から27日に中国の上海で開催された国際アヘン委員会会議100周年記念に留意する。
- 世界の薬物問題に対処するため、社会、個人及びその家族により支払われた高い代償に深く憂慮し、自らの生命を犠牲にした法執行及び司法関係者並びにこの不幸に対処するために献身してきた保健医療分野及び市民社会関係者に対し、特別の敬意を表する。
- 世界の薬物問題の削減のために女性が果たしてきた重要な貢献を認識するとともに、薬物統制政策、対策及び措置が、薬物問題に関して女性が直面する特定のニーズや環境を配慮したものとなるよう約束し、また、女性を事業や政策の策定及び実施のあらゆる段階に積極的に参加させることで、女性が男性と同様に平等に差別なく、薬物統制政策及び戦略へのアクセスを有し、恩恵を受けられるよう、効果的な措置を講じることを決定する。
- 市民社会特にNGOが世界の薬物問題に対処するために果たしてきた重要な役割を歓迎し、レビュープロセスに対する彼らの重要な貢献を評価するとともに、適当な場合には、影響を受けている人々や市民社会の団体の代表が、需要及び供給削減政策の形成及び実施に参加する役割を果たせるようにすべきことに留意する。
- 世界の麻薬問題に関する国連薬物犯罪事務所(UNODC)事務局長報告書、世界の薬物情勢に関する年次報告、及び国際麻薬統制委員会(INCB)の年次報告書を歓迎するとともに、これらの報告書に基づき、積極的な取組みを通じ、第20回国連特別総会において採択された政治宣言の実施において、国内、地域及び国際レベルで一定の成果が得られたことを認識する。他方、不正薬物の製造、取引及び消費を持続的に削減又は少なくとも効果的に抑制するための取組みにおいて、新たな課題の出現とともに、引き続き考慮すべき課題が存在することを認識する。
- 世界の薬物問題に対応する継続した取組と進展を認識しつつも、不正アヘンの製造・取引の未曾有の増大、不正コカインの製造・不正取引の継続、不正大麻の製造・不正取引の増加、前駆物質の流用の増加、及び関連する不正薬物の分配、使用を深く懸念し、共通かつ共有された責任原則に従い、強化され、より調整された技術・財政支援の手段を含むより包括的な方法により、これらの世界的課題に取り組む国、地域、国際レベルの共同の努力を強化し、拡大させる必要性を強調する。
- アンフェタミン系興奮剤及び向精神薬が、国際的な薬物規制への取組に対し深刻で絶えず増大する課題をもたらし続けており、とりわけ若者の安全、健康及び福祉を脅し、また、国際的かつ多部門にわたり、科学的証拠及び経験に基づいて重点的且つ焦点を当てた包括的な国・地域・世界的対応を必要としていることに同意する。
- 世界の薬物問題の様々な側面がすべての社会にもたらしているリスク及び脅威についての一般認識の啓発を継続することを決意する。
- 世界の薬物問題のあらゆる側面に関し、正確で信頼できる、比較可能なデータの収集及び分析のための指標及び手段、また、適当な場合には、新たな指標及び手段の強化若しくは開発の必要性を考慮するとともに、国連麻薬委員会に対し本件に関して更なる対策を講じるよう勧告する。
- 薬物統制に関する第一義的責任を有する国連機関として国連麻薬委員会及びその付属組織が、INCBとともに果たす主要な役割を再確認するとともに、本政治宣言及び行動計画の効果的な実施及びフォローアップを推進することを決定する。
- 国連システムにおいて世界の薬物問題に対応する指導的機関としてのUNODCの取組を含む、国連の努力に対する我々の支援と評価を再確認し、UNODCがそのマンデートを効果的に遂行するために十分で安定的な財源の必要性を強調しつつ、UNODCのガバナンスと財政状況の改善を継続する意思を改めて表明するとともに、UNODCに対し、国際薬物統制諸条約及び他の関連する国際文書に基づくすべてのマンデートを遂行するための努力を継続し、とりわけ加盟国が求める技術支援を提供することにより、関係する地域及び国際機関並びに政府との協力を継続するよう要請する。
- INCBが、そのマンデートに基づき、麻薬及び向精神薬の不正製造に頻繁に用いられる物質の統制を含め、国際薬物統制諸条約の実施状況の監視に関し、条約に基づく独立機関として引き続き先導的役割を果たすことを再確認するとともに、年次報告を歓迎し、それら諸条約に基づくINCBのマンデート遂行を支援する。
- 国際薬物諸条約に従い不正経路への流用を防止しつつも、医療及び研究目的のため、国際統制下にあるアヘンを含めた麻薬及び向精神薬の適切な利用可能性を確保するよう、加盟国、INCB及び世界保健機関(WHO)による協力の継続を要請する。
- 薬物乱用による個人及び社会全体への悪影響を深く懸念し、包括的、補完的、かつ多面的な薬物需要削減戦略、特に若者を対象とする戦略の視点から、それら問題に対処する我々のコミットメントを再確認する。また、注射による薬物使用者の間でHIV/AIDS及び他の血液由来の感染症が驚くほど上昇していることを深く憂慮し、関連する国連総会決議及び適当な場合には、WHO、UNAIDS、UNODC のテクニカル・ガイドを考慮し、国際薬物統制諸条約に完全に従い、また、国内規制に基づいて、包括的な薬物乱用予防プログラム、治療、ケア及び関連する支援サービスへの普遍的アクセスという目標に向けて取組む我々のコミットメントを再確認するとともに、UNODCに対し、WHO、UNDP及びUNAIDS等関連する国連システム内機関及び計画と密接に協力しつつ、この分野におけるマンデートを遂行するよう要請する。
- 個人、家庭及び地域社会の健康と社会福祉を促進し、個人及び社会全体の薬物乱用による悪影響を減らすことを目的に、高リスク薬物使用者の抱える特別な問題を考慮しつつ、国際麻薬統制三条約を完全に遵守し、国内法に従いつつ、科学的根拠に基づいて一次予防、早期介入、治療、ケア、リハビリ、社会復帰、及び関連支援サービスなど様々な措置をカバーした効果的、包括的、統合的な麻薬需要削減プログラムを促進、策定、検討又は強化するという我々のコミットメントを繰り返す。また、こうした介入治療が貧困及び社会的疎外などの人間開発を阻害する脆弱性も考慮し、拘留施設も含め、差別なくこのような介入治療にアクセスできるよう一層の資源を投資することを約束する。
- 麻薬乱用のない社会づくりを促進するという目的の下、国、地域及び国際的な戦略の枠組みの中で、世界の薬物問題に対処し、また生活手段として受け入れられるべきではない不正な薬物使用に代わる健康的、生産的かつ実現的な選択肢を協調し、促進するための効果的な措置を講じるという我々の決意を再確認する。
- 「2000年及びそれ以降の青少年のための世界行動計画」を考慮に入れ、国連事務局経済社会局の青年に関する国連プログラムと協調し、啓発活動を行い、青少年に対して健康的な生活様式を選択するための情報、技能及び機会を与えることで、家庭、学校、職場、コミュニティを含む様々な場において、青少年に投資し共に取り組むという我々のコミットメントを再確認する。
- 以下のことを認識する。
- a)麻薬及び向精神薬の製造に使用される作物の不正な栽培に対する持続的な作物統制戦略には、法の支配や、適当な場合には国家の主権と領土保全の完全な尊重、内政不干渉の原則、すべての人権及び基本的自由を考慮に入れた、責任共有の原則に基づき、統合的かつ均衡のとれたアプローチをとる国際協力が必要である。
- b)このような作物統制戦略は、とりわけ以下のものを含む。
- 代替開発と適当な場合には予防的な代替開発プログラム
- 撲滅
- 法執行措置
- c)このような作物統制戦略は、1988年麻薬新条約第14条を完全に遵守するものであり、不正作物の持続的撲滅を達成するための国内政策に基づき適切に調整され、段階的に実行されるべきである。さらに、各国が歴史的根拠のある薬物の伝統的で合法的な使用を考慮し、環境保護に配慮しつつ、農村地域での持続可能な社会経済開発及び貧困撲滅に貢献するために、他の開発措置と調整を図りながら、このような戦略への長期的投資を増大させる必要性を認識する。
- 前駆物質の合法的な取引及び使用に悪影響を及ぼさないことを確保しつつ、麻薬の不正製造への前駆物質の流用を防止するため、前駆物質の管理に対する均衡のとれた政策及び戦略を推進、実施するという我々のコミットメントを繰り返す。
- 科学的証拠の調査及び経験、法医学データ並びに情報の共有を通じた問題の理解向上に基づく継続的かつ持続した国内・地域・国際的取組が、アンフェタミン型興奮剤を含む麻薬及び向精神薬の不正な生産と製造に用いられ、国際的統制下にある、前駆物質及び他の物質の流用防止に不可欠であることを強調する。
- 薬物取引に携わる犯罪組織の活動に起因する暴力の増大に深い懸念を表明し、これら組織が特に武器や弾薬など、犯罪行為を遂行するための手段を獲得することを防止するための緊急措置を要請する。
- 薬物の不正取引、腐敗と人身売買、銃器取引、サイバー犯罪、場合によっては、テロリズムの資金調達に関連するものを含むマネー・ロンダリングなどの組織犯罪のその他の形態との関連性の増大がもたらす深刻な課題、国際犯罪組織が、捜査、訴追を免れるために利用し、絶えず変化している手段に対応するために法執行機関及び司法当局が直面する重大な課題への対処が緊急に必要であることを強調する。
- 我々の過去の努力に拘わらず、不正な作物栽培、不正な薬物生産、製造、分配及び取引が、金融部門及び非金融部門を通じて洗浄される莫大な資金を生み出す犯罪として組織化された産業に統合されてきたことを認識し、それ故、資金洗浄に対抗する体制の効果的で包括的な実施を強化し、そのような犯罪を防止、捜査、訴追し、犯罪組織を壊滅させ、不法収益を押収するために、司法協力を含む国際協力を向上させることを約束する。また、国際的な枠組の中で利用可能な手段を活用するために法執行及び司法機関関係者を訓練する必要性及び訓練の開発を奨励する必要性についても認識する。
- 国際組織犯罪防止条約及びその関連議定書並びに国連腐敗防止条約の発効を認識し、これら諸条約と他の関連国際約束が世界の麻薬問題に立ち向かうための重要な手段であることを認識し、未だこれら国際約束を批准、加入するための措置を講じていない加盟国に対し、そのような措置を検討することを求める。
- 薬物統制措置の有効性を強化するため、そうした措置の影響と結果へ総合的に対処し、調整と実施についての評価を強化することを含め、薬物政策の統合的アプローチを促進する重要性を認識する。
- 通過国が、その領域を通過して密輸される不正薬物に起因する多面的な課題に直面していることを認識し、これら諸国が、世界の麻薬問題に対処するための能力を持続的に強化するのを支援するために協力することを再確認する。
- 世界の薬物問題により効果的に対処するため、特に、麻薬及び向精神薬の不正栽培、不正生産、製造、通過、取引、分配及び乱用から最も直接的な影響を受けている国による協力を奨励・支援することによって、情報共有及び国境管理協力を含む二国間・地域間・国際的な協力を促進する。
- 加盟国があらゆる形態の脅威を防止し、対応するための能力を確保できるようにするため、加盟国、特に世界の薬物問題から最も直接的に影響を受けている加盟国に対する技術的・財政的支援の増大を求める。
- 世界の薬物問題並びにこの問題が政治的安定、民主主義制度、治安、法の支配、貧困撲滅を含めた持続的発展に与える影響対処するため、麻薬及び向精神薬の製造に使用される作物の不正栽培、麻薬及び前駆物質の不正取引から大きな影響を受ける地域の状況を十分考慮して、地域及び国際レベルでの協力を強化することを約束する。
- 2019年を、各国が以下の根絶若しくは測定可能な形での大幅な削減の目標期限とする。
- a)けし、コカ樹および大麻草の不正栽培
- b)麻薬及び向精神薬の不正需要及び薬物に関連する健康及び社会的リスク
- c)合成薬物を含む向精神薬の不正な生産、製造、市場取引、流通、取引
- d)前駆物質の流用及び不正取引
- e)不正薬物に関連する資金洗浄
- 世界の薬物問題に対処するための効果的な政策と計画を、証拠に基づいて適切に実施し評価するための研究と評価に関する投資を増加させる必要性を認識する。
- 第20回国連特別総会で採択された政治宣言、薬物需要削減の指針に関する宣言、不正薬物栽培の撲滅及び代替開発に関する国際協力行動計画、薬物需要削減の指針に関する宣言の実施に関する行動計画を補完し、本政治宣言の不可分の一部を成す「行動計画」を、下記のとおり採択する。
- 確固たる国際協力を通じ、関連する地域機関及び国際機関と連携し、国際金融機関その他の関係機関の十分な支援の下、及び非政府組織を含む市民社会や官民の協力の下で、この政治宣言と行動計画を効果的に実施すること及び政治宣言と行動計画を完全に実施するための取組みを2年毎に麻薬委員会に報告することを約束する。また、麻薬委員会が政治宣言と行動計画のフォローアップを個別の議題として含める必要があると考える。
- 2014年の第57回会期麻薬委員会において、本政治宣言と行動計画の各国の実施状況についてハイレベルによるレビューを行うことを決定する。また経済社会理事会が世界の薬物問題に関連したテーマについてハイレベル・セグメントを実施すること及び国連総会が世界の薬物問題を取り上げるための特別会合を開催することを勧告する。