人類の歴史は、究極的に人口とエネルギー源という、2つの要素の変動に駆動されているのではないか。これが、30年以上専らエネルギー問題を考えてきた筆者の偽らざる実感である。産業革命も、その後の経済成長・変動も、戦争や革命や自爆テロも、人口とエネルギー源の量的・質的変動の観点から見てみると、通常学校で習ったり、新聞・テレビ等で解説されたりする姿と随分と違って見える。
実は、この2つは歴史的に環境問題とも裏腹の関係である。残念ながら、これまで主流の歴史学や経済学、政治学、あるいは社会学などでは、これら2つの要素が等閑視されているが、これらを抜きにして歴史や社会・経済変動を語っても表層的理解しかできないし、従って、人類の未来を展望することも困難と筆者は考える。
こう書くと、カビの生えたマルサスの人口論や、マルクスの唯物史観の焼き直しではないか、と考える人も多いだろう。もちろん、この2要素で人類史を大半説明できるなどと言うつもりはないし、そんな事を言えば、トンデモ本、オカルトの類に堕してしまうだろう。言うまでもなく歴史というのは、偶然と驚きの展開に満ちたものである。
人口とエネルギーが大きな歴史動態を浮かび上がらせる
マルサスの破局のご託宣は、何度も現実によって裏切られてきたし、また、文化や制度や思想や宗教、学問・科学技術など、マルクスの言う「上部構造」が逆に「下部構造」を規定する要素も多分にあり、一筋縄でいくようなものでは到底ありえない。しかし、この2つの要素の眼鏡で焦点を意図的にぼかして歴史を見てみると、スラーの点描画のように、顕微鏡的観察では見えてこなかった大きな歴史動態が良く見えることも事実である。
最近、人口動態という新たな視点から世界史をとらえ直した興味深い説が幾つか提出されている。これらを数回にわたり紹介しながら、誰もが知っている世界史のトピックスを、もう一度眺めてみよう。
その後に、筆者の専門であるエネルギー源の変遷が、どのようにこれらの人口動態、ひいては巨視的な世界史の動きに絡んでいるのかを述べてみたい。これらは仮縫い段階ではあるが、新たな視点の文明理解、歴史解釈であり、地球環境問題が深刻化している現在、一石を投じる意味があるものと確信している。
西欧の“世界制覇”の背景にあった人口激減と爆発
例えば、過去500年間にわたって、なぜ西欧が世界を制覇してしまったのかという、基本的な問いである。ブレーメン大学のハインゾーンによると、西欧が世界を制覇した最大要因は、14世紀の欧州を襲ったペスト禍による人口激減と、その反動による以後の人口爆発である。
言うまでもないが、1492年のコロンブスのアメリカ大陸「発見」以降、世界はスペイン、ポルトガルを手始めに、オランダ、イギリス、フランス、そして最後にロシア、アメリカと、次々に欧州(ないし欧州系)の覇権国家が交代で世界を植民侵食。19世紀末から20世紀初めにかけては、日本・中国など極東アジアと南極を除く世界の陸地面積のほとんどを支配することとなった。
今でも欧州人の子孫は故郷の欧州にとどまらず、北米・南米人口の大半、オセアニアとシベリア人口のほとんどを占めており、その総数は中国やインドの人口規模を上回る。なぜ、ユーラシア大陸西端のちっぽけな半島部が、一時は世界を制覇するほどになったのかというのは、人類史上、最大の疑問の一つであろう。
14世紀に5回にわたって欧州で流行したペストは、欧州人口総数の何と2〜4割(地域による差がある)を短期間で一挙に減少させてしまった、現代ではとても考えられないような、超激甚災害である。
ペスト流行の原因については、モンゴル帝国の成立による病原菌のグローバル化や(元来、中央アジア起源)、中世期の欧州の開墾・森林伐採によって、ペスト菌を媒介するクマネズミが激増したこと、14世紀に入ると世界的な気温低下によって飢饉が頻発し、民衆が体力を消耗していたことなど、様々な事が言われているが、ここでは話の本筋ではない。
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