第1 請求の趣旨
1 概要
嘉田由紀子滋賀県知事は、草津市の県立精神医療センター内に、触法精神障害者の「医療観察病棟」(以下、「本件病棟」という)を2013年度に開設することを目指して着工する方針を示した。本件病棟は、心神喪失者等医療観察法に基づき、殺人や放火など重大事件を起こしながら刑事責任を問えない精神障害者の入院施設である。しかしながら、滋賀県が本件病棟建設のため既に行った、また、行おうとしている公金の支出は、以下に述べるとおり違法不当なものである。
2 都市計画法43条違反
本件病棟が建設される地域は市街化調整区域にあたる。都市計画法43条1項本文には「何人も、市街化調整区域のうち開発許可を受けた開発区域以外の区域内においては、都道府県知事の許可を受けなければ、……建築物を新築し、…てはならない」と定められている。本件では、そもそも、草津市の県立精神医療センターを従前に設置する際は、(従前の都計法の定めにより)開発許可を受けておらず、その為、本件病棟の立地についての適切な地域説明もなされていない。平成18年都計法改正により、新たに建設を行うに際して、あらためて(権限移譲により、草津市の所管となっている)草津市長の許可を得る必要がある。にもかかわらず、開発許可を受けないで、建築確認だけで、本件病棟の建設の着工をしようとしている。このため、草津市としての適切な開発判断引いては立地基準についての地域住民への説明機会すら設けていない。よって、都市計画法43条1項本文に反する。
3 建築基準法6条違反
本件病棟は、平成23年9月5日に実施された説明会から一貫して、既存の病院施設の横に建設はするが、構造的且つ頑強なセキュリティーにより既存の病院施設とは隔絶された建物であるとの説明があった。かかる説明及び本件病棟が医療観察病棟施設であることからすれば、既存の通常病院施設とは機能的に全く別の建物であり、本件病棟の建築は新設の建物建築にあたる。本件病棟の建設計画を説明する「平成22年度心神喪失者等医療観察法指定入院医療機関施設整備計画個表」でも「施設の規模及び構造等」という欄に「新設」と明記されており、前述の内容と合致する。しかしながら、平成24年4月6日付で提出された計画通知(建築確認申請)においては「工事種別」は「新築」ではなく「増築」とされている。つまり、滋賀県が建築主として本来「新築」として申請すべきものを「増築」として客観的な実態と異なる申請を意図的に行っている。建築基準法6条による申請は、客観的な事実と適合する申請を前提にしており、客観的な実態と異なる申請は同条に違反する。
4 必要最小限度の原則(地方財政法4条1項)違反
地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない(地方財政法4条1項)。
本件では、滋賀県に居住を予定している入院対象者数は、平成22年度資料では3名にすぎない(出典~法務省HP統計表一覧:観察所別 居住地における生活環境調整事件の開始及び終結)。滋賀県での入院対象者が3名しかいないのに、本件病棟の建設計画では23床を予定していることの妥当性は全く見当たらない。そもそも、国はこの医療観察病棟建設について、全ての都道府県において整備を目指すとしており、滋賀県であれば、滋賀県の地域実情と対象者数を鑑みて、計画を立案しなければならない。整備については、平成17年10月に厚生労働省が各都道府県に14床以下の病棟も認めると通知しており、現在でも、5床しかない病棟の県もある。実態にそぐわない本件病棟の建設への公金の支出は必要最小限度の原則に反し、違法である。
5 地域連携違反
法務省と厚生労働省発行の「地域社会における処遇のガイドライン」には、「地域住民等への配慮」が明示されている。また厚生労働省発行の「指定入院医療機関運営ガイドライン」には「地域連携体制の確保」として①通常時における地元自治体、関係機関等との連携、②緊急時における対応体制の確保とある。こうした社会復帰を促進することを目的とする法律の運営にあたって、地域住民等への理解と協力を求めるための計画前の適切な説明が本来必要であるが、実際には行われていない。
よって、地域連携を定めた上記各ガイドラインに違反し、不当である。
6 滋賀県主催の説明会における虚偽の説明
滋賀県は本件病棟設置に関する説明会において、概要以下のとおり説明した。①医療観察法施行後、重大な再犯事件が起きていないこと、②本件病棟は、精神障害者の福祉向上の為に必要な施設であること、③既に本件病棟の建設を行うことは決定事項であり、国からの命令で行っていることに過ぎず、滋賀県はその代理者であること、④近隣住民へは、内容、回数とも誠意をもって説明した(平成24年1月31日定例記者会見)。
しかし、①については、心神喪失者等医療観察法に基づく入院治療を経たけれども再度犯罪を起こした事例は実際に生じており、滋賀県は、住民からの指摘を受けて、その誤りを認めている。②については、滋賀県精神障害者家族会連合会や、日本精神科病院協会滋賀県支部が本件病棟の建設について反対の意向を示している。③については、本件病棟の建設に関しては、厚生労働省と法務省の共同管轄による事業であるが、現時点においては、本件病棟の設置依頼がなされているだけであり決定事項ではない。④については、住民への説明会が最も多く開催された青山学区でも4回に過ぎない。さらに瀬田の4学区(瀬田、瀬田東、瀬田北、瀬田南)では、自治連合会長8名といった少数の住民に対してのみ説明が行われただけであり、到底、内容、回数とも誠意をもって説明したとは言えない。
よって、滋賀県は本件病棟設置に関する説明会において住民に対して虚偽の説明を行ったといえ、不当である。
7 まとめ
以上より、請求人は、上記の違法不当な本件病棟の建設に関して公金支出に係わる滋賀県職員らに対し、既に支出された公金については返還を求め、支出される予定のある公金についてはすみやかに差し止めを求めるなど、必要な措置を執るべきことを求め、本請求に及んだ次第である。
第2 請求者
別紙 滋賀県職員措置請求書兼委任状記載の通り
第3 添付資料
報告書、報告書添付資料