ギリシャが連立政権樹立交渉の決裂を受けて、6月に再選挙を決めました。
6月の再選挙は「実質的にギリシャ国民がユーロ圏に残りたいかどうかの、レファレンダム(国民投票)になる」と言われています。
アンケート調査では急進左派連合がどんどん人気を伸ばしていると言われています。
若し、ギリシャが通貨ユーロの使用を止めたら、新ドラクマはたぶん70%~80%の価値を一瞬にして失うでしょう。
ギリシャが通貨ユーロの使用を止めると決めた場合、ギリシャ国民がギリシャ国内にユーロで預けてある預金は一旦、封鎖されると思います。
そして、あくまでも仮の数字ですが、たとえば「1ユーロ=1ドラクマ」のような交換比率で新通貨を貰うわけです。
しかし新通貨はギリシャという国に対する信用が無いわけですから、一瞬にして暴落します。
若し、皆さんが日本で銀行に預けている預金が、一瞬にして5分の1の価値になるとすれば、皆さんはどうしますか?
当然、今、お金を引き出して、それを金(ゴールド)なり、USドルなりに換金するでしょう。
いまギリシャで起こっていることは、それです。
ウォールストリート・ジャーナルによると月曜日だけ9億ドル近い預金の引き出しが起こったそうです。
3月末のギリシャ国内金融機関の全預金残高は1,650億ユーロです。その意味では未だ引き出しは怒涛のペースというほどではありません。
ウォールストリート・ジャーナルは、ギリシャがユーロの正式使用を止めた場合でも、ギリシャ国内でユーロ紙幣が流通するのはほぼ間違いないし、好むと好まざるにかかわらず、それは防げないと論じています。
それどころかモンテネグロのように今後もユーロを「準通貨」として使用し続ける可能性もあります。このように一国の中に二つの通貨が流通している例はいくらでもあります。
ただ、ギリシャの企業や金融機関はユーロで資金調達をすることが出来なくなります。するとユーロ建てで借金しているOTE(=ギリシャのNTT)などの企業は続々デフォルトすることになります。
発電所の燃料を買うお金が無くなって、慢性的な停電になるリスクも高いと言われています。
ギリシャ企業が、外国の投資家や金融機関から借りている借金は、突然、いままでの何倍もの返済負担として圧し掛かってきます。(=なぜなら電話料金や電気代を折角、消費者から徴収しても、新ドラクマの価値が減価してしまったので、ユーロ建ての借金を返すには焼け石に水だから)
欧州中央銀行は1,600億ユーロ相当のギリシャに対する貸付や債券が焦げ付くことになると思います。
欧州中央銀行の自己資本はとても貧弱なので、この損は欧州中央銀行そのものの市場からの信頼を失墜させるリスクを孕んでいます。
以上の説明からもわかる通り、若し、ギリシャがユーロから抜けるのであれば、EU加盟国のリーダー全部と示し合わせて、電撃的にそれを行う必要があります。
今のように衆目監視のうちに、6月の再選挙という、わかりきったタイムテーブルに向ってユーロ離脱を準備すれば、離脱が発表される前にマーケットが大混乱して、それどころではなくなる危険性もあるのです。
冒頭で急進左翼連合が前回の選挙後もどんどん支持を伸ばしていると書きましたが、これには但し書きが必要です。それはギリシャ国民は急進左翼連合への支持は増やしているけど、ユーロ脱退は望んでいない(80%が残留希望)という点です。
ユーロを脱退すれば、ギリシャ政府の1日当りの収入は2,000万ドル程度しか無いわけですから、今、ドイツをはじめとするEU各国から強要されている、財政緊縮プログラムよりも遥かに厳しい耐乏生活をしなければいけなくなります。
つまり、どこかでギリシャ国民がこのチキンレースを翻し、全ギリシャ社会主義運動や新民主主義党などの伝統的政権の支持へと回帰する可能性も全く無いとは言えないのです。
最後に、若しギリシャがユーロを脱退し、新ドラクマを採用した場合、たぶんユーロは大暴騰します。それは一瞬にしてドイツを大不況に陥れるでしょう。
PS.なお僕のメイン・シナリオは
以前に書いたとおり、ECBによる電撃利下げ、ドイツ労組の賃上げ容認などの成長戦略をメルケル首相が前倒し採用するというものです。
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米国の投資顧問会社で活躍中。BRICsの経済動向に詳しい