トップページ科学・医療ニュース一覧核燃サイクル見直し選択肢まとめる
ニュース詳細

核燃サイクル見直し選択肢まとめる
5月16日 12時57分

核燃サイクル見直し選択肢まとめる
K10051545711_1205161938_1205162024

資源の少ない日本が一貫して原子力政策の柱に位置づけてきた、核燃料サイクルの見直しを巡り、国の原子力委員会の作業部会は、今の政策を続ける場合や、やめる場合などについて、経済性や影響などを評価し、見直しの選択肢をまとめました。
焦点の核燃料サイクルをやめる選択肢については、短期的に原発の依存度をゼロにすることが明確な場合、最も有力だとする一方、使用済み燃料が行き場を失い、原発が発電できなくなる可能性などの課題があるとしています。

原発から出る使用済み燃料を再処理して、再び燃料として利用する、核燃料サイクルを巡っては、原子力委員会の作業部会が、今までどおり使用済み燃料をすべて再処理する場合や、今の政策をやめて再処理せず、すべて直接処分する場合など、3つのケースについて、経済性や政策変更した場合の影響などを評価し、見直しの選択肢をまとめました。
それによりますと、再処理をやめて直接処分する選択肢については、短期的に原発の依存度をゼロにすることが明確な場合、最も有力だとする一方、青森県六ヶ所村で受け入れている使用済み燃料が行き場を失い、原発が発電できなくなる可能性などの課題があるとしています。
これに対し、すべて再処理する場合は、使用済み燃料の貯蔵やウラン資源の節約の点では最も有力だとしましたが、経済的には直接処分に比べ、劣るとしています。
また、両方を併用する場合は、将来の原発の規模が不透明な場合には、政策の柔軟性があるとして、最も優れているとしました。
いずれの選択肢も長所や課題がありますが、コストだけで見た場合、原発の比率にかかわらず、再処理をやめて直接処分するほうが安くなるとしています。
このほか、将来の先行きが見えないとして、核燃料サイクルの政策判断自体を2年から5年、先送りするケースや、再処理工場の運転を5年間中断するケースもありうるとしています。
核燃料サイクルを巡っては、前回、平成17年の大綱の見直しの際にも、直接処分のほうが安いという評価が出ましたが、政策変更に伴う影響が大きいなどとして、最終的に再処理を続ける結論になっています。
今回の選択肢は、エネルギー政策の見直しを議論している政府のエネルギー・環境会議に提出され、この夏までにまとまる予定の新しい原子力政策を決める判断材料となります。
原子力委員会の作業部会の鈴木達治郎座長は、「将来の原発の規模が変わると、それに伴って、核燃料サイクルの選択の長所や課題も変わるというのが、いちばん大きな特徴だと思う。どの選択肢を選んでも、使用済み燃料の貯蔵など、共通の課題が非常に多い」と述べました。
選択肢を具体的に見ると、いずれも長所と短所がありますが、直接処分に政策を変更する場合、特に多くの課題が上がっています。
これについて、鈴木座長は「大きな政策の変更なので、課題も多く出てくるのは間違いない。しかし、直接処分のほうが合理的だと判断されれば、その課題に取り組む必要があると思う」と話しました。
そのうえで、今後、政府のエネルギー・環境会議が、選択肢を基に核燃料サイクルを決めることについて、「原子力政策全体の方向性が決まらないと、どれを選択するかという議論もできない。それぞれの政策に実現するべき課題がたくさんあることを認識して、議論してもらいたい」と注文をつけました。

核燃料サイクル なぜ見直すのか

資源の少ない日本では、使用済み燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、再び燃料として利用する「核燃料サイクル」の確立を原子力政策の基本に掲げ、昭和31年に策定された最初の原子力長期計画から一貫して進めてきました。
当初の計画では、使った以上の燃料を生み出すことができる「高速増殖炉」を昭和60年代に実用化することを目指すとしていましたが、実用化の目標時期は1990年代中ごろ、2010年ごろ、2020年から2030年と、長期計画の見直しのたびに遅れ、現在は2050年ごろとなっています。
昭和42年以降、これまでに投入された国の予算は1兆8000億円余り、高速増殖炉の実用化は平成7年に起きた「もんじゅ」の事故によって見通しが立たなくなっています。
一方、もう一つの中核施設、青森県六ヶ所村にある再処理工場も、当初、平成2年ごろをめどに運転開始するとされましたが、トラブルが続いていて、今も本格操業に至っていません。
建設費もすでに2兆1900億円に達しています。
巨額の費用をつぎ込んでも実現の見通しがないなか、国は、平成17年の前回の原子力政策大綱の見直しで、再処理を続けるか、直接処分などに政策を変えるか、初めて議論しました。
この中では、使用済み燃料の処分費用が試算され、再処理するよりも直接処分するほうが安くなるという結果が示されましたが、政策を変更することに伴う影響などが大きいとして、原子力委員会は再処理を続けるという結論を出していました。
あれから7年、今回の見直しは、福島第一原発の事故を受けて、原発への依存を下げることが今後のエネルギー政策の前提となるなかでの検討で、原子力委員会が政府から求められたのは、結論を出すことではなく、核燃料サイクルを今後どうするか判断するための選択肢を示してほしいというものでした。
16日に示された核燃料サイクルの選択肢は、大きく3つで、これまでどおり再処理を続けるか、再処理をやめて直接処分するか、その両方を併用するかです。
今回の試算でも、今後かかる費用だけを見れば、直接処分が安いことが分かっています。
ただ、再処理をやめると、現在、青森県六ヶ所村で受け入れている使用済み燃料が行き場を失い、原発の運転ができなくなる可能性や、直接処分するまでの間、大量の使用済み燃料をどこで保管するのかという新たな対応も必要になる可能性があります。
いずれの選択肢も一長一短があり、最終的には政府のエネルギー・環境会議で決めることになります。

専門家“表面的な議論”と指摘

国の原子力委員会の作業部会がまとめた核燃料サイクルの選択肢について、明治大学で原子力政策が専門の、勝田忠広准教授は、「福島第一原発の事故を踏まえて、世の中の情勢が変わっているにもかかわらず、過去の議論と変わってなく、残念な気持ちというのが第一印象だ。再処理を続けるのが楽で、直接処分という新しい政策に変えると大変だという評価に見える。使用済み燃料の処分費用や技術的な話も大事だが、中間貯蔵や最終処分の問題を先送りにして、表面的な議論だけされていると感じる」と指摘しています。

[関連ニュース]
このページの先頭へ