1997年、神戸市須磨区で起きた連続児童殺傷事件で、腹部を刺され重傷を負った当時小学3年の女児が、看護師の道を歩んでいる。24歳になった女性は神戸新聞社に初めて手記を寄せ、この15年を振り返るとともに、加害男性に対し、「あなたは更生したのですか」と問い掛ける。(長谷部崇、中部 剛)
女性は97年3月16日、自宅近くの路上で、すれ違いざま腹部を刺された。ナイフは胃を貫通し、深さ8センチにも達する重傷。神戸市内の病院の集中治療室(ICU)に搬送され、一命を取り留めた。この時、優しく介抱され、「看護師になる」と幼心に刻んだ。
男性が医療少年院を仮退院した2004年、謝罪の手紙が届いたが、以来、男性からの連絡は途絶えたまま。女性は手記の中で「あなたは今どこで何をしているのですか」「償いの気持ちはあるのですか」と問う。加害男性の近況が分からない不快感、不安感をにじませる。
女性は今でも、テレビドラマで人が刺されるシーンを直視できないという。一時期は、10代くらいの少年を見掛けると、刺された時の恐怖がよみがえり、足がすくんだ。
友人に傷を見られるのが嫌で、修学旅行に行くのを渋ったこともあった。「あの時の腹部の傷もまだ残っています。身も心も傷つきました」と手記に記す。
つらいことはたくさんあったが、「看護師になる」と決めた15年前の思いを大切にしてきた。受験勉強でくじけそうにもなったが、家族に支えられ、昨春から兵庫県内の病院で看護師として働き始めた。まだまだ新米だが、「重症の人が元気になって、退院していく姿を見るとうれしい」と笑顔を見せる。
女性の両親は、これまで加害男性の両親と5回ほど面会したという。女性は「15年間、事件にも負けず生きてきました。私の気持ちがやっと伝えられるときが来たと思います」と手記に記し、次の機会には一緒に会うつもりだ。
「自分の言葉で被害者の思いを伝えさせたい」と母親(51)。男性の両親の15年を思い、「成長したこの子の姿が、男性の両親にとって救いになるかもしれない」と、複雑な心境ものぞかせる。
女性は「つらい経験も絶対無駄にはしません。仕事に誇りを持って生涯生きていきます」と手記を締めくくっている。
【神戸連続児童殺傷事件】 1997年2〜5月、神戸市須磨区で小学生5人が相次いで襲われた。3月16日、小学4年の山下彩花ちゃん=当時(10)=が金づちで頭を殴られ死亡、小3女児が腹をナイフで刺され重傷。5月24日には小6の土師(はせ)淳君=当時(11)=が殺害された。兵庫県警は6月28日、殺人などの容疑で中学3年の少年=当時(14)=を逮捕した。
(2012/05/14 10:17)
Copyright© 2011 神戸新聞社 All Rights Reserved.