編集部注:ゲストライターのKeith Teareは、インキュベーター、Archimedes Labsのゼネラル・パートナーで、just.meのCEO.TechCrunchの共同ファウンダーでもある。Twitterアカウントは@kteare。
Facebook、ウォール街地獄の一週間
今週Facebookは、前代未聞ともいえるの行動を起こした。IPOロードショウのまっ最中、同社はアナリストから問われてきた質問に答える形でS1申請書を修正した。問題の変更箇所には、Facebookがある〈傾向〉を認める意向が示されている。その傾向とは、現四半期におけるARPU(ユーザーあたり平均売上)の減少だ。この傾向は、Facebookによると、モバイルプラットフォーム利用の増加および、同社がモバイルプラットフォームでデスクトップと同じ方法あるいは同じ水準で収益を上げる能力を持たないことに起因している。
これまでの修正S1にも、この傾向の可能性が常に記載されていた。可能性の程度さえも。しかし、傾向の現実性をS1で指摘したのは今回が初めてだ。
ウォール街、真実を知る
これは、膨大な売上、利益、成長率を持つ企業 ― 例えばApple ― でさえも霞む株価収益率倍数で上場しようという会社である。Facebookの株価収益率倍数は、従来であれば高成長率によってのみ正当化される規模だ。そして今「ウォール街」は、トラフィックのモバイルへの移行によって売上成長率が減少しているという事実を掴んだ。もしこの傾向が加速すれば、売上の絶対的減少もありうる。Facebookの最近の四半期のように。ウォール街は不満だ。
これは歴史的な事件だ。IPOを控えた高成長企業が、自社サービスの利用形態の大規模かつ構造的な変化によって売上成長率を下げるのは尋常ではない。しかも、米国市場最大のIPOともなれば、なおさら。
このIPOに募集を超えた申しこみがあると言われる中、果たしてこの株に、人々が払えと言われている金額の価値があるのだろうか。私は証券アナリストではないが、これらの事象から〈買い手ご用心〉の結論に至ることは理にかなっていると思う。そして、50億ドル以上のインサイダーマネーが、IPO価格で売られるという事実は、リスクをよく知る賢いインサイダーの存在を意味しているのかもしれない。
これは、FacebookでもIPOでもなくモバイルと未来の話だ。
今週の出来事は、FacebookのIPOを超える問題だが、決して新しい問題ではない。ここTechCrunchでは、モバイルの増加による影響と、Web 2.0時代の終焉について以前から報じている。Appleによってモバイルデバイスをアプリ中心、メッセージ中心の世界で使う人の数が膨大になり、Web 2.0時代のSAAS風クラウドサービスを運営する会社が脅威にさらされることを強調した。Googleの場合は、Androidの成功によって、この問題に貢献すると同時に苦しめられている。
2011年8月27日、私は「スマート・モバイルとシン・クラウド」という記事で、ある傾向が出始めていることを書いた。
・・・それは5年間のうちにソフトウェアエコシステムを根本から変えるだろう。その変化はあまりに劇的で、今のバブルに関する議論がバカバカしく見えるだろう。巨大企業は崩壊し、もっと大きい新会社ができることさえありうる。
記事はFacebookが、モバイルデバイスの増加と、ユーザーのデータとの接し方の変化の影響によって課題を突きつけられることを予言している。
今年の1月26日、「Google、後方に注意せよ」という記事に私はこう書いた。
「Appleは近々1億台を超すプラットフォームを持っている。あらゆるデバイスが通信機能を内蔵し、パーソナライズ機能を内蔵し、メディア利用機能を内蔵している。そしてiCloudによって、各デバイスの出力を保存する場所もある。Facebookが司るソーシャルグラフは、その世界でどんな意味を持つのだろうか。Facebook Connectが普及を助けたウェブエコシステムはどんな意味を持つのだろうか。どうやらFacebookは、Appleの上昇とモバイルの上昇がGoogleにもたらしたのと同じ課題の多くを持つことになりそうだ。
数日後 ― 2月4日 ― 「Facebook – Run from the Bulls」で私はこう言った:
Goolgeの現在 ― そしてFacebookの未来 ― は、モバイルプラットフォームによる人間の移動中の生産性向上の大成功が、過去10年のデスクトップベース広告に悪影響を与えるという、辛い事実をはらんでいる。モバイルの成長はウェブ広告売上に影響を与える。もちろんハードウェアとソフトウェアで稼ぐAppleは例外で、この傾向の恩恵に預かる。理由は単純だ。われわれは、モバイルではウェブほどには広告中心の行動をとらない。そして、ほぼ単一画面のデバイスで特定の目的に集中している時、われわれは広告をクリックする可能性が低い。
そして、4月15日「モバイルのパラドックス」で私はこう書いた。:
今われわれが目にしているのは、パソコンのブラウザーであらゆるサービスを消費していたWeb 2.0時代の終わりを象徴する確固たる傾向に他ならない。その時代に取って代わるのは、新しい、アプリベースで、メッセージ中心のモバイル・インターネットだ。この新しい時代、現在の広告の中心的形態(テキスト、バナー、その他ページベースの広告)は、収益化手段として完全に間違っている。新しい何かが出現する必要がある。
死かモバイルか?
こうした傾向の脅威に晒されているのはFacebookだけではない。Googleは「クリック単価」を2期連続で落としている ― 似たような理由で。
重要な問題は、FacebookとGoogleが、問題の深刻さと対処方法を理解しているかどうかだ。
考えられる答えは2つしかない。
上記の問題にもかかわらず、Facebook(およびGoogle)は問題をよく理解しており、いずれ対処方法を見つけ出す。あるいは
FacebookおよびGoogleは絶滅する(先週Forbesが予言したように)。Web 2.0が、成長企業としてのYahoo ― 順応できなかったたために ― を殺したように、モバイルがWeb 2.0の巨人を殺す。私は、1の可能性の方が2よりも高いと思う。
なぜか。Facebookは今週もう一つ、本件と極めて関係の深い行動を起こした。独自のアプリストアを開業したのだ。Facebookのアプリストアは、AndroidあるいはiPhoneのアプリ開発者に対して、Facebookを使ってユーザーをGoogle PlayアプリストアやiPhone AppStoreへ誘導し、インストールできるようにする。そうなればFacebookがアプリダウンロードの主要な手段になる可能性がある。多くのプラットフォームにわたる何百万ものアプリのインストールを後押しするかもしれない。これらのインストールはタダではない、参加には費用が必要だ。
アプリセンターはFacebookに新しいタイプの広告形態を提供すると私は思っている ― アクション(インストール)と成功報酬を伴う広告だ。
Larry PageがGoogleの今期の収支会見で指摘していたように、モバイルは新しいタイプの広告形態を必要としている。彼は一例として「クリックして呼び出し」を挙げた。FacebookもGoogleも、モバイルでのユーザー体験により適合し、顧客にも広告主にとっても目的をよりよく反映した広告形態を展開し始めるだろう。今のところモバイルの広告形態は、試され信頼されてきたウェブ形態を単にコピーしただけで、新しい環境にはそぐわない。
2番目の選択肢 ― Web 2.0の死 ― は、これらの会社が自らのウェブの過去がこの新しいモバイル世界では価値がないことを理解できなかった場合に限ったシナリオのようだ。今週は、そのことを思い出させる大きなきっかけになったかもしれない。
Facebook(およびGoogle)は、作るにせよ買うにせよ、その収益化戦略をモバイルの未来により適合するように進化させる可能性が高い。時間もかかり痛みも伴い、あるいは失敗するかもしれない。しかし、やってみるしかない。Facebook 2.0はFacebook 1.0を葬り、Google 2.0はGoogle 1.0を葬る。今は、上場するにも、上場企業であるにも良い時期ではない。しかし、モバイルは未来だ ― 彼らはそれと相性が悪い、だがもちろんそれなしでは生きられない。
(翻訳:Nob Takahashi)