東京電力福島第一原発事故の警戒区域内にある福島県浪江町で牧場を運営する吉沢正巳さん(58)側に対し、牧場での作業内容などをインターネットで公開する場合は許可を得る、との同意書を町側が出させていたことがわかった。吉沢さんを支援する弁護士らは「憲法で禁じられた検閲にあたる」として政府や町に撤回を申し入れる方針だ。
吉沢さんは警戒区域内の家畜を殺すよう求めた国の方針に同意せず、区域内で約300頭の牛を飼っている。昨年11月以降、一時立ち入り許可を町に申請してきたが、町は最初の許可申請時から「作業内容や結果をネットなどで公にする場合は町の許可を得る」「マスコミは同行させない」などと記した同意書を2週間の許可証更新ごとに求めているという。
吉沢さんは「同意書を出さないと立ち入りができない。牛が死んでしまうからやむなく署名しているが、警戒区域内の真実を外に知らせるのを制限されるのは不当だ」と訴える。これに対し、馬場有(たもつ)町長は朝日新聞の取材に「(町が)公表規制の条件は付けた覚えはないし、必要もない」と述べ、政府の原子力災害現地対策本部の指示に基づく対応だとしている。
一方、現地対策本部の広報担当者は「牛を飼う活動が周辺に迷惑を及ぼしたこともあり、町から相談を受けた当時の担当者が町と同意条件を協議した」と説明している。
原発事故を巡る政府の情報統制を批判する日隅一雄弁護士は「記者の同行も含め市民の基本的権利の侵害だ」と指摘する。(本田雅和)