「時事深層」

ミクシィ、身売りを検討

突然の不自然な経営体制刷新

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2012年5月15日(火)

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 グリーやDeNAはゲームを通じて利用者同士がつながるが、ミクシィは知人や友人同士が現実でつながることを推し進めてライバルと差異化を図ってきた。そこに実名での利用を前提とするフェイスブックが本格参入してきたことで、ミクシィの立ち位置が不明瞭になり、利用者の多くがフェイスブックへと流れる結果となった。

 ミクシィも無策だったわけではない。2011年8月にはフェイスブックが提供していた企業や団体が無料でマーケティングに利用できる「フェイスブックページ」に対抗し、「ミクシィページ」を開始。また、「タウン構想」を発表し、コミュニケーションの場をプライベート空間とそれ以外に分ける「ホーム・タウン構想」を掲げるなど、懸命にフェイスブックとの違いを打ち出してきた。

 しかし、ミクシィが圧倒的な開発力を持つフェイスブックと対峙していくのはそもそも無理がある。IPO(新規株式公開)で巨額の資金調達を予定しているフェイスブックが今後、日本市場への攻勢を強めてくるのは確実で、単独での生き残りはますます難しくなる見込み。今回の株式売却交渉は、同業他社との連携に活路を求める動きと言える。

揺れるSNS業界

 消費者庁が「コンプリートガチャ」と呼ばれるソーシャルゲーム内の課金システムの規制に乗り出す方針であることが報じられ、SNS各社の株価が軒並み急落した連休明け。コンプガチャの扱いを巡るSNS各社の経営トップの発言に注目が集まる中、ミクシィは5月11日、2012年3月期の決算発表に合わせて経営体制の刷新を発表した。

 ただ内容は「突然で、不自然としか思えない」(SNS業界関係者)ものだった。これまで笠原社長とともにミクシィを率いていた原田明典副社長が取締役に降格したほか、経営管理を担当してきた小泉文明取締役が役員から退き、顧問に就任する内容だったためだ。

 ミクシィは「笠原社長に権限を集中させ、意志決定を迅速にするためだ」と説明するが、当の笠原社長は決算発表会の席上で、「原田氏には今後も施策などのアドバイスをいただく」「引き続きいくつかの案件を担当してもらう予定」など、つじつまの合わない説明を繰り返した。

 突然の経営体制刷新を身売りに向けた地ならしと見る向きがある一方、経営幹部の降格や退任を受け、証券業界では「ミクシィ社内が混乱状態にあるのではないか」と指摘する声もある。もしこれが真実なら、身売りを含めた同社の行方はさらに不透明なものになる。

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著者プロフィール

原 隆(はら・たかし)

日経ビジネス記者。日経BP社入社後は日経パソコンに約7年勤務。その後、日経コミュニケーション、日経ネットマーケティング(現日経デジタルマーケティング)を経て2010年1月よりビジネス編集部に在籍。電機・ITグループ所属、主にインターネット業界担当。趣味は酒と麻雀とピアノ。宮崎県出身、高田馬場在住15年目。「鳥やす」で焼き鳥とビールを飲むのが好き。Twitterアカウントは@haratakashi。飲んだときにしかほとんどつぶやかない

白石 武志(しらいし・たけし)

日経ビジネス記者。



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日経ビジネス “ここさえ読めば毎週のニュースの本質がわかる”―ニュース連動の解説記事。日経ビジネス編集部が、景気、業界再編の動きから最新マーケティング動向やヒット商品まで幅広くウォッチ。

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