「時事深層」

ミクシィ、身売りを検討

突然の不自然な経営体制刷新

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2012年5月15日(火)

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 日本のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)業界を牽引してきたミクシィが身売りを検討していることが明らかになった。社長の笠原健治氏が保有する約55%の株式について、売却に向けた交渉への参加を複数の企業に打診し始めた。近く行われる入札にはグリーやDeNA(ディー・エヌ・エー)といった競合他社などが参加する見通しだ。

 ある金融筋は「今春、ミクシィから競合他社に株式売却の話が持ち込まれた」と証言する。笠原社長の意を受けた証券会社が株式の売却を持ちかけたといい、「第一段階では笠原社長の保有株式の一部を譲渡して資本提携し、その後、将来的に全株式を放出する案が示された」と続ける。

 ミクシィが身売りを検討するのは、今回が初めてではない。過去に一度、ヤフーとの間で資本提携が実現まであと一歩のところまで進んだことがある。両社の交渉は2011年2月末にプレスリリースを配信する直前まで進んだが、最終局面で条件が折り合わず結局、白紙に戻ってしまったという経緯がある。

 ミクシィがSNSを開始したのは2004年2月。当初は同時期にサービスを開始したグリーに比べて圧倒的に多くの会員を獲得し、日本のSNS業界を牽引してきた。しかしその後、携帯電話に主軸を置き、ソーシャルゲームを事業の中心に据えたグリーとDeNAが急成長。一方、リーマンショックの影響やスマートフォンの台頭で、収益の大半をパソコンや携帯電話の広告に依存してきたミクシィの業績は低迷を続けた。

 2011年11月には方針転換を決意し、従来から提供していたSNS上のアプリのうち、ゲームのみを集約した「ミクシィゲーム」を新設。他社に比べて出遅れていたソーシャルゲーム分野のテコ入れによって、広告モデルから課金収入モデルへのシフトを加速させている。

 だが、グリーやDeNAに比べると業績の差は歴然としている。ミクシィの2012年3月期の売上高は前年同期比横ばいの133億3400万円。営業利益は同34.9%減の21億9400万円に落ち込み、純利益は7億4900万円と同45.8%減少した。

 ミクシィへの資本参加に関心を示している1社と見られるDeNAの2012年3月期の売上高は1457億2900万円と、前年同期比29.3%増加した。純利益は同9.1%増の344億8500万円。同じく売却交渉に参加すると見られるグリーの2012年6月期の連結業績予想は売上高が1600億〜1700億円、純利益は440億〜500億円。こちらは前年度比2倍超の成長を見込む。

 成長力の差は3社の時価総額に端的に表れている。ピーク時の2007年秋に約3000億円に達したミクシィの時価総額は約250億円にまで減少(5月14日時点)。DeNA(時価総額約3000億円)やグリー(同約3400億円)とは10倍以上の開きがある。

フェイスブック台頭で窮地

 ミクシィが窮地に立たされた一番の理由は、世界最大手のSNSである米フェイスブックの国内市場での台頭だ。現在全世界で9億人を超すユーザーを持つ米フェイスブックだが、本格的な日本市場開拓は2010年から。完全実名によるSNS利用を推進するフェイスブックの存在は、ソーシャルゲームと一線を画してきたミクシィの独自性を奪い去った。

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著者プロフィール

原 隆(はら・たかし)

日経ビジネス記者。日経BP社入社後は日経パソコンに約7年勤務。その後、日経コミュニケーション、日経ネットマーケティング(現日経デジタルマーケティング)を経て2010年1月よりビジネス編集部に在籍。電機・ITグループ所属、主にインターネット業界担当。趣味は酒と麻雀とピアノ。宮崎県出身、高田馬場在住15年目。「鳥やす」で焼き鳥とビールを飲むのが好き。Twitterアカウントは@haratakashi。飲んだときにしかほとんどつぶやかない

白石 武志(しらいし・たけし)

日経ビジネス記者。



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日経ビジネス “ここさえ読めば毎週のニュースの本質がわかる”―ニュース連動の解説記事。日経ビジネス編集部が、景気、業界再編の動きから最新マーケティング動向やヒット商品まで幅広くウォッチ。

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