先月末、兵庫県洲本市では、地元の有志が「空き家」を活用した展示イベントの準備を進めていました。
<実行委員>
「ここが床落ちていた。この畳をすべてかえました。もう1週間でなんとかなると思います。最初は幽霊屋敷だったからだいぶましになりました」
改装された「空き家」には、若手職人が手作りした洋服や雑貨などが並ぶ予定です。
洲本市では、若者が都会に出るなど過疎化が進んでいて家の跡継ぎがいなくなり、そのまま放置された「空き家」が増えているのです。
<実行委員>
「一度空いてしまうと、オーナーも次入ってくれると思っていないので、空きっぱなし。そのまま放ってあるのが、結構多いんですよねえ」
今後も増え続ける「空き家」。

しかし、これは過疎地に限った問題ではありません。
大阪市・西成区。
JR天王寺駅から10分程のこの辺りには、老朽化した「空き家」が建ち並んでいます。
さらに進んでいくと…
<記者リポート>
「あっ。古い家が見えてきましたねえ。屋根が一部、崩落しています。これは人が住める状況ではないですね」
こうした「空き家」は、地震で倒壊したり火事の火元や犯罪の温床などになることから、近くの住民から不安の声が上がっています。

<元住民>
「そりゃ危ないわなあ。『空き家』は、ボロボロになっていたら腐ってドサンといきよるからな」
<近隣住民>
「怖いっていうたら怖いわな。いつ火事になるかわからないしなあ」
実際、この近くでは去年12月、「空き家」や周りの木造アパートなど7棟が焼ける火事が起きました。
以前から、倒壊の危険性などを指摘する声が西成区に寄せられていたといいますが、所有者の同意を得られなかったため、撤去することはできませんでした。
<西成区 柴生謙一総合企画担当課長>
「(火事が起こった)物件について、区民の方から『非常に危ない』と通報があって、西消防署にお願いして来てもらって緊急的な処置はやってもらったが、そこから約1か月後に『空き家』から出火して火事になった事例があった。最悪のケースだった」

さらに、「空き家」の撤去を難しくしているのが、土地の税制優遇制度です。
土地にかかる固定資産税などは、住宅を建てると4分の1に減額され、「空き家」になった場合もそのまま優遇されます。
ところが、「空き家」を取り壊して更地にした場合、優遇措置は全く受けられないため放置しておくケースが後を絶たないのです。
<西成区 柴生謙一総合企画担当課長>
「登記簿上も実際に登記されていた方と現実の持ち主が違うパターンがあったりとか、登記簿もかなりデータが古くなっていて、いろいろ権利が複雑になっているというようなことが事例としてありますんで、誰に管理責任があるのか特定できないのもかなりあると聞いております」
少子化や核家族化などが進み、「空き家」は全国的に増加しています。
総務省によりますと、1988年に全国で394万戸だった「空き家」の戸数は、この20年間で757万戸に倍増。
「空き家率」は13.1パーセントとなり、実に7戸に1戸が「空き家」です。

深刻化する「空き家問題」…。
それに歯止めをかけようと動き出した自治体もあります。
全国的に広がる「空き家問題」。
それがさらに深刻な地域があります。
北海道では、冬になると積もった雪の重みで「空き家」が倒壊し、周囲に被害を及ぼすことも少なくありません。

<住民>
「古いからかなり危ない」
こうした問題に歯止めをかけようと北海道の滝川市では先月、危険な「空き家」の所有者に対し、撤去を命令することができる条例を制定しました。
さらに、秋田県の大仙市では今年3月、条例で定められた撤去命令に従わなかった5棟の「空き家」を、全国で初めて行政代執行で解体しました。
条例化の動きは、都市部でもみられます。
東京都足立区には、東京大空襲を免れた古い木造住宅などが今も多く残っています。
<記者リポート>
「あっ、屋根が完全に抜け落ちてますね。しかも傾いて隣の家に寄りかかってます。事情に危険な状態です」
今年3月の区の調査で、老朽化した家屋はおよそ2,000件あり、そのうち63件は早急に解体が必要です。

区では建築基準法など、現在の法律に基づいて解体を進めようとしましたが、勧告や命令を行うには時間がかかるため、より迅速に対応できる条例制定に踏み切ったのです。
<足立区 吉原治幸建築安全課長>
「足立区としては、『何か起きてからでは遅すぎる』をスローガンに条例制定をしています」
条例制定のきっかけとなったのが、この店舗付き住宅。
壁に貼られたタイルにひび割れが生じ、危険な状態だとして再三、行政指導を受けました。
ところが改善はみられず、2年後、突風で壁が落下したのです。
足立区では、これまでに危険な老朽家屋13件に対して勧告を行い、そのうち6件を解体しました。
<足立区 吉原治幸建築安全課長>
「今までは他の建築行政の片手間というか一環としてやっていたが、(条例を活用して)所有者とやりとりをして信頼関係をつくって解体までもっていくよいうやり方をしていました。それでかなり進んだではないかというふうに思います」
国交省によりますと、おととし埼玉県所沢市で全国初の「空き家条例」が制定されたのを皮切りに、現在は少なくとも22都道府県の54の自治体が「空き家条例」を制定しています。
こうした流れを受け、大阪市も条例化の検討を始めました。
先月末、西成区役所で、初めての「空き家問題対策会議」が開かれ、条例化を含め、7月までに方向性を出すことが決まりました。
<大阪市 橋下徹市長・5月7日>
「『空き家条例』に関しても悩ましいところはあるが、行政の実務の現場からすると『空き家』を放置するデメリットがあまりにも大きいので、火災とかになると問題が出てくるから、一定の制約はやむを得ないのかなと思っています」
「空き家」の魅力を発信し、町おこしを目指す兵庫県洲本市。
ゴールデンウイーク中に企画された、「空き家」を有効活用した展示・販売イベントには、2日間で8,000人の観光客らが訪れ、かってのにぎわいが戻りました。

<岡山からの観光客・女性2人組>
「(空き家を)つぶすのはもったいない気がしますねえ。せっかく古くていいものがあるなら、生かしていってもいいのかなと」
<出店者(淡路市で勉強中)>
「古い物が好きな若い人たちも多いから、そういう人たちを集めれば形になっていくのかなあと思っていいと思う」
集まった人の中には、「空き家」での生活に興味をもつ人も出てきたといいます。
<実行委員長 野口純子さん(69)>
「これだけ魅力的なことをすればら、人が集まることが証明された。あとは若い人に住んでもらうと、そこですね」
今後も「空き家」が確実に増え続ける時代、家という「財産」を「負の遺産」にしないためにはどうすればいいのか。
地域を巻き込んだ各自治体の戦略が、試されることになります。
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