「すげえ」「かっけえええ」「見とれてコメント打てん」「これは見入ってしまう」「美しい…ただ美しい」「鳥肌」「演奏から歌から踊りから素晴らしいな」「日本人でよかった」……。
曲に乗る相づちコメントや拍手のコメントが弾幕のように流れる合間に、こうしたコメントも多数混じる。演目は、「Bad Apple」と題された「東方」と呼ばれるインディーズゲームシリーズのゲーム音楽をもとにしたもの。東方はボカロ、アイマスに並ぶニコ動の人気ジャンルで、ゲームのキャラクターや音楽をもとにした創作活動が活発に行われている。
■伝統芸に惜しみない称賛
まずは和風仕立てなメロディーのBad Appleをポップミュージック風にアレンジし、歌詞を付けて歌った動画が人気を博した。その音源をもとにした影絵のCG(コンピューター・グラフィクス)アニメーションのプロモーションビデオが1460万再生を超える大ヒットとなり、ボカロの合成音や歌い手が歌うなどの二次創作、三次創作が相次いだ。
その一環として、「【邦楽BadApple!!】傷林果」と題され11年8月に投稿された動画が、ひときわ大きな反響を呼んだ。東方と伝統文化のコラボレーション。長唄三味線・現代邦楽三味線の演奏家として国内外で多数の公演に参加している杵家七三(きねいえ・なみ)さんなど、その道の大家が演奏した動画は、1年足らずで100万再生を超えるヒット作となった。
この動画を企画したのは日本古来の奇術、手妻師として活動する藤山晃太郎氏。彼もまた、ボカロ曲「ダブルラリアット」に乗せ、金属の輪の中につかまってぐるぐると回り続ける動画の投稿を機に有名となった1人である。
超パーティーでは、傷林果の動画の演奏に加え、人気歌い手の歌と日本舞踊が加わり、見る者の心を奪った。50代後半の杵家七三さんは舞台で「この歳でこの若い方々の前でここに立つとは夢にも思っていませんでした。でもBBA(ババアを指す隠語)とは呼ばないでください」とあいさつすると、会場からは爆笑と惜しみない拍手が湧き、中継画面上でも「かわいい」「88888」といったコメントが大量に送られた。
■AKB48も6年前は「異質な存在」
この超パーティーの模様は今でも録画を見ることができる(視聴には2500円が必要)。きっとニコ動を知らない大人は、全体として異様で異質なものに見えるだろう。しかし思い起こしてほしい。小さい頃、カセットテープをダビングしてオリジナルテープを作り遊んでいた経験や、テレビ番組の「ダンス甲子園」に夢中になっていた経験を。元来、二次創作は楽しいものであり、仲間からスターが生まれるのも誇らしいものなのだ。
何事も早すぎて一部の好事家に閉じたものには奇異の目が向けられるが、すそ野が広がり市場として育てば見る目が変わる。特に芸能文化に予断は禁物。「AKB48」がいい例だ。6年前、秋葉原の総合小売店、ドン・キホーテの上で“オタク”相手にライブを繰り返していた彼女たちや、日々ライブに出かけるファンは、異質なものと捉えられていた。それがどう変質したかは周知のところ。
「多様性と共感のメディア」というべきニコ動が生み出しているコンテンツもまた、5年後、10年後、世間を一世風靡する存在になっているかもしれない。20代人口の8割以上が会員であり、若者がテレビよりも夢中になるニコ動は、メディアという言葉が本来、意味する「媒体」として若者に根付いている。すなわち、メディアがコンテンツを作り押しつけるのではなく、コンテンツを橋渡しする「プラットフォーム」として発展しているのだ。
そこで起きているコンテンツ革命から目を背ければ、時が経つにつれ、取り残されるだけだ。ビジネスの観点からすれば、大きな経済的利益を逸失する可能性すらある。ニコ動と経済の距離は、この春、また縮まった。(続く)
(電子報道部 井上理)
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