ホーム 東日本大震災 3.11大震災・断面 【県民健康調査問診票】15万人線量推計難航 行動記録整わず 29万人は処理手間取る

【県民健康調査問診票】15万人線量推計難航 行動記録整わず 29万人は処理手間取る

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 東京電力福島第一原発事故を受け県が実施している県民健康管理調査の基本調査で、回収した問診票約45万件のうち3割超の約15万人分の行動記録の記載が整っておらず、外部被ばく線量を正確に推計できない見通しとなっている。該当者と連絡が取れないケースが多く、不明点の確認作業は難航している。行動記録の記載が十分だった約30万人分のデータ処理作業にも手間取り、線量の推計値を計算できたのは1万人分程度にとどまっている。

■気が遠くなる
 「気の遠くなるような確認作業だ。いつ終了するか見当が付かない」。県民健康管理調査の回収、分析を担当する福島医大放射線医学県民健康管理センターの担当者は、正確な外部被ばく線量が推計不能とみられる問診票を前にため息をつく。
 問診票は原発事故発生後に、県民が過ごした場所を1時間単位で記入するよう求めている。緯度・経度を割り出し、2キロ四方ごとの放射線量を示したマップと突き合わせ外部被ばく線量を算出する。
 しかし、居場所について「避難所」との記載やスーパーの店名だけが記されている問診票が目立つという。記入欄が小さく、移動が多い日に書き切れないことや、原発事故から時間が経過し、詳細な記憶が薄れていることが要因とみられる。
 こうした場合、住所の「字」名が判明せず、緯度・経度を特定できない。センターは連日、12人体制で不明な点を問い合わせているが、電話番号が書かれていないケースや、電話がつながらない場合が多い。
 県保健福祉部の職員は「このままでは、原発事故と健康に関する基礎データが不足し、調査が成り立たなくなる懸念もある」と危機感を示す。

■見通し甘い
 「いつ結果が戻ってくるのか教えてほしい」。県健康管理調査室には、外部被ばく線量の推計結果を気に掛ける県民からの電話が相次いでいる。職員は「遅くなり申し訳ない。必ず返送します」と答えるのがやっとだ。
 県民健康管理センターは記載内容が整っている問診票約29万人分について、7月末までに処理を終え、県民に通知する方針だ。膨大な作業に対応するため、35人でスタートしたデータの入力作業は現在、20倍の700人に増強された。
 ただ、目標達成には1日3500人分以上の推計値を算出しなければならない。さらに、計算業務を担当する放射線医学総合研究所(放医研)が計算した数値をチェックする作業も控えている。「厳しい目標だが、全力で努力する」。センター職員は言葉に力を込める。だが、県内部からは「どう対応するのか。達成は不可能に近い」と見通しの甘さを指摘する声も出ている。
 さらに、調査対象者の8割近い約160万人の問診票は未回収だ。今後、回収が進めばデータ処理作業は増える。しかし、作業に当たる人員をさらに増強することは財政運営上、難しいという。
 昨年秋に問診票を提出したが、結果が届かない福島市腰浜町の主婦(40)は「事故当時の記憶をたどり問診票に記入した。健康に関する情報を知りたいという県民の要望に、県は一刻も早く応えるべき」と指摘した。


【背景】
 県民健康管理調査の基本調査は、東京電力福島第一原発事故が発生した昨年3月11日から7月11日まで4カ月間の行動記録を分析し、県民の外部被ばく線量を推計することが目的。県民ら205万6994人が対象で、3月末現在、45万1446人分の問診票を回収した。うち約1万人分の外部被ばく線量の推計値を算出。放射線業務の従事経験者を除いた最高値は23ミリシーベルトで、全体の94.6%が5ミリシーベルト未満だった。県は「放射線による健康影響があるとは考えにくい」と分析している。

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このページは、東日本大震災の2012年5月13日の記事です。

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