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 談論風発 :  ブーメラン戦略/Uターンの流れをつくる
 隠岐島前高校魅力化推進協議会 岩本 悠 

 「30歳で島に戻り、町長になってこの島を日本一幸福度が高い町にしていきたい」「将来、西ノ島に人と人を繋(つな)ぐ爛劵肇張淵カフェ瓩魍き、私の好きな『食』を通じて、町をもっと元気にしていきたい」

 この春、さまざまな想(おも)いを胸に33人が隠岐島前高校を卒業し、その中の9割の子は島外へ出て行った。冒頭にコメントを紹介した2人も夢に向かって東京の大学へ進学していった。1カ月たち、2人とも自分の夢に近づくようなアルバイトやサークル、社会活動を見つけたようで、今後は海外へも出て「北欧の地方自治」や「仏・伊の食文化」を学びたいと言っている。昨年の春に「将来は島に新しい産業をつくりたい」と経営学部に進学した一つ上の先輩は、島と東京を繋ぐ人材ビジネスを構想し、ビジネスプランコンテストで入賞、この春には豪州で地域活動を体験してきたとのこと。

 一方、郵便局に就職し、島に残った卒業生も「自分はここで地域の中に繋がりをつくっておいて、あいつらが帰って来たときに、一緒にやれるように準備しておきます」と日々頑張っている。

 こうした彼らの姿は、島根県・学校・地域が長年取り組んできた「ふるさと教育」や「キャリア教育」の成果の現れでもあろう。

 ここ島前は、少子高齢化や人口減少の著しい島根県の中でも、だいぶ先を行っている。島前地域のこの10年間の平均出生数は3町村を合計しても毎年30人程度。子どもの数が少ない上に、現在の30〜40代の残人口率(出生数に対して、現在住んでいる人数の割合)は約40%。島根県の平均(約83%)の半分以下となっている。今後、40%に満たないUターン率をどう高めていくかは、地域存続のための生命線なのである。

 Uターン者を増やすうえで一つ参考にすべきは、『ブーメラン』の発想だと思う。高校卒業時に地域から出すとき、「なるべく遠くに行って欲しくない」と近くに抑えようとするより、ブーメランのように思い切り外へ飛ばしてあげたほうが、力強く元の場所へ還(かえ)ってくるという考え方である。今の山陰の若い子たちは「内向き」の傾向があるというか、遠慮しがちなので、なかなか全国や世界という視野で飛び出していく子は多くない。そこでどうせ外へ出すなら、「手の届く範囲に」などと言わず、最前線に届くぐらい押し出してあげて良いのではないか。地元との繋がりを持ちながらも、20代は外の激しい荒波の中でしっかり鍛えられ、自分で仕事を回せるだけの力をつけ、たくましい姿になって戻ってくる。まさに、サケが春に清流から大海へ旅立ち、遠く北米沿岸まで回遊し、数年後、また大きくなって母川へ帰ってくるイメージである。

 今までは、若者は都会へ出ていき、「地元には仕事がない」と帰って来なかったが、これからは「地元に仕事をつくりに帰りたい」とチャレンジ精神がある若者ほど戻ってくるようにしていきたい。そのためには、高校卒業時までの地域に根ざしたキャリア教育の充実が大前提ではあるが、それに加えて、若い出郷者たちと地元を繋ぎ、相互に情報や想いの共有を行い、Uターンや地域貢献を促すネットワークやコミュニティーづくりも必要である。その際、今どきの若者に合わせて、SNS(会員制交流サイト)の活用や地域プロボノ(専門性を活(い)かして社会貢献するボランティア)の推進など新しい発想も取り入れないと効果は上がらないだろう。また、Uターン者の「定住」の支援に留まらず、「創業」や「自立」を支援する受け皿も地域側につくっておく必要がある。そうした幾多の課題を乗り越え、10年後、彼ら彼女らが大きく成長して(あわよくばパートナーや子どもを連れて)続々と島へ帰ってくる。この春そんな夢を見るようになった。

…………………………………

 いわもと・ゆう 1979年、東京生まれ。大学時代に1年間、アジア・アフリカを巡り『流学日記』を出版。その印税などでアフガニスタンに学校をつくる。ソニーで人材育成や社会貢献事業に従事する傍ら、学校や大学でのキャリア教育に取り組む。2006年から隠岐島前に移住し、島前高校魅力化プロジェクトに携わる。

('12/05/12 無断転載禁止)

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