フィリピン女性にハマった“50男”の悲しい結末

★水谷竹秀著「日本を捨てた男たち」−フィリピンで生きる「困窮邦人」−(集英社)

2011.12.04

連載:ブック


水谷竹秀さん【拡大】

 フィリピンで暮らす日本人ホームレスたちの生き様を描き、「第9回開高健ノンフィクション賞」に輝いた衝撃作。彼らの多くは50歳以上。何が中年男の人生を狂わせたのか? (文・写真 大谷順)

 −−約1000万円の年収と5000万円近い退職金を貰いながら、フィリピンに“ハマって”いく50男が出てきます

 「大企業に勤め、立派な家庭があり、酒も遊びもほとんどやらない人でした。趣味と言えば、ゴルフかパチンコぐらい。ところが、単身赴任中に同僚に連れられて遊びにいったフィリピンクラブの虜になり、人生が変わってしまったのです。『こんな世界があったのか』と。約2年間でその店につぎ込んだお金は約1000万円。奥さんと別れ、25歳も年下のフィリピン女性を追っかけて現地へ行ってしまう」

 −−何が彼をそうさせたのでしょうか?

 「彼は、『日本の生活には自由がなかった。窮屈だった』というのですが、それまで、遊びらしい遊びをしていなかった分だけ、『免疫』がなく、弾けてしまったのかもしれません。でも、置き去りにされた(日本の)奥さんの気持ちを考えると、かわいそうでなりませんね」

 −−彼も結局、所持金すべてを無くし、フィリピン人妻から追い出されてしまう。分別盛りの中年男なのに、「結末」を予想できなかったのでしょうか?

 「日本にいるときから、(フィリピン妻の)家族からビデオレターや手紙を送ってもらっていたため、『オレについてきてくれる』と信用してしまったようです。彼らの多くは現地の言葉ができず、習慣にも詳しくない。それがネックになり、ウソをつかれたり、だまされていても分からないのです」

 −−「困窮邦人」に落ちても、日本に帰らないのはなぜ

 「帰国するにもお金が必要です。彼らは、女性を追っかけて“自己都合で”フィリピンに来た人たちですから、現地の日本大使館もそう簡単にはお金を貸してくれない。それに、日本に帰ったところで、居場所もなければ、仕事もない。将来を描けないのです。フィリピンにいる限り、年中、Tシャツ1枚で暮らせるし、物価も安い。フィリピン人も親切なので、何とか暮らせてしまうからでしょう」

 −−彼らの生き様を通じて描きたかったことは

 「甘えやずるい部分、弱さ、見栄…彼らを取材していると憤りを感じることもあります。でも、彼らも、やっぱり『生きていたい』んですよ。そんな姿に人間的なものを感じましたね。それから、物質的には豊かなはずの日本社会の不条理さ。毎年、自殺者が3万人もいて、ストレスが多く、『逃げ出したくなる』ような社会…。マニラから見た日本はどこかヘンな国なのですよ」

 ■第9回開高健ノンフィクション賞受賞「日本を捨てた男たち」−フィリピンでホームレス−集英社・1575円 

 海外で経済的に困窮している「困窮邦人」が急増しており、半数近くを占めるのがフィリピンだ。彼らの多くは日本のフィリピンクラブなどで知り合った女の子を追っかけて現地に渡ったのはいいが、「カネの切れ目が縁の切れ目」。所持金が底をついた後は彼女にも見放され、教会で夜露をしのぎ、わずかな手伝い仕事で食いつなぐしかない。それでも男たちは、日本に帰ろうとしないのだ。現地邦字紙記者が追った異色のノンフィクション。

 ■みずたに・たけひで 1975年、三重県出身。上智大学外国語学部英語学科卒。ウエディング専門のカメラマンを経て、2004年、フィリピンの日刊邦字紙「マニラ新聞」の記者となる。主に、邦人がかかわった事件や、邦人社会に関する問題など“社会部ネタ”を担当。本書で「第9回 開高健ノンフィクション賞」を受賞した。

 【取材後記】

 本書には、フィリピンクラブに1日3万円も4万円もつぎ込み、連日、通い詰める“哀れな男たち”が出てくる。

 水谷さんによれば、料金は、マニラの同様の店の約10倍。だから、日本に出稼ぎにくるフィリピン女性が多いのだ。ただ、最近はビザの発給要件が厳しくなったため、日本のフィリピンクラブもさびれがち。

 女性を追っかけてフィリピンに行き、結婚までこぎ着けても、「長続きしたケースはめったにない」(水谷さん)という。それでも当地を目指す日本人男たちは後を絶たない。本書で、そのナゾがいくらかでもわかったような気がした。

 

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