真菌検査の分離同定の基礎

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真菌塗抹標本の作成

真菌類の培養日数

真菌類の分離培地

真菌の釣菌

真菌の同定

糸状菌の同定

主な糸状菌(アスペルギルス属)

抗真菌薬


真菌塗抹標本の作成


塗抹標本の作成意義


菌類は発育速度の遅い微生物であるため、塗抹標本の鏡検により真菌要素を類推し報告することは、臨床的に重要になります。 特に、糸状菌(呼吸器材料など)・Cryptococcus spp.は臨床的に重篤な場合に分離され、発育も遅いので塗抹による報告は重要です。塗抹標本などから菌種がある程度判断が可能な場合は臨床側にできるだけ報告します。

(1)主な塗抹および封入の種類

染色および封入方法は、検査材料や目標菌などの違いによって、以下の方法から選択します

標本の種類

対象検体

1)グラム染色 一般検体(痰、尿などの)
2)KOH標本 爪・毛髪・皮膚
3)DMSO標本 爪・毛髪
4)墨汁染色 Cryptococcus spp.疑いの髄液
5)ラクトフェノ-ルコットンブル-染色 真菌の封入(真菌の形態を確認する場合)
6)テルジト-ル液標本 真菌の封入(真菌の形態を確認する場合)
7)蛍光染色 真菌要素の確認

(2)KOH/DMSO標本(爪・毛髪・皮膚など)

皮膚科領域の検体(爪/毛髪/皮膚など)の標本は、無染染色標本(KOH標本)を作成します。

無染色のため、観察に注意が必要です。

検体別の作成方法

1.皮膚、鱗屑、毛髪、耳垢など

検体の小片をスライドガラスにのせ、10%KOHを1適滴下しカバ-ガラスを静かにかぶせ数分間静置後鏡検する。(検体が毛髪の場合は、上から押さえないようにする)

2.爪等の硬い検体

検体の小片をスライドガラスにのせ、DMSO液を1適滴下しカバ-ガラスを静かにかぶせ数分間静置後鏡検する。(さらに硬い検体は、DMSO液に1昼夜浸漬後鏡検する)


(3)墨汁染色標本(髄液検体など)

Cryptococcus spp.は夾膜を形成することから髄液などに存在が疑われる場合は、墨汁染色により証明できますCryptococcus spp.は、発育速度が遅いので墨汁染色により、迅速報告が可能です。


1.検体の処理方法

1)髄液、気管支洗浄液等を3000rpm/20min遠心する。

2)上記沈渣1白金耳と、墨汁1白金耳を良く混和する。(墨汁は薄めが見やすい)

3)カバ-ガラスを被せ×400で鏡検する。

(4)蛍光染色(追加確認染色)−ファンギフロ-ラYなど

グラム染色で不明瞭な場合に追加的に行う染色。検体の塗抹方法は、グラム染色の場合に準じて行う.
セルロ-スを染色するので、埃の混入に注意する。

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真菌類の培養日数

培養日数選択の意義

真菌類は酵母様真菌と糸状菌では、発育速度や至適培養温度が異なります。また、検査材料や目標菌の違いにより、期間や至適培養温度が異なります。ある程度目標菌がわかっている場合や疑いのある場合は、培養期間や至適培養温度をそれに合わせる必要があります。培地を何枚も併用することが困難な場合は、18-36時間後までは酵母様真菌狙いで培養しその後糸状菌狙いの培養へ移行する。

(1)培養温度と培養日数

1.一般検体(特に酵母様真菌の分離培養)

35℃前後の孵卵器で18-48時間培養。

2.皮膚科領域(爪/皮膚/組織そのもので目標菌が糸状菌)

27℃前後の孵卵器で30日間培養(少なくとも2週間前後は培養)

3.呼吸器系材料で糸状菌感染が疑われる検体

27℃前後の孵卵器で7日間培養(少なくとも5日間は培養)

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真菌類の分離培地

真菌類を分離する培地は、検体や目標菌、培養期間の違いにより選択する必要があります。また、分離された菌種によってはそれぞれ異なる培地上での発育特徴を同定指針とするため、目標菌に合った培地を選択する必要があります。

(1)主な分離/鑑別/増菌培地

1.酵母様真菌分離鑑別培地

ATG寒天、クロモアガ-など、集落が菌種ごとに特有の発色を示すもの。複数菌種の分離鑑別に有効。

2.サブロ-培地

酵母様真菌、糸状菌の分離に有効。酵母様真菌が複数菌種存在する場合は鑑別が困難。

3.200μg/mlクロラムフェニコ-ル加サブロ-ブロス培地

酵母様真菌、糸状菌の増菌に有効。

4.ポテトデキストロ-ス(PDA)培地

Trichophytom sp.疑いの時、特に巨大集落培養作成時に用いる。

5.ツアペックドックス(CZ)培地

Aspergillus sp.疑いの時、特に巨大集落培養作成時に用いる。

6.200μg/mlクロラムフェニコ-ル加サブロ-斜面培地

皮膚真菌症等が疑われる場合の皮膚科材料の培養。

(2)検体別の各培地の組み合わせ方法(例)

1.喀痰、咽頭、尿、膿、膣分泌物など。

*酵母様真菌分離鑑別培地(ATG寒天、クロモアガ-など)
*サブロ-培地(糸状菌分離用)

2.髄液、穿刺液、血液、胸水など嫌気性液状で、増菌が必要と思われる検体。

*200μg/mlクロラムフェニコ-ル加サブロ-ブロス培地

3.皮膚科領域材料(爪/皮膚/組織/鱗屑そのもの)

*200μg/mlクロラムフェニコ-ル加サブロ-斜面培地

*ポテトデキストロ-ス(PDA)培地 (Trichophytom sp.疑いの時)

4.その他(動物の毛、家の埃など)

*200μg/mlクロラムフェニコ-ル加サブロ-斜面培地

*ポテトデキストロ-ス(PDA)培地 (Trichophytom sp.疑いの時)

5.目標菌が、でんぷう菌である場合。

*サブロ-培地(平板) −−−−−オリ-ブオイルを接種後上から流す。

*200μg/mlクロラムフェニコ-ル加サブロ-斜面培地(オリ-ブオイルを接種後上から流す)

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真菌の釣菌

真菌類を釣菌する場合は、酵母様真菌と糸状菌で発育速度が異なるので、平板の観察に注意が必要です。また、選択培地からの釣菌では、

サブロ-培地上に一般細菌の発育が認められる場合に、コンタミネ-ションしないよう注意します。

(1)糸状菌の釣菌方法

1.糸状菌の発育が確認されたら、カギ型エ-ゼを用いて菌糸をかき取り、スライドガラス上にKOH液またはDMSO液を1滴下してから、

カギ型エ-ゼと有柄針を用いて、菌糸をほぐしKOH標本またはDMSO標本を作成する。

(図1.2参照)


ほぐす

(図1 菌糸をほぐす)

標本作成

(図2 標本の作成)

2.上記1.で作成した標本を鏡検し、同定が可能な場合は、報告する。同定が困難な場合は再度、カギ型エ-ゼを

用いて菌糸をかき取り、巨大集落培養と スライドカルチャ-を作成し、同定作業に移る(図.3参照)。コンタミネ-ションを

防ぐために、接種は培地面が手前側にくるようにカギ型エ-ゼを用いて裏側より接種する。

接種

(図:3糸状菌の接種方法)


(2)酵母様真菌の釣菌方法


1. ATG寒天、クロモアガ-など、集落が菌種ごとに特有の発色を示す培地では、細菌発育抑制物質が含まれているの

で一般細菌のコンタミネ-ションに注意して色調の違うコロニ−を釣菌する。

2.サブロ-培地などに純培養する。(サブロ-培地では、集落の状態(R型、S型、艶、発育速度)を考慮して釣菌する)

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真菌の同定

真菌類の同定は、酵母様真菌は主に集落の性状と生化学的性状により同定し、糸状菌は、集落の性状と顕微鏡下での形態的特徴

により同定する。また、両者とも必要に応じて、追加試験を実施し同定する。

(1)酵母様真菌の同定

1.生化学的性状
2.主な追加試験

1)発芽管試験 (Candida albicans疑いの時は発芽管試験を実施)

子牛血清を滅菌スピッツにとり、少量の菌を溶かし37℃で2時間培養する。仮性菌糸と母親細の付け根がくびれなく伸びている場合陽性とする。(C.albicansということ)

2)ウレア-ゼ試験(Cryptococcus sp.疑いの時は、ウレア-ゼ試験を行う)

Cryptococcus sp.はウレア-ゼ陽性であるため、クリステンゼンの尿素培地等に植え替えて判定する。Trichosporon sp.も同様に陽性を示すが 、形態的特徴(Cryptococcus sp.は莢膜を持つためムコイド状。Trichosporon sp.は(R)型集落)から判断する。

3)その他

1.Candida glabrataや、Candida krusei は、仮性菌糸を形成しないので、塗抹の結果を判断材料にできる。
2.Candida glabrata や、Candida krusei は、利用する糖が少ない 。(Candida glabrata:主にグルコ-ス、トレハロ-ス 、 Candida krusei:グルコ-ス)

3.分離鑑別培地 の集落色調も合わせて判断材料とする。

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糸状菌の同定

(1)糸状菌の同定


1.巨大集落培養

1)巨大集落培養の作成方法
1.真菌の釣菌

(1)糸状菌の釣菌の2)を参考にし、菌糸を接種する。接種する培地の選択は、真菌類の分離培地を参照。


2.菌種により培養期間は異なるが、Aspergillus sp.などで2−3週間、皮膚糸状菌は2−4週間で観察可能。発育速度、集落の色(裏表)、集落表面の状態、などを同定の材料とする。


2.スライドカルチャ-

1)スライドカルチャ-の作成方法

1.底にろ紙敷いてある滅菌ガラスシャ-レに、V字のガラス管、スライドガラス、カバ-ガラス(2枚)、をいれ滅菌する。
2.約5mm角(厚さ2-3mm)のサブロ-寒天培地をメスで切り出し、V字のガラス管の上に置いたスライドガラス上左右に置く。
3.2.で置いたサブロ-寒天培地の4側面に対象糸状菌の少量を接種する。
4.3.で作成したサブロ-寒天培地にカバ-グラスを被せる。
5.底に敷いてあるろ紙に、乾燥防止のために滅菌水をしみこませる。
6.作成したスライドカルチャ-を 真菌類の培養日数を参考にして、培養する。
7.菌糸が発育してきたら、スライドガラスを取り出し、顕微鏡下で観察してみる。胞子の形成が十分な場合標本を作成する。
8.標本は、発育している培地を取り去り、KOH液やDMSO液を滴下しカバ-ガラスをかる。
9.周囲を透明マニュキュアで封入する。(はがしたカバ-ガラスの方も新しいスライドガラスを用いて標本を作成する)


2)スライドカルチャ-による同定
個別参照

(2)臨床検体より分離される頻度の高い糸状菌


(スライドカルチャ-像)

ペニシリウム クラドスポリウム アスペルギルス
Penicillium sp.

(ラクトフェノ-ルコットンブル-染色)
Cladosporium sp. Aspergillus fumigatus
いわゆるアオカビといわれる菌で、刷毛分生子構造をとる。 いわゆるクロカビといわれる黒色菌で、分生子の分岐点で暗く色の濃い線がみられる。 しゃもじ型の分生子をもち、梗子(胞子形成器官)が、1段。分生子柄は、(S)型滑面無色
カニス トリコフィトン
Microsporum canis

(ラクトフェノ-ルコットンブル-染色)
Trichophyton mentagrophytes
皮膚糸状菌の1つで、イヌ小胞子菌。ともいう。大分生子は、先端が鋭で内部は、6細胞以上で厚い細胞。表面は粗。 皮膚糸状菌の1つで、いわゆる水虫菌菌糸に螺旋体がみられるるのが特徴。大分生子はまれであるが、こん棒状。小分生子は、涙適状を示す。
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(3)主な糸状菌

アスペルギルス


アスペルギルス症


アスペルギルス症は、Aspergillus属によって惹起される感染症で、多くは肺アスペルギルス症です。肺アスペルギルス症は、主に3つに大別されます。

@肺アスペルギロ-マ

肺の空洞内にアスペルギルスが腐生的に菌球を形成する

Aアレルギ-性肺アスペルギルス症

アスペルギルスがアレルゲンとなる(ABPA)

B侵襲性肺アスペルギルス症

呼吸器実質内に菌糸が伸長して感染巣を作る

アスペルギルス属

アスペルギルスという語源は、宗教儀式に用いられる水を振り掛ける器具(aspergillum)にその分生子頭の形が似ていることに由来します。 Aspergillus属は、最近の分類法では6亜属16節に分類され、自然界にも多く存在しています。Aspergillus属は無性(不完全)世代に与えられる属名であり、有性世代では Eurotium, Emericella, などの属名の子嚢菌類に属します。(しかし、臨床材料から分離されるもののほとんどは、無性世代の形態です)臨床材料から分離されるAspergillus属の多くはAspergillus fumigatusでその他、Aspergillus niger Aspergillus terreus Aspergillus flavusAspergillis nidulansAspergillis candidusなどです。

アスペルギルス属の基本形態

基本形態

A: 分生糸頭(conidial head)B: 胞子(conidia)C: 頂嚢(vesicle)D: 分生糸柄(conidiophore)

E: 足細胞(foot cell)F: 梗子 - 一段梗子(primary sterigmata)G: 梗子 - 二段梗子(secondary sterigmata)

主要アスペルギルス属の鑑別

菌群の名称 CZ培地上での
巨大集落の色
分生子柄 梗子 分生糸頭 菌核 袋細胞
Aspergillus fumigatus 灰緑色 無色で滑 一段 円柱状密

Aspergillus niger

黒色 無色で滑 二段 放射円柱状

Aspergillus terreus

シナモン色 無色で滑 二段 円柱状密

Aspergillus flavus

黄緑色 無色で粗 二段 放射状

Aspergillis nidulans

黄緑色 無色で滑 二段 円柱状

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主な抗真菌薬の作用機序

耐性獲得機序

アンホテリシンB(ファンギゾン)アゾ−ル系(MCZ、FLCZ、ITZ)


アンホテリシンB(ポリエン系項真菌薬)

ファンギゾン

作用機序......細胞膜エルゴステロ−ル合成阻害

@細胞膜エルゴステロ−ルとの相互作用で、細胞膜透過性が亢進し、Kの細胞外方出とプロトンの

.....細胞内移入が起こる。(静菌作用)

A細胞膜への酸化的障害作用(殺菌作用)

耐性機構......(耐性変異株)

段階(1)@14αデメチラ-ゼ(P450/14DM)の欠損→eburicolの蓄積A△8−△7イソメラ-ゼの欠損→fecosterolの蓄積


段階(2)ポリエン親和性の無いステロ−ル中間体の蓄積


段階(3)エルゴステロ−ルの欠乏、含量の低下を招く。



アゾ−ル系

MCZ

ITZ

FLCZ

作用機序......

段階(1)14αデメチラ-ゼ(P450/14DM)の活性阻害

段階(2)エルゴステロ−ル合成阻害

段階(3)細胞膜性質変化(膜透過性の亢進、酵素異常)


耐性機構

(1)薬剤の細胞内取り込みの低下、細胞外への排出の促進(細胞膜性質変化)

(2)14αデメチラ-ゼ(P450/14DM)の薬剤に対する感受性の低下。

(3)14αデメチラ-ゼ(P450/14DM)の過剰産生及び酵素活性の上昇。..


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