「家庭向けの電気料金を10%値上げ」と主要メディアが報じているが、東京電力が公表した説明資料には、中小企業向けの契約に対する料金も一部が提示されており、その値上げ率は家庭向けを大幅に上回っている。家庭向けでも夜間の料金を値上げするなど、利用者側の節電努力に対する配慮に欠ける内容も見受けられる。
東京電力が新たに事業計画に盛り込んだ電気料金の値上げは、契約電力が最も小さい「低圧」(50kW未満)の利用者が対象になる(図1)。一般家庭のほかに、電力使用量の少ない工場や店舗が含まれる。契約電力が大きい「高圧」の電気料金は、すでに4月から平均17%値上げされている。
新たな値上げの対象になる「低圧」の契約形態は、主に中小企業が利用する「低圧電力」と一般家庭向けの「電灯」の2種類があり、それぞれで複数のタイプの料金メニューに分けられている。家庭向けの電気料金と言われているのは「電灯」に対するもので、これが平均10%値上げされることになる。一方の「低圧電力」の値上げに関しては、東京電力の説明資料には「低圧高負荷契約」と呼ぶタイプだけが示されている(図2)。
このタイプの契約は、もともと「夏季」(7月〜9月)と「その他季」(10月〜6月)で料金設定に差が設けられている。今回の値上げによって、1kWh(キロワット時)あたりの単価が夏季で18.2%、その他季で16.5%も高くなる。明らかに家庭向けの「電灯」よりも値上げ率が大きく設定されている。4月に実施された「高圧」の値上げ率17%と変わらない水準だ。
「低圧電力」に含まれるほかのタイプの値上げ案は不明だが、同様の高い値上げ率になることが予想される。中小企業にはコスト増加の重荷が大きくのしかかる。抜本的な電力削減の対策を早急にとらざるを得ない状況だ。
家庭向けの「電灯」の値上げに関しても問題点は少なくない。昼間の時間帯の電力需要を抑制するために、電力会社は夜間の電気料金を安く設定して、昼から夜への「ピークシフト」を促進してきた。夜間の電力を昼間に使えるように蓄電システムの導入も広がりつつある。
しかし今回は夜間(23時〜7時)の電気料金も値上げされる(図3)。時間帯によって料金が変わるタイプの契約では、夜間の単価が2.41円高くなる。比率にして24.8%の値上げだ。本来ピークシフトを促進するためには、夜間の料金は据え置くか、むしろ引き下げるべきである。昼と夜の料金差が大きくなれば、太陽光発電や蓄電システムなどの導入に弾みがつく。
それでも昼から夜へのピークシフトのメリットは引き続き大きい。家庭向けの「電灯」の料金は使用量が増えるにつれて高くなる3段階方式をとっており、使用量が増えた場合の第3段階の値上げ幅が6.02円と最も高く設定された。
このほかに季節によって料金が変わる契約形態もあり、同様に値上げになる。「エコキュート」など夜間の電力で蓄熱する機器を使っている場合に限定した「季節別時間帯別電灯契約」である(図4)。この契約の場合は夏季のピーク時間帯(10時〜17時)の値上げ幅が最も大きくなっている。
東京電力は新しい契約形態として、エコキュートなどを使っていない一般の利用者に向けて「ピーク抑制型季節別時間帯別電灯契約」を開始する予定だ。ピーク時間帯を13時から16時の3時間に狭めて高い料金を設定する(図5)。具体的な単価は発表されていないが、従来の「季節別時間帯別電灯契約」と同程度になる可能性が大きい。
景気が思うように回復しない状況にあって、企業も家庭も電気代の増加は避けたいところだ。電気料金の値上げがさまざまな節電対策につながることを期待したい。
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