2010年01月21日

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ビジネス書などに「ボトルネック」という言葉がよく出てくる。意味合いとしては、ボトルの首部分(ネック)がくびれて細くなっている様子から転じて、事業連鎖の目詰まりを起こしやすい部分などを指す用語である。一般的にボトルネックとは、否定的な意味合いで語られ、例えば「組織上のボトルネックを解消しなければならない」などと使われる。あくまで、ボトルネックは邪魔な存在だ。

実際にボトルネックが存在する組織は、事業がスムーズに運ばないケースがほとんどである。例えばビールを製造・販売している会社を例にとれば、せっかく良いものを作り、良いパッケージで仕上げ、良いTVCMを用意したとしても、販売店へ卸す営業能力が劣る場合、結局その商品は消費者には届かない。生産→卸→販売という事業の流れの中で、卸の部分がボトルネックとなっているのである。

そこで、ボトルネックを解消するために、手薄な営業部隊の人数を増員したり、販促費を増額したりするなどの策を講じて、商品をきちんと小売店に卸し、良い棚を押さえて、容易に消費者の手に取りやすいようにしなければならない。


このように一企業において明らかに否定的な意味合いで語られる「ボトルネック」だが、一つの業界の話として考えると、別の見方が浮上してくる。すなわち、ボトルネックの肯定的な側面が見えてくるのである。

もう一度ビール業界を例えに考えてみよう。ビールが作られ、小売店に卸され、消費者に届くという流れの中で、小売店がチェーン化して全国で一括購入するような仕組みが出来上がったケースを想定する。すると、小売チェーンはメーカーに対し、納入価格の引き下げを要求し、要求を呑まなければ取引を中止する、といった強硬手段をチラつかせるかもしれない。そのチェーンの販売シェアが高ければ高いほど、取引中止のインパクトは大きい。そのため、卸価格の引き下げ要求を呑むことになる。そうした場合に、ビールメーカーにとって小売部分は「ボトルネック」となり、ここを解消せねば利益は薄くなってしまう。

しかし仮に、そのビールメーカーが、独自の技術にて他のどこのメーカーでも成功しなかったアルコール分完全ゼロのビール風飲料を作り、それが爆発的に売れたとしよう。その場合には、メーカーと小売チェーンの立場があっさりと逆転する。小売チェーンにとって、そのメーカーからでないとアルコール分完全ゼロのビール風飲料が入手できないのであれば、そのメーカーに対して卸価格の引き下げや取引停止など要求しなくなるだろう。また、他のビールメーカーからすれば、アルコール分が残るビール風飲料は売れなくなり、小売チェーンでの取り扱いが停止されてしまうかもしれない。

こうした状況を業界全体で捉えてみると、アルコールゼロビールというジャンルが一社独占となってしまうことで、競合他社や小売業者の売上は落ちる。業界として、アルコールゼロビールのジャンルは「ボトルネック」化していると捉えることができる。そんな中、業界の「ボトルネック」を押さえたアルコールゼロビール独占メーカーは、利益を一人増大させるだろう。

つまり、業界における「ボトルネック」は、業界全体としてのマイナスかもしれないが、一つの会社にとっては大きなプラスである、と言えるのである。


さて、「ボトルネック」は、必ずしも否定的な意味ではなく、立場を変えれば肯定的な見方ができること確認できた。それでは、この考え方をもう一度、一企業内の話に照らし合わせてみよう。

事業が連なっていく一企業において、ボトルネックは否定的な事柄あることは間違いない。しかし、ボトルネックを押えた社員にとっては、その意味合いはまるで変わる。ボトルネックが会社にとっては不都合なポイントであっても、その部分で力を有する者にとっては、自らの会社員としての価値を高めることに繋がっていくのである。

そして会社内においてボトルネックを押えることのできる社員は、社内での必要度が上がり、そのまま賃金や待遇などで優遇される。そんな価値ある社員のことを、ボトルネック社員と呼ぶことにする。

ここから得られるサラリーマンの心得は、リストラ合理化が横行する今の日本企業において、ボトルネック社員となることが肝要である、ということである。


しかしながらここで一つの大きな問題が生じてくる。社員個人個人が、自らの社内での価値を高めるために、ボトルネック社員と化していくと、会社としてのボトルネックが解消していかない、という矛盾が発生するのだ。
会社は、強みをさらに強めると同時に、弱みを解消する必要に迫られる。ボトルネックは会社の弱点そのものだ。しかし、その弱点があることで重宝されるボトルネック社員がいる限り、弱みの解消が遅々として進まない。社内で力を持ったボトルネック社員が、巧みに弱みの解消を邪魔する恐れがある。


リストラに怯えるサラリーマンとしては、ボトルネックを利用して容易に取って代わられない存在を目指すべきである。しかしそのことでボトルネックの解消ができなければ会社の問題点は改善されないままである。会社の利益を優先して、自らの力の源泉であるボトルネックを解消するよう動くものがどれだけいるのだろう? こうした問題を、ボトルネックのジレンマ、と呼ぶことにしたい。


このボトルネックのジレンマは、現在の官僚問題にも通じる。例えば、ある物事について、官僚でしかわからないルールを設けて、官僚の了解を得ないと物事が進めないようにする規制の問題がある。これは国民の活動におけるボトルネックを官僚が作り出し、そこを力の源として官僚が幅を利かしているのである。


こうしたボトルネックのジレンマを解消するにはどうしたら良いのだろうか。
ボトルネック社員を目指すことは、サラリーマンの条件闘争であり自己保身でもある。しかし、それによって会社全体の利益が損なわれるのであれば、誰かがボトルネックの解消をせねばならない。そこで登場すべきなのが、俯瞰で物事を見ることのできる、経営トップである。個々の社員は価値ある立場を目指すだろう。けれどその手段が、会社全体の害となるボトルネック化では困る。
そうであれば、きちんと会社のために活躍する人材を、きちんと評価していくことが大事だ。自分の価値が上がれば良いなどという考えから離れた人間をきちんと処遇すること。そういう人事評価をすることが、会社のトップの大事な役割なのだ。


(00:35)

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