東北のニュース

原発事故苦の自殺 「2次犠牲」実態見えず

◎関連死認定は非公表

 東日本大震災と福島第1原発事故は未曽有の被害に加え、受け止めきれない現実と将来への悲観を被災者にもたらした。助かっても不自由な避難生活などで精神的に追い詰められて命を自ら絶つ「2次犠牲」が後を絶たない。原発事故では自死の取り扱いが定まらず、実態も不明確だ。死の事実も意味も、宙に迷っている。(若林雅人)

▼個人情報が壁
 内閣府が警察庁の報告を基に集計している「東日本大震災に関連する自殺者数」によると、集計を始めた昨年6月からことし3月までに、東北の被災3県で見つかった自殺者は宮城22人、岩手20人、福島13人。他に東京都で2人、大阪府と神奈川、埼玉、茨城3県で各1人おり、全国では計61人に上る。
 内閣府は「原発事故の避難区域などから避難してきた者」を震災関連自殺の対象に含めている。関連自殺があった8都府県警に原発事故避難者の該当者数を尋ねたところ、東京は1人で、大阪、神奈川、埼玉の3府県はゼロだった。岩手、宮城、福島、茨城の4県警は回答していない。
 自死という性質や個人情報保護が壁となり、原発事故関連の自殺の実態は定かでない。
 避難生活のストレスや体調悪化などで亡くなる災害関連死(震災関連死)の中にも自殺は含まれている。
 関連死は原則的に自然災害に限られるが、厚生労働省は「原発事故は震災という自然災害で生じた。市町村が原発事故と自殺の因果関係があると判断すれば、関連死の認定は可能だ」と話す。

▼トラブル回避
 復興庁が自治体からの報告を基に集計した東日本大震災の関連死者数(3月末現在)によると、岩手(179人)、宮城(636人)、福島(764人)など10都県で計1618人に上るが、自殺は有無すら公表していない自治体が多い。
 福島県では、双葉地方町村会と南相馬市が原発事故による自殺を関連死認定したが、両者とも人数など詳細は明らかにしていない。
 関連死か否かを判定する審査会を設置した福島県のある自治体の担当者は、関連死の認否が災害弔慰金支給の対象になるかどうかに直結する点を挙げ、「原発事故による自殺を関連死認定し、それが公になった場合、認定されていない他の自殺との兼ね合いで問題が生じかねない」と指摘。トラブル回避のための過度な非公表も、自殺の実像を見えにくくしている。

▼心のケア本腰
 原発周辺地域は一部を除いて避難が続く。生業再開のめどが立たない住民も多く、今後も自殺者が生じる可能性は高い。自殺対策は待ったなしの状況にある。
 福島県は2月、精神保健福祉士や臨床心理士らが原発事故被災者の相談に応じる「ふくしま心のケアセンター」を福島市に開設した。4月には県内6地域に拡充し、2次犠牲の防止に本腰を入れる。
 県保健福祉部によると、これまでの相談内容は体の不調が約3割、家族や友人を亡くした喪失感が約2割、避難生活や将来への不安が1〜2割を占める。
 担当者は「相談件数は増えると予想している。自ら命を絶つ事態に至らないよう、心のケアに取り組みたい」と話す。


2012年05月11日金曜日


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