今日皆さんに紹介したいのは、ストローブ=ユイレの映画『セザンヌ』を丁寧に分析することにより、彼らの政治的態度を解明することに成功した徳原真穂氏の論文だ。徳原氏は執筆時、大学院の修士課程に所属する学生だったようだが、その論文の質は間違いなく一級である。たとえば、
前半部において山の実景を捉えたショットだけをみると次のような構造が取り出せる。といった具合に、セザンヌのサント・ヴィクトワール山をエンペドクレスのエトナ山と結びつけ、『セザンヌ』に『エンペドクレスの死』が挿入される自然な根拠を見出しているところは見事だし、
サント・ヴィクトワール山の遠景S1 、2 → 中景S6 → 近景(パン移動→海)S8→ エトナ山遠景E12
前半部は、山の遠景から始まり、遠景で終わる。
ストロープ=ユイレは常に都市を、この地球を破壊する暴力だと批判している。という単純な一文もいい。こちらからPDFの形式で論文をダウンロードできるので、興味のある方はぜひ。「都市=暴力」だなんて、少し前までは笑って聞き流されていただろうけれど、少数の犠牲なしには決して成立しえない都市生活の暴力的なあり方に気付かされた今、ストローブ=ユイレの非都市的な映像は、僕らの行き先を示してくれているように思う(その意味では、映画『あの彼らとの出会い』は、ストローブ=ユイレの頂点にある作品なのかもしれない)。
(おまけ)
昨日、ドイツからストローブ=ユイレのポスターが4枚届いたのでご紹介しよう(全て84×59cmのサイズ。最初の2つは丸めて保存してあったため折れ目がなかった)。まずは『Nicht versöhnt(邦題・和解せず)』から。この映画を見た人には忘れることのできない名場面がそのままポスターのデザインになっている。
ポスター上にユイレの名前が存在しないのも興味深い。続いて『Chronik der Anna Magdalena Bach(邦題・アンナ・マグダレーナ・バッハの年代記)』。
こちらもユイレの名前が見当たらない。下部に受賞歴が列挙されているのがストローブ=ユイレらしくなくて可笑しい。さすがの彼らも、3作目発表時は名前が知られていなかったということか。続いて『Der Tod des Empedokles(邦題・エンペドクレスの死)』。
下部に記載されている「Stadtkino」は「ウィーン国際映画祭(Viennale)」の会場としても知られる映画館で、今なお『Der Tod des Empedokles』の配給をしているらしい。ポスターは恐らくは1987年、オーストリア初公開時のもの。そして最後は『Schwarze Sünde(邦題・黒い罪)』。
下部に記載されている「Edition Manfred Salzgeber」は、ベルリン映画祭パノラマ部門のディレクターであったマンフレート・ザルツゲーバーが作った配給会社だ(ポスターはクリックすると拡大します)。
(持田 睦)