(cache) 梅沢和木ロングインタビュー

2009-12-25

■[告知]梅沢和木ロングインタビュー

アーティスト梅沢和木さんのアトリエを訪れてインタビューを行った。

12月19日に個展「エターナルフォース画像コア」を終了したばかりの梅沢さん。このインタビューは個展開催を控えた2009年11月11日に行い、一方で当時開催していた２人展「解体されるキャラ」を見た直後に行ったものだった。
梅沢さんは通称「梅ラボ」という個人サイトの管理人でもあり、２つのTwitter ID「umelabo」と「umezawakazuki」を所有し、さらにはtumblrで画像の収集・公開を行っている（梅 THE 和）

12月5日、「エターナルフォース画像コア」展会場で行われた梅沢さんと黒瀬陽平さんのトークイベントの質問で「ネットやゲームばかりしている梅沢さんが、どうして絵を描いているのですか？」という趣旨の質問があった。僕の印象では梅沢さんはその質問に明確に答えられていなかったように思うが、それというのも質問のニュアンスが「ネットやゲームばかりしている人がどういう心境の変化で「絵画」という超アナログなメディアを志向しているのか」と言い換えられる質問だったからだと思う。これは言い換えると梅沢さんの創作の本質をネットやゲームに置いた視点になる。

しかし「梅ラボ」の「works」にアクセスして高校時代の作品から追って見て行けば分かる通り、元々梅沢さんはたとえば「キャラ」とも離れたテーマで制作を行っており、これまでで一貫した特長を挙げるなら、むしろ「緻密さ」とかの方が無難なのかもしれない。つまり「キャラクター」という要素が作品に取り込まれ始めたのはわりと最近のことで、「オタクカルチャー」または「ネット、ゲーム、マンガ」といったワードから読み込んでいってはどうしても不可解な部分が作品に残る。

こうした意識のもとこのインタビューは行われ、梅沢さんの作品があくまで正統的な美術として受容されることで、むしろこちらの方がニュートラルに見えてしまう変質が起きやしないだろうかと期待もした。

1.

原田：

今回は、アーティスト「梅沢和木」にインタビューを行いますので、そちらから切り込んでいけたらと思っています。最初は批評の話から始めたいと思いますが、僕は今までに梅沢さんが受けた批評について少し気になっています。打ち合わせのメールでも既に書いたことですが、梅沢さんの作品に関しては「ネットをしている人がやってみた絵画」といった捉え方に、既存の美術の枠の中でも、ネットの中でもやや傾いているように思いますが、それに関してはそういう風に見たいという観客の欲望みたいなのがある気がします。

それが今開催中の「解体されるキャラ」展*1から露骨に感じ取ってしまいました。しかし梅沢さんの作品の複雑さはむしろ、先ほどアトリエで作品を拝見してますます実感したことですが、伝統的な美術のベースの上にこそ位置づけられるものだと思います。そういうことについてご自分では作品の文脈と言うか系譜みたいなものを、どのように捉えられているのでしょうか？

梅沢：

物質に対するフェチというか、そういうものに惹かれてしまうことにも繋がってくると思う。元々、小学時代から絵を描くのは好きだったんですよね。学校で油絵もしてみた。美大（梅沢さんは武蔵野美術大学の映像学科出身）に入ってみると、共通絵画（武蔵野美術大学で油絵学科以外の学生が履修する授業）があるじゃないですか。そこで「好きなようにぶつけろ」みたいなことを言われて、その時に絵の具を重ねる作業が非常に好きなんだということが分かった。

どちらかというとそういうのは抽象美術やニューペインティングやジャクソン・ポロックに代表されるような感じで、その時「俺これの部類なんだ」と勝手に理解して、このままいったら似てくるだろうなと分かった。絵を描くのは好きだけど、こんなに楽しくやっても、あれら以上のものにはならないというのは漠然と感じていた。でも描くのは好きだし、何かしら、これからやっていく表現に取り入れられる要素だとは思った。

筆がどんどん進んでいく感じ？　描けば描くほど快楽に溺れていくような。好きな音楽をかけながら好きな色を使って好きなように描いて生きていけたら、それはすごく幸せだなあと思ったんだよね。ただ、結局その快楽にまかせて作品を描いていくだけで評価されるのはほんの一握りのアーティストだと思って、僕の中では例えば草間彌生とかはそれにあたる人だけれど、その時点では天然系アーティスト一人勝ちみたいに思っていた。当時別に絵をやっていこうとは思ってなかったからね。

映像科にいるときはアニメーションを作っていたりしたけれど、卒業制作でキャラ的な要素というかデータベース的な要素を作品に落とし込んでみて、自分の中で絵の具に対する快楽と物質に対する執着とは同じものだと気付いた。物という意味では一緒だからね。データとは別で、物に対する執着はある意味そういうものになっている。キャラとかデータとかネットとかをテーマにしている人たちにとっては、むしろあまり馴染みがなかったり、苦手であったりするのかなと思って、それじゃあ、両者を組み合わせた方が意外性はあるはずだし、「俺は両方好きだ」ということは事実だった。

だからそれはやりがいがあることだと分かったし、結果やっぱり今回の個展で出す「ジェノサイドの筆跡」なんかは絵の具が多めになっていたけど、他の作品はちょっと少なめでデータ寄りになっているとか、バランスをとるつもりではいる。

「ジェノサイドの筆跡」(C)Kazuki Umezawa 2009

２.

原田：

出力した画像を張った上に絵の具を滑らせていく過程は作業としては分かれていますよね？

梅沢：

そうだね。ただ、絵の具を乗せるといってもトレースしたり画像をそのままシミュレーションをしてみたりすることは、もっと前の世代からしたらそれだけで現代的に見えるのかもしれないことをしているわけだけど、自分からしてみたら非常に古典的な感じなのね。絵の具を使うだけで。

原田：

なるほど。ではここで逢えて横道に逸れるならば、梅沢さんが既にアーティストとして活動されていく中で、あくまで自分がアーティストとして他者に求める批評について、少し聞いてみたいと思います。

梅沢：

僕は自分の表現や趣味趣向に寄り添ったものを読んでいるだけなんだけど、サブカルや美術に関する評論や批評は自分の制作にかなり影響を与えたと思う。在学中にガンガンの漫画がちゃんと批評されているらしいと聞いて『テヅカ・イズ・デッド』(伊藤剛)を読んで、『動物化するポストモダン』(東浩紀)、『アトムの命題』(大塚英志)とある種その属性としてはベタな読み進め方をした。

まず自分が好きな漫画やゲームなどの文化がこれほど論者によって語られていることが単純に嬉しかった。それぞれが完璧に正しいとは思わなかったけど、表現論であったり、メタ的であったり、身体の問題に執着していたりと、批評をしている人間の関心、人間味が言葉の後ろに見えるのが面白かったし、これらの要素は美術とどう絡んでくるのだろうと考えざるを得なかった。

作家にそう考えさせる批評って魅力的だと思った。そういった批評に自分は作家性を感じるし、作家性を感じる批評が増えたら作家としては普通に嬉しい。まあ個人的な批評に対する要望は別として、今現代で美術批評をするのだったら主流なものを把握してそれに寄り添うのか批判するのか無視するのか、立ち位置をしっかり示すことが重要だと思う。ただそれは美大でいろんな学科で言えることだけど主流なものを知らない人が多すぎる主流なものは俗っぽいというイメージが強いのかな。

原田：

そうですね。

梅沢：

でも本当に現代で批評をやっていくのならそういう人たちと一緒にやっていくか戦うか距離を置くか、結局選択肢を選ばなきゃいけないことになるからね。あと美大は現代美術に対してすごく後ろ向きな感じを見受ける。

原田：

例えば「売る」ということにしても一般的に嫌悪感がありますよね。

梅沢：

そうだね、清貧であるべきみたいなイメージがある。しかし多くの人が好きだったり育ってきたゲームやマンガ、ドラマ、映画、音楽でもなんでも売買で成立していたのに、アートに限って売買を批判するのは意味がないと思う。

原田：

自分も高校は美術系の高校でした。中学時代は美術の話ができる友達はほとんどいなかったので高校に入学して、やっと話ができると思っていたんですよ。しかし実際に入学してみると、８割はキャラ文化圏の絵が好きだから美術高校に入ってきた人で、当時の自分は反射的に反動を示していました。そして今でもやはり僕はカテゴリ的にはライトオタクになるかどうか、つまりゲームやマンガ、アニメに対してそれほど詳しくない状態ですが、当時との違いは現在主流のサブカルチャーに対して否定的か肯定的か、です。

それというのも自分にとって一番身近だったキャラ文化圏の消費者、つまり高校時代の同級生に対して最も強かった不満は彼らが日常的に好きで描いているキャラ絵がある一方で、学校ではそれと切り離されたアカデミックな作品を作っていたことです。つまりキャラ絵が好きなら、それとは別のタイプの作品、つまり美術との関係性を示すべきなのに高校では当事者たちによって保留にされ続けていた。一方で同世代の人たちにとって絵とキャラは全く切り離せないことはかなり実感していました。

そして今はその状況はむしろ加速しているのじゃないのかと感じますが、その中で梅沢さんや藤城嘘君や黒瀬陽平さんといった人たちがどんどん出現してきて、同時に彼らの作品を様々な受け手たちも今の美術の持つリアリティとして受け入れ始めているように見えます。なのでそれを踏まえて梅沢さんの作品を見ると、例えば作品の本質がインターネットと繋げられつつ消費されたとしても実は本質的な問題を突いてはいなくて、さっき話したような脈々と続く美術の流れの中で普通に語れるはずだと思うのです。

３.

原田：

ここでキャラクターの話に移っていきたいと思います。僕は今美術予備校で講師をしていて日常的に思うことですが、キャラクターを作品として、それも美術予備校の中で描きたいと言う生徒が多い中で彼らの作品を勝手にカテゴライズしてしまうのならば、大きく２種類に分けられると思っています。

１つは肖像的／自画像的にキャラを描くタイプ。分かりやすい例として奈良美智さんをイメージしていただきたいのですが、その名の通りキャラを自分の分身として描きたいと思うタイプになります。
もう１つは風景的／パノラマ的にキャラを描くタイプです。つまりキャラが立ち現れる「環境」に関心を示す人や、キャラを総体として俯瞰した視点から知覚するタイプです。

僕自身が梅沢さんの作品をどちらかに分けるとしたら、風景的／パノラマ的に分けられると思います。そういった暫定的なカテゴライズを踏まえた上で、梅沢さんがご自身ではキャラをどのように捉えられているのかは非常に関心あります。

梅沢：

とりあえず原田君が言ったみたいに自己投影型のキャラと、わりと俯瞰した感じの表現とがあって、村上隆は俯瞰で奈良美智は自己投影型といったふうに暫定的に分けられると思うんだけど、そういうのは別にしても俺はけっきょく自己投影的には出来ないのだなあという諦めのような気持ちがある。その気持ちが、同じキャラクターをスキャンして大きくしたような絵に色を塗るなどの行為をさせているのかもしれない。

例えばここに置いてある紙を見てほしいんだけど、スカイプとか電話とかをしながらこれに何も考えずに描いて、ほっとくと自然にこうなる。自分の自己投影的なキャラというか、輪郭だけみたいな絵はほんとこんな風に勝手に増殖していく。そういう落書きは日々、どんどん感覚的に量産されている。

これはこれで面白いと思うんだけど、俯瞰してデータベースをフォトショップで反映してトレースして云々の方が自分の場合は成立しやすいし扱いやすいのかなあと思って、客観的に考えると自己投影的な描き方もあるしパノラマ的に表現もできるけど、表現方法としてシビアに選んでやる際にパノラマ型の方が作品として強いものが出てくるなと思っている。自己投影型でやっても突き詰め切れなくて勝てないなという弱気な気持ちもある。。

(C)Kazuki Umezawa 2009

(C)Kazuki Umezawa 2009

原田：

自己投影型で描くとメンヘルアートになってしまいますよね。

梅沢：

そうそう。競争率高いしなあ。あと、そういう自分だけのキャラっていうのはやはり自分だけで愛したいという気持ちもある。
好きなキャラクターを描いてそれを高めるような感じ。俺はそれぐらいでやる方が丁度いいんだよね。だから個展のＤＭに好きなキャラクターを使ってマンガを描いたけど、キャラクターとして単純に素晴らしく、描くだけで癒されていく(笑)。二次元というのはどうしても手に入らなくなるものなんだよね。だから暫定的にパソコンの中に保存するという形であくまでいるんだけど……。

４.

梅沢：

例えばpixivの絵をジャンルで分けていてですね（デスクトップののフォルダを指しながら）、これらは新着画像から選んでいるわけです。この作業を１日で絶対２時間はするんですよ。それでこれは微妙だなあと思って閉じたり、10点をつけてブックマークをして閉じたりもしていて、一連の作業がマウスのボタン一つで出来る（笑）。

原田：

ＤＭの黒瀬陽平さんの文章で「あれはもはや労働だ」みたいに書いてあったじゃないですか（笑）。

梅沢：

そうそう、そんな感じ。手が勝手に動いていくんだよね。その間に他のタブに行けたりもして、どんどん自動化されていく。

原田：

それって絵をトレースする時の気持ちよさに似てないですか？　何も考えなくても手が動いていく感覚って。

梅沢：

主体的な手の動きはもはやサムネイル画像に反応するだけ。あとはどうやれば一番早く保存できるかとなると、右クリックで「名前を付けて保存」じゃ遅いわけですよ。だから横に出しているウィンドウのフォルダに直接ドラッグすると早い。

原田：

だから出ていたのか（笑）。

梅沢：

ジャンルをフォルダ別に分ける時もいちいち右クリックでやると遅いけれど、それが瞬時にできる。「アイドルマスター」とか「マンガ」とか「作家別」とか。ただこれは暫定的なジャンル分けであって、完璧ではないけど、フォルダ分けは多分どれだけ頑張っても意味はないんだよね。つまり後でそんなに見てはいない。保存する時間の方が重要なのね。日々増えていくわけだから見ていたら間に合わない。すごい矛盾しているけど、保存している。

原田：

『動物化する……』

梅沢：

だから『動物化するポストモダン』とか俺のことを言っているみたいに感じた。いちおうシビアに素材として使いやすいであろう画像を保存して作品に使うとかもするんですが、キャラに対する愛の現場というのはこんな感じです。

５.

原田：

梅沢さんが描かれた個展ＤＭのマンガの最後の方に「一人ひとりのイメージが大量に連鎖して見えてくる人間の繋がりの欲望の形成するカオス」と書いてありましたが、それについてお聞きしたい。僕が読んでいて思い出したのは社会学者の鈴木謙介さんが最近書かれていたんですが、ここ10年の「繋がり」とか「繋がれてうれしい」といった言葉の裏には無意識的に断絶が滑り込まされているという話がありました。

つまりＡとＢがネットによって、もしくは電話によって繋がったといった時に、ＡとＢはすでに断絶されていないと「繋がり」の図式は成り立たないからです。その仮説にのっとって僕的に言えば、よくネットの技術革新に伴って語られる「繋がり」という言葉の裏には「断絶を強要する力」または「個人の欲望がより個人的な場所に置かれてしまう力」のようなものを感じ取ることができます。
そういった風景の中で梅沢さんにとっても「繋がり」という言葉は決して無関係ではないはずです。

例えば梅沢さんの最近の絵画の作業工程は大きなキャンバスに大量の画像が貼り付けられていてその上から筆を使って全体が手描きでまとめあげられている。これまで話してきた「繋がり」についてとりあえず言えることは「それは全面的にハッピーなものではない」という言い方ができますが、例えばTwitterでのある意味過剰な「繋がり」をどう見ているのか聞きたいと思います。

僕はブログやTwitterを始めた当初、知らない人からコメントが来たりフォローされたりするとそのつど律儀に喜んでいました（笑）。でもしばらく続けていると次第に誰が誰だかわからなくなるとかして実感として繋がりの価値が薄れてきました。そういった一瞬で通り過ぎてしまう「繋がり」に対しては何か感じ取らずにはいられないわけですが、梅沢さんはどうですか？

梅沢：

いやー、いろいろあるね。Twitterを始めてみて面白かったのは、すぐに反応が返ってきたり自分をフォローしてくれる人を発見したり、「ふぁぼったー」で自分の発言を気にいってくれている人がいることが分かったりしたこと。単純な認証欲求の解消。些細なことだけどそれってプチ麻薬的なところがあって、それだけを狙って発言しているような人がいっぱいいる。もちろん僕もその快楽を感じる要素はあるから適度に摂取するんですよ。適度に狙って適度にふぁぼられたり適度にフォロワーを増やしたり適度にフォローしたり。

それで展示とかするようになって「梅ラボ」という名前がある程度知られていくと、Twitterで返信やダイレクトメッセージがすごく来るようになった。最近個展のＤＭが欲しい人を呼びかけたけど、１日にダイレクトメッセージが80くらいあって、それに全部返信してるんだよ。全部個別に変えてコピペもせずに。まあ、「ありがとう」ぐらいはコピペしたりするけど（笑）。

誰がどういう人とかは当然ほとんど分からない。発言した人、リプライした人、メッセージをくれた人……。一応プロフィールを見て確認するんだよ。それは何でかというと、単純にもし自分が憧れの作家に対してメッセージを送ったりしたら、その人は自分を知ってくれたら嬉しいだろうなと思って一つ一つやっていくんだけど、数が多いので名前が淘汰されていく感じはある。けどそれでも失われない感情のようなものがあって、全部心をこめてやっているんですよ。見えないけれど心をこめてやっている。でもそれは虚しいがために、ファンレターを全部手書きで書いて返すマンガ家とは違う次元に来ている感じはする。

原田：

どういう次元ですか？

梅沢：

手書きで一通一通送るのと、Ｄ（ダイレクトメッセージ）で返していくのはスピードも違うし匿名性という面でも違うだろうね。Pixivも誰かわからないという点では同じ感じだね。

Pixivには「お気に入りユーザー」というシステムがあって、「お気に入りユーザー」が新しく描いた絵がタイムラインに表示されるわけね。これはお気に入りにしているユーザーが多ければ多いほど絵が多く表示される。自分がお気に入りに登録しているのは952人いるから最大952人の絵が表示される。それこそ１日に40から50枚の絵が表示されるのを全部チェックしているんですよ。そうなってくると誰がどういう作家なのかわかんなくなってくるんだよね。シリーズで描いている人なんかは別なんだけど。

だからサムネでさっきのように判断して、これは見る、これは見ないという決断をして、これは星を付ける、これはブクマする、これはリブログする、みたいな決断も同時にしていく。非常にシステマティックなわけですね。そうなってくるとやはり人というのは人間性みたいなのがすごく薄くなっていくよね。

原田：

952人もいるとPixiv全体のミニ風景みたいなのがこの中にあるような……

梅沢：

僕が選んだミニ風景だよね。

原田：

作品ではそれがそのまま絵になっている印象があります。

梅沢：

ランキングでPixiv全体の順位が１日に300位ぐらいまで表示されているけど、一応順位までは毎日チェックしている。それと同時にタンブラーも同じスピードでやっています。タンブラーに一瞬見ただけのものを反映していくだけで刺激になっているし、タンブラー内の全体の風景が作品に反映されているだろうね。ただ、絵の具っぽい感じだとかは完全に自分の特性でもある。個はなくなっているが今までなかった価値観があるという風に言えるのかな。まあ、でもオフ会とかして交流するんだよね。

原田：

実際に行かれますか？

梅沢：

っていうかうちに来たりするし部屋の壁に描いていったりもする。基本的に同人イラスト絵描き的なイベントでオフるみたいな感じだね。「ブクマしました」「お気に入り登録しました」といった光景が延々と繰り広げられていく（笑）。それはTwitterにしろPixivにしろ同じだろうね。ネット上ではシステム的なことをしつつ、それが表面に確認されるみたいな。それに没頭していっても結局ただの出会い系が進化したようなものだから何でもないんだけど、新しい人間同時のコミュニケーションの形は現れているよね。

全部誰が何を考えているのか何を言っているのかをお互い知っているから話が早いことは早い。でも傍から見たら少し気持ち悪い。なんでそんな理解しているんだよとか。

原田：

テレパシーみたいですね。特徴と言えばまずは「体がない」わけじゃないですか。頭の中しか見えないというか。それで言ったら頭の中に「欲望」っていう部屋があって、その部屋の中の風景が一面に出てきていてそれを梅沢さんが拾い集める……さっきからこじつけが多いな（笑）。

梅沢：

そういうもんじゃないの（笑）。

６.

原田：

それではここで一度これまで話したことを振り返ります。梅沢さんの活動が伝統的な美術の文脈では「オタクの」「ネットの」などの言葉と共に、つまり「ネット美術」カテゴリに収められた上で消費されているように見えるが、実は梅沢さんの作品は伝統的な美術の文脈の上でこそ語ることが出来るかもしれないという話でした。これについてはおそらく「今・日本の」批評の問題も関係してくることでしょうが、できれば、それと関連させてこれからの梅沢さんの活動について伺っても良いですか？

梅沢：

これからどうやっていくかっていうのは非常に難しいところだけど、とりあえず既存のシステムはあまりよくないというのはあるじゃないですか。それはギャラリーにしろ美大にしろアートフェアにしろある。その既存のよくないシステムをいかに自分の表現を使って崩していけるか。つまり重要なのは新しいシステムだろうね。新しいシステムの話は東浩紀さんと被ってくるけど*2、やっぱりギャラリーとかには普通は普段行かないじゃないですか。でもアートというものには常識的に考えて「誰でも接せられる何か素晴らしいもの」みたいなお題目がある。

でも、実際のアートをやっているギャラリーとかは美術好きな人しか行かないみたいな状況が現に存在することこそが難しい。そこではよく分からないものが展示されている。それに比べてPixivとかはまだ近いと思う。ただPixivにはオタクしかいない。でもネットで、例えばTwitterというのはアートの世界に比べものにならないぐらい早いし効率的だと思う。

ニコニコ動画でのタグ付けしかりランキングしかり。その話は美術の世界でもタグやランキングを付ければいいのかという単純な問題ではなく、そういったニコニコのタグなどの要素を取り入れた作品を投入することで気付かせたり（旧態依然のシステムを）壊したりすることができるかもしれないという……それは単純に自分の作品で美術の世界を良くするという作家なら多くの人が持っている欲求だと思うんだけど、その欲求をある種確信犯的に自分はそちらより優れたシステムを元に作品を作っているし愛も注いでやっていると示す。

あとはどうやって投入していくかだろうね。明らかに優れてないシステムが依然古い体制に依存されながらだらだら使用されているという意味では政治も美術の世界も一緒で、それを再構築するためのシステムのヒントがTwitterなりタグなりにある。ネットをだらだらやっているオタクのほうがより良いシステムを無自覚に構築しているのではないか。
そうなってくるとどのような既存の良くないシステムの隙間に入れていくかという抽象的なやり方の話になるだろう。そのためにいま現代美術的なギャラリーのいくつかで活動していて、やっぱり良い物を作っていればアートフェアなどのお誘いもあったりするので、その中で少しずつより良いシステムへ近づいていく意思を感じさせるような作品を見せていけばいい。

ただ、システムを構築するのは僕ではないので。自分は作品を作るだけだから既存のより良い面白いシステムによって作られた作品、梅ラボでも藤城嘘君でも誰でもいいんだけど、それがギャラリーやらアートフェアやら、ちょっとやはり堅いイメージがある既存のシステムに入って行ってそれを新たな要素が介入されていることに気付いた批評家なり誰かが新たなシステムを構築してくれるのが理想的かな。

原田：

システムを構築するのはアーティストではないという話まできた段階で、批評の登場というのは十分にあり得ると思いました。梅沢さんの持っているそういう意識も僕は非常に正当なものだと思っていて、それは美術系の高校３年間を思い出すとキャラクターの絵を描きたいけれど先生に怒られるから描けない人が多くいたことや、自分が今教えている美術予備校でもそういう人はいることや、美大でもやっぱり同じなんですね。

ただ、奈良美智さんぐらいのキャラなら描いても怒られないからここまでは描けるけど、これ以上露骨には描けないな、とか。目が大きな美少女を描いたらみんなに引かれるかなみたいな意識を持っている人は多いと思います。だからその「おい、お前いけよ。おい、お前いけよ」みたいな押し合いの状況の中でポッと出てきた人が梅沢さんだとも言えると思います。それを見てみんなが「あ。あいつが行ったから俺も行こう」という風にどんどん後に続いていくのかなと。なのでキャラを美術の中に変換することに対する欲望はみんな必ず持っているはずなんですね。だからそれに加担する形で自分がいまブログを書いていたりするわけですけど……それも最近あまり効率的じゃないように思えてきて……（笑）

梅沢：

本を作ったりしたら良いんじゃないかな？

原田：

そうですね！

梅沢：

補足すると美術家でも批評家的な視点は持っていても良いと思うし、批評家でも美術家的な視点は持っていても良いと思う。その方が効率的にスムーズに進みそうな気はするね。黒瀬さんとかを見るとやはりそう思う。

７.

レビューハウス3号表紙

梅沢：

レビューハウス３の表紙の下絵なんだけど、今までこういうデザイン的な仕事って全然やったことがなかった。ちなみにこの後ろの部分はアンドレアス・グルスキーの有名なライン川の写真を使っていて、それ以外はネットに落ちているいかにも綺麗な風景の写真、それから背景の空みたいなやつはFF7のクラウドとセフィロスというキャラクターがキラキラしながら２人で映っている場面の背景の空になっているから、文脈的には面白いはずなんですよ。

他には「らきすた」の「つかさ」っていうキャラクターの線だけを抽出して、彩度をあげて、線を拡大するとジャギー状になってさらに彩度を上げると色味が出てきたりする*3。
つまり肌だけを選択して消していくと線だけが残って、そこに微妙にある色味の彩度を高くしていくとこうなる。でもこれはただ拡大するとぼやけちゃうから良くないんだよ。それをどうするかと言ったら、このドット自体をぼやかさずにそのまま拡大するニアレストレイバー法というのがあります。こういう緻密で変な発見を繰り返して作品が出来ているんですよね。

アンドレアス・グルスキー

原田：

時間はかかっていますか？

梅沢：

実はすごく早いんだよ。

原田：

そうなんですか！？

梅沢：

そういった方法も１回知ってしまえばいくらでも使えるしね。ニコニコ動画のコメントなんかも文字だけ取り出して使っていると色味が出てきたりする。

原田：

真ん中の白い割れ目みたいなものは？

梅沢：

これは、サンダガかな……

原田：

サンダガ……？

梅沢：

いや、FFの魔法（笑）。サンダーだかサンダガ、かな。

原田：

村上隆さんがアニメーターの金田伊功さんが好きで、金田さんの液体が飛び散る表現にフォーカスされていましたけれど、あれを少し発展させたみたいに見えました。

「マイ・ロンサム・カウボーイ」

梅沢：

あの感じは非常に分かるんだよね。でも僕はハルヒの原画師やゲームの魔法のエフェクトの方が面白いなあと思う。この部分はFF11。ネットゲーム。

原田：

ところで先ほど電話をしながら無意識で描いてしまった絵がありましたが、これをそのまま作品として出そうとは思わないのですか？

梅沢：

再構成したほうが面白いと思う。岡崎乾次郎みたいな、絵の具の筆跡だけをたくさん集めた紙を持っていて、筆跡を拡大して「ジェノサイドの筆跡」なんかでは使用している。

原田：

かなり拡大したんですね。

梅沢：

でも横に伸ばしていて、比率がかなり違う。

インタビュー／構成：原田裕規 2009/11/11

梅ラボ：http://umelabo.info/
梅ラボ（umelabo）on Twitter：http://twitter.com/umelabo
梅沢和木（umezawakazuki）on Twitter：http://twitter.com/umezawakazuki
梅 THE 和：http://umelabo.tumblr.com/

追記/2009/12/26/10:03

武蔵野美術大学芸術文化学科のサイトにインタビューの縮小版がアップされたのでリンクします。内容はこれと同じインタビューを短く編集したものです。

梅沢和木×原田裕規



追記/2012/2/24/1:52

脚注と改行幅を中心に、レイアウトを見易く修正しました。