感染予防 inch by inch

感染予防について勉強したこと、考えたこと

リスクフリーの幻想を追いかける新型インフルエンザ対策特別措置法

2012年05月10日 | 施設設備
本日は病児保育を利用する子供がいませんでした。
こうやってインフルエンザも胃腸炎も下火になると、
初夏の訪れを感じます…。

ところで、インフルエンザといえば、
年末年始でドタバタしているうちに、
新型インフルエンザ対策特別措置法が可決されましたね。

半ば強制的なワクチン接種や集会の制限、土地の借り上げ、医療従事者の招集など、
並べてみるとよその「人権あまり気にしない国家」のニュースかとも思えるような内容が盛りだくさんの法律です。

水際作戦も健在だそうですが、なぜなのでしょう。
(またまた「一定の効果」ですか?)

医療機関内でインフルエンザのコントロールが難しい一つの理由は、
感染性があるにもかかわらず無症状/軽症の人から密かに感染が拡大していくからですが、
無症状・軽症の患者や職員を、病院から排除することはできません。
ですから、インフルエンザが病院内に持ち込まれるリスクは、
流行早期から存在するという前提で、対策を立てる必要があります。
新型インフルエンザも同様です。

病院で毎冬インフルエンザ対策に取り組んでいる感染対策担当者なら、
この点はきわめて当たり前の事実として認識されていると思われます。

感染性があるのに無症状/軽症の人は、
病院受付での感染症スクリーニングを容易にスルーして院内に入ってくることができます。
同じ様に、検疫をスルーして国内に入ってくることも可能なはずです。

このように感染性のあるすべての人を国に「入れない」ようにすることは非現実的であるから、
(そもそも2009年のときにそれは分かったはずなのですが)
水際作戦に力を入れるよりは、
「入ることを前提とした対策」を充実させたほうが無駄がなくてよろしいのでは?と思う次第です。

これらの点をなぜ賢いお役人や政治家が理解できず、
水際作戦にしがみつくのか、今一つわかりません。
あるいは理解はしつつも、何か別のしがらみがあるのでしょうか?
(純真無垢な自分には想像ができません)

で、ここからは、国内に感染者が入ってきたあとの対策ですが、
今回の特別措置法は、
「国民は自分の頭で考えることができない烏合の衆だから、
国の言うとおりのすればよいのだ(断ると怖いぞ)」的な法律なので、
他の先進国に紹介するにはちょっと恥ずかしい内容のものになりました。

要するに、今回の新型インフルエンザ特別措置法の根底に見えるのは、
国家権力の行使によって、
日本における新型インフルエンザのリスクを徹底的に排除しようとする幻想のような気がします。

そもそも、次回どのような特徴をもつ新型インフルエンザが発生するかわからないのに、
今から決められたガチガチの水をも漏らさない対策が、
(人道的か否かの問題はさておき)はたしてどれだけcost-effectiveなのでしょうか。

例えば、新型インフルエンザの発生と同時に、
疾病の特性、感染経路、予防策、治療薬、ワクチン等に関する情報を幅広く、迅速に集めて提供し、
そこからリスクの大きさを測り、
そのリスクを(国民の権利も保障しつつ)をどのような方法で、どの程度まで低減するのか、
専門家を交えて柔軟な議論を行いながらポリシーを決めていくのが成熟した社会の在り方だと思うのですが、
その考え方は間違っているでしょうか。

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キーワード
新型インフルエンザ 特別措置法 医療従事者
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