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「引きこもり」するオトナたち
【第96回】 2012年2月2日
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池上正樹 [ジャーナリスト]

大人の発達障害&予備軍に向けた
全国初“弱み”を“強み”に変える職業訓練

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同時並行力が弱いのは集中力が高いから!
発達障害者の“弱点”は“強み”でもある

 そして、同社がもっとも力を入れているのが、国から職業訓練を受託して、発達障害向けに行っていることだ。

 「小さい頃は、発達障害という診断でもADHDやLD的な症状が顕在化しやすい。しかし、大人になるにつれて、必要なコミュニケーションが複雑になり、アスペルガーや自閉症スペクトラムの弱さが発達障害者の苦しみの原因に移ります。

 ただし、これまで発達障害というと、(1)社会性や言語コミュニケーションが弱い、(2)特定の分野にこだわって、他の分野への関心が向きにくいなど、生活面での特性が主に取り上げられてきました。しかし家庭や学校ではなく、職場でどのような課題が目立つかという点については、医療や福祉の関係者は、これまであまり研究して来なかったようです」

 では、発達障害者はオフィスでどういう弱さが出ているのか?鈴木社長が同社の卒業生に聞き取りしたところによると、大体、以下にあてはまるという。

①勤怠
②同時並行作業力が弱い
③創造が苦手なため、新しい環境や物事を怖がって適応しにくい
④聴覚のワーキングメモリーが弱く、耳から聞き取った情報が抜け落ちやすい
⑤柔軟性がないとよく言われる
⑥物事がどう進んでいるのかを理解していないため、段取ることができない
⑦失敗の経験や不安感から、決断や判断が遅くなる

 しかし、裏を返せば、これらは逆に強みでもあると、鈴木社長は説明する。

 例えば、②の同時並行作業力の弱さは、集中力の表れでもある。③の場合、帰属意識があるため、ハマれば組織に対して忠誠力を発揮する。④は視覚優位なので、物事の変化に強い。⑤については、自己論理と他者論理が一緒であれば、こだわりや深みになる。⑦は逆に、慎重に物事を進めることもできる。

 ただ、勤怠や段取りについては、小さい頃から、トレーニングしていくしかない。

 「これらは、彼らにとってのアキレス腱でもあります。つまり、鍛えてもしょうがない。やり方としては、アキレス腱をできる限り使わないような、適した職種を探すことです。また、アキレス腱を守るプロテクターをつくる。またどのように就職活動すればいいのか段取りができない人も多い。自分の弱みがどこにあるかといった客観視も弱い。そういったことまで考えてナビゲートする必要がある。ただ非常に真面目でルールにはきちんと従うので、プロテクターをきちんとはめてあげれば、そこからは走り始めるという部分が当社のノウハウです」

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池上正樹 [ジャーナリスト]

1962年生まれ。大学卒業後、通信社の勤務を経て、フリーに。新聞、月刊誌、週刊誌で、「心の問題」「住環境」などの社会問題をテーマに執筆。1997年から「ひきこもり」を巡る取材を始める。著書は、『ドキュメント ひきこもり~「長期化」と「高年齢化」の実態~』(宝島社新書)、『「引きこもり」生還記』(小学館文庫)など。2011年6月には最新刊『ふたたび、ここから~東日本大震災、石巻の人たちの50日間~』(ポプラ社)を上梓。


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「会社に行けない」「働けない」――家に引きこもる大人たちが増加し続けている。彼らはなぜ「引きこもり」するようになってしまったのか。理由とそうさせた社会的背景、そして苦悩を追う。

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