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「引きこもり」するオトナたち
【第96回】 2012年2月2日
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池上正樹 [ジャーナリスト]

大人の発達障害&予備軍に向けた
全国初“弱み”を“強み”に変える職業訓練

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 たとえば、大学の学者であっても、これまでのように研究してればいい時代ではなくなった。いまはマルチタスクを求められるので、対応するのが難しい。

 「最初は、“猿の惑星”づくりを目指そうと思っていました。ただ、少し前までの社会なら、宗教やイデオロギーが支えになっていたけど、いまは資本主義を支えに世界が動いている。そんな中で、そこの部分だけ新しい村をつくっても、基本的には浸食されてしまう。資本主義に組み込まれた働き方を探していかないと、結局失敗するんですね。だから、いまは多数派という資本主義の論理を譲れない部分として伝えています」

発達障害予備軍も含めた職業訓練を開始
“弱み”を目立たなくする訓練とは

 同社は昨年8月から、全国初の国のモデル事業として、「発達障害者や発達障害の疑いを含む」人たちのために、職業訓練を無料で始めた。この「発達障害の疑いを含む」という点が、とても重要なポイントだ。

 「発達障害と診断されれば、既存の社会福祉のインフラが使いやすくなります。ただ、そうではないうっすらとした特性のある人たちがすごく困っているので、彼らに自分をきちんと認識してもらう場を作らないといけないのです」

 これはインターンシップのような状況をつくることによって、職場でのコミュニケーションを学ばせようという場だ。

 「彼らは、勉強すればできる人たち。しかし、仕事になると、なぜ離脱するかといえば、仕事上のコミュニケーションが苦手。受信する力とそれをタスクに分解できる力、アクションする力、さらに、そのプロセスを報告、連絡、相談、質問する発信力も弱い。そこで、とにかく報・連・相ができるように徹底する。報・連・相をするには、職場に近い状況をつくらないと、生きた場面に出会わない。だから、座学はほぼゼロ。ずっと働いているイメージです」

 横浜市の訓練所で行っているのは、古着のオンライン店舗。仕入、交渉、品質管理、パソコン上のマーケティング、発送などを通して、自分が得意なことや、自分ができないことを学ぶ。

 仕事に就いてからの作業を体験することによって、内定前の戦略を立てて、就職活動に臨む。就職後は、報・連・相を学んでいるので、ズレたときに補正できる仕組みだ。

 「陥りやすい罠としては、資本主義と民主主義をはき違えていて、職場では人は平等ではないことがわからない。また、段取りや質問、相談を省いても勉強できてしまうので、仕事に行ったときに弱みが一気に噴出します。さらに、真理を追い求めるあまり、事実の多面性を理解できずにスレ違う。自分のズレを他人に押し付ける。自分の考えを話せる人が多いのに受信ができない。理解できたのに実行できない。段取りの悪さから寝る時間が短くなって、職場で眠気に襲われるケースが多い。そして、仕事さえできれば人間関係はできるものなのに、仕事より人間関係ばかり築こうとするのです」

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池上正樹 [ジャーナリスト]

1962年生まれ。大学卒業後、通信社の勤務を経て、フリーに。新聞、月刊誌、週刊誌で、「心の問題」「住環境」などの社会問題をテーマに執筆。1997年から「ひきこもり」を巡る取材を始める。著書は、『ドキュメント ひきこもり~「長期化」と「高年齢化」の実態~』(宝島社新書)、『「引きこもり」生還記』(小学館文庫)など。2011年6月には最新刊『ふたたび、ここから~東日本大震災、石巻の人たちの50日間~』(ポプラ社)を上梓。


「引きこもり」するオトナたち

「会社に行けない」「働けない」――家に引きこもる大人たちが増加し続けている。彼らはなぜ「引きこもり」するようになってしまったのか。理由とそうさせた社会的背景、そして苦悩を追う。

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