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「引きこもり」するオトナたち
【第96回】 2012年2月2日
著者・コラム紹介バックナンバー
池上正樹 [ジャーナリスト]

大人の発達障害&予備軍に向けた
全国初“弱み”を“強み”に変える職業訓練

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 つまり、仕事ができるというのは、作業指示を受けて把握する。ところが、多くの場合、組織や文化の慣習を理解しながら、その場の状況をなんとなく察知することや、把握した後、タスクリストに優先順位を付けるのが弱い。

 また、タスクリストに起こしたものを判断、決断して、アクションを起こす。この際、世の中はズレが生じるので、絶えず指示者に報告・連絡・相談して確認していかなければいけない部分が弱い。だから、ズレてもすぐ元に戻れるようにしておくことが必要だという。

 「他の職業訓練は、アクションだけを教えていることです。そこが、うちと違う部分。実は、アクション以外の部分が、コミュニケーション力や仕事力と言われる部分。当社は、彼らに足りないもの、得意なところを伸ばして弱みを目立たなくすることだけを考えていたら、従来のアクション型ではなく、コミュニケーション型の訓練に必然的になったんです」

発達障害者の特性が生きる職場とは?
確認、管理、保守、点検がキーワード

 では、弱みが目立たなくて、強みが生きる職場とは、どんなところがあるのか。

 たとえば、ビルを建てるとき、土地の分析、ニーズを探り、入居者のイメージを描いて、関係者や行政を説得。ビルを設計して建設してもらい、基準通りになっているかを確認、保守、点検していく。

 最初の工程は、彼らの苦手なコミュニケーションが多くなる。ところが、後ろの工程は、書類に落ちやすく、変化しにくいため、仕事や職場として適している。だから、確認、管理、保守、点検、品質などが適したキーワードになる。つまり、IT以外でも、活躍する場はいくつもある。

 ただ、構造化され、定量化された「後工程」の分野は、コストの安い海外に持っていきやすい。こうした職場が日本のどこで残っているかを探して、開拓していくのが、同社の仕事だという。

 「“福祉の先進”は、“ビジネスの常識”です。作業、計画の定量化、目的目標の明確化は、すでにビジネスでやっていることなんです。ただ、企業の側でも、これまでこうした当たり前の価値観に十分取り組んでこなかったのではないか」

 このスキームは、発達障害の疑いがあるかどうかにかかわらない。不安を解消させるために、上司はゴールを設定して道筋を敷き、いま自分たちがどこにいるのかを指し示してあげることが、実はいまの日本に求められている。

 こうした鈴木社長の考えや取り組みについて綴った新刊は、今年4月、ダイヤモンド社から出版される予定だ。

拙書『ふたたび、ここから―東日本大震災・石巻の人たちの50日間』(ポプラ社)が発売中。石巻市街から牡鹿半島の漁村まで。変わり果てた被災地を巡り、人々から託された「命の言葉」をつづるノンフィクションです。ぜひご一読ください。

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池上正樹 [ジャーナリスト]

1962年生まれ。大学卒業後、通信社の勤務を経て、フリーに。新聞、月刊誌、週刊誌で、「心の問題」「住環境」などの社会問題をテーマに執筆。1997年から「ひきこもり」を巡る取材を始める。著書は、『ドキュメント ひきこもり~「長期化」と「高年齢化」の実態~』(宝島社新書)、『「引きこもり」生還記』(小学館文庫)など。2011年6月には最新刊『ふたたび、ここから~東日本大震災、石巻の人たちの50日間~』(ポプラ社)を上梓。


「引きこもり」するオトナたち

「会社に行けない」「働けない」――家に引きこもる大人たちが増加し続けている。彼らはなぜ「引きこもり」するようになってしまったのか。理由とそうさせた社会的背景、そして苦悩を追う。

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