'12/5/9
歴史途絶えイグサ生産ゼロに
広島県東部の特産「備後表」に使うイグサの生産が今年、主産地だった福山市でゼロになることが8日、分かった。この冬に市内で唯一苗を植えた農業生産法人が経営難で栽培を中止したため。江戸時代の福山藩主が振興し、同市を代表した農作物の400年を超える生産の歴史が途絶える。
イグサは11月〜翌1月ごろ植え、夏に刈り取る。広島県藺(い)業協会によると、県内では昨季、9戸が計約3・2ヘクタールで計30・8トンを生産。今季は高齢などを理由に植え付け中止が相次ぎ、福山、尾道、三次の3市の各1戸が計約2ヘクタールに作付けた。しかし福山市神辺町で県内最大の約1ヘクタールに植えていた農業生産法人アグリインダストリーが3月、急きょ栽培を断念した。法人は「植えたイグサが売れる1年半後までの資金繰りが厳しくなった」と説明。来季以降の計画は未定とする。
広島県内のイグサ生産は戦後最盛期の1952年に1220ヘクタール計1万2330トンに上り、うち約7割を福山市が占めた。しかし高度経済成長期以降、冬に植えて夏に刈る重労働の敬遠や、フローリング住宅の増加、安い中国製畳の流通による需要低迷で生産量は減少の一途をたどった。
福山市内では遅くとも1500年代中頃にはイグサが栽培されたとされ、江戸時代初めの領主福島正則は不良品選別基準を定めて品質向上を図った。後の福山藩主水野勝成も生産費の無利子貸し付けで増産を促し、特産として確立していった。
福山市は現在、イグサを水田の転作振興作物に位置づける。栽培には交付金を出し、ホームページなどで特産としてPRもしている。市農林水産部の石岡徹部長は「福山のシンボル的な作物。諦めずに振興策を検討する」と話している。
【写真説明】福山市内で唯一イグサを植え付けていたが、栽培が中止された農地
【写真説明】昨年12月のイグサの苗の植え付け作業。地元の御野小児童も体験した