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【社説】社会主義のフランス―オランド氏はシュレーダー前独首相を見習うべき

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 6日のフランス大統領選・決選投票で、有権者は、ニコラ・サルコジ大統領ではなく、社会党候補のフランソワ・オランド氏を選んだ。得票率は暫定でオランド氏が52%、サルコジ氏が48%。新大統領とその支持者は、社会主義による問題解決が不可能だとすぐに気づくだろう。しかし、だからといってサルコジ氏を落選させた有権者が浅はかだったとは言えない。

AFP/Getty Images

仏大統領に選出されたフランソワ・オランド氏

 5年前、サルコジ氏は大統領に立候補し、新しい大統領像を掲げて当選した。彼の前任者は、12年の任期を我流で通したとも言えるジャック・シラク氏だった。サルコジ氏は、仏経済にダイナミズムを取り戻すとともに、「労働、権力、尊敬、能力主義をフランス社会のあるべき形に復活させる」ことを謳って出馬した。

 しかし、有権者が代わりに得たものは、彼の恋愛をめぐるエリゼ宮の安っぽいドラマと政治のこう着だ。年金受給開始年齢は60歳から62歳に何とか引き上げられたものの、国家公務員の削減と労働報酬を引き上げる公約は実現しなかったと言ってもよい。

 ユーロ危機に見舞われ、フランス再構築に向けた計画を実行するだけの余裕が無かった、とサルコジ氏を擁護する向きもあるだろう。しかし、危機的な経験を無駄にするな、とはよく言われることだ。

 結局、サルコジ氏と仏政府は、付加価値税(VAT)とキャピタルゲイン税の引き上げで対応した。また、成功した実業家を悪者扱いし、ドイツ人は働き過ぎだと批判。国際金融取引税の導入を主張、経済問題の責任の大半を移民に押し付けようとした。サルコジ氏のユーロ危機への対応によってフランスの現状は悪化している。

 こうした状況に照らせば、オランド氏の当選は、有権者に突然、左派への回帰が生じたというよりも、サルコジ氏の失敗を許さず、別の候補にチャンスを与える動きとみるべきだろう。変革の必要性を痛感しているのは他でもないフランス国民だ。だからこそ仏有権者は、前回選挙でサルコジ氏に一票を投じたのだ。しかし、17年続いた中道右派政権は、抜本改革と言えるものはほとんど生み出せなかった。

 「役立たず」を退場させ、まともに仕事をしてくれる「誰か」に政治を託そうとするその意欲は、日本の有権者に象徴される、バブル崩壊以降長らく続いた「自己満足」よりは確かにましだ。今回の選挙の結果は、平均的な有権者を見下しがちな欧州のエリートに有効な「民主的反乱」であるとさえ思われる。

 オランド氏には政治の蜜月期間があるだろうが、長く続くと期待すべきではない。彼が自らの選挙公約によって経済が再建可能だと考えているのであれば、蜜月期間はさらに短くなるだろう。

 オランド氏は、国内総生産(GDP)の56%を占める政府支出をまかなうため、富裕層に75%の所得税を課す方針だが、対象となる富裕層は十分ではないだろう。なぜなら、アメリカ人と違い、フランス国民は移住によって国の課税から逃れることができる。つまり、ロンドンへの仏税金難民の流入が拡大することが予想されるのだ。

 フランスの租税負担率はすでに最も高い水準にあるものの、財政は赤字だ。政府債務のGDP比は90%。巨額の年金積立不足と退職者医療保険の債務が近い将来、重くのしかかる。

 もしオランド氏が、欧州財政協定の修正方針を堅持した場合、アンゲラ・メルケル独首相との対峙は避けられない。彼が勝利した理由は、ひとつには「緊縮」よりも「成長」を強調したことにある。問題は、「成長」と「政府支出の拡大」を同一視していることだ。真の成長の原動力とは、雇用・税・年金・規制を改革し、小さな政府を作ることである。オランド氏が当選したからといって、ドイツが南欧向けのユーロ債の発行に気前よく応じたり、インフレにつながりかねない欧州中央銀行(ECB)の大規模な資金供給を積極的に容認したりすることはもうない。

 1981年、フランソワ・ミッテラン氏が大統領に選出された。彼は選挙公約を実行に移そうとしたが、市場の反乱を招いただけだった。すぐに後悔したミッテラン氏は政策を転換し、エリゼ宮でおおむね成功した14年間を送った。つまり、オランド氏が統制経済の限界を知るという機転を利かせれば、彼もエリゼ宮にとどまれるかもしれない。

 皮肉にも今回の選挙を受けて言えることは、オランド氏が成功する可能性が最も高いのは、最後の独中道左派政権を率いた首相、ゲアハルト・シュレーダー氏を見習う、ということだ。シュレーダー氏は、ニクソン大統領のごとく中国を訪問し、連立相手には改革を訴えた。さもなければ、オランド氏は、かつては有望視されたサルコジ氏の身に何が起きたか肝に銘じる必要がある。

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