1.こうのとりのゆりかご設立にあたって
■設立にあたって理事長 蓮田 太二
昭和44年、当院に赴任してきた頃、慈恵病院の隣に愛児園という子供の施設 があり、小さな子供達が沢山暮らしていました。 その頃、島崎教会の司祭館の軒下に早朝、産着に包まれたかわいい赤ちゃんが捨てられており、保護しました。
平成16年、ドイツに「ベビークラッペ(Baby Klappe)」というものが設置されていると聞き、視察に行きました。 中世ヨーロッパでは、修道院の壁に扉が付いており、親が子供を育てられない場合、赤ちゃんをその扉の中に入れて、預けることができる仕組みになっており、修道院で赤ちゃんを育ててきた歴史があります。
過去、ドイツでは多くの赤ちゃんが捨てられ、多くの場合、寒いドイツでは遺体として発見されるそうです。
2000年、ドイツのハンブルグの保育園で、親が育てられない赤ちゃんのために「ベビークラッペ」というものを設け、赤ちゃんを助ける活動を始めました。それが瞬く間にドイツ全土に広がり、現在ドイツ国内で70カ所以上にベビークラッペが設置され、年間40人程の赤ちゃんが助けられているそうです。
日本ではそんなに多くの赤ちゃんが捨てられるということは無いと考えていましたが、昨今の新聞を見ていますと、熊本県内でも赤ちゃんを遺棄し、死体で発見されたケースが昨年は3件あり、全国規模で考えるとかなりの数になるのではないかと思います。
現在の社会情勢を見ますと、親が子供を殺すケース、子供が親を殺す等殺伐とした事件が増えております。厚生労働省のまとめによると、2003年度の全国の児童相談所が処理した児童虐待に関する相談件数は、前年度に比べ約6,000件多い、26,500件にも上っており、更に2000年11月から2003年末までに159人の児童が虐待により死亡しており、このような社会の趨勢をみると、今後赤ちゃんを捨てるケースも増えていくのではないかと危惧せずにはおられません。
私共の病院では、たくさんの赤ちゃんが生まれ、育っていきました。その赤ちゃん、また育っていくお子さん、そして成人された方々に会いますと、命のひとつひとつが神様から頂いたかけがえのない尊いものだということを痛切に感じずにはおられません。
私たちの身近なところでも、最近18才の無職の少女が産み落としたばかりの女児を殺して庭に埋めるという事件や、21才の専門学校生が汲み取り式トイレで女児を産み落とし窒息させ6年の実刑判決を受けるといった痛ましい事件が発生しました。
神様から授かった尊い生命を、何とかして助けることができなかったのか?赤ちゃんを生んだ母親もまた救うことができたのではなかろうか?という悔しい思いをし、どうしても赤ちゃんを育てられないと悩む女性が、最終的な問題解決としてドイツと同じように赤ちゃんを預けるところがあれば、母子共に救われると考え、今回当院にそのような設備を整えることとしました。
そして、赤ちゃんはこうのとりが運んでくるという西洋の童話にちなんで「こうのとりのゆりかご」と名づけました。
捨てるという事は子供の命をなくす事につながりかねません。しかし安全なところに預けるという行為はわが子を助けたいという母親の切なる気持ちがそこにはあるのではないでしょうか。その事は将来その子が自分の親が養親であるという事を知り、悩むことがあればその時、「あなたのお母さんは、あなたの命を助けてもらいたいという深い愛情の元に、私達に命を託されたのです。 決してあなたを粗末にした訳ではありません。そして、縁があって今のご両親に育てられたのです。」といってあげたいのです。
認可されたとはいえ、倫理的、法的、社会的な問題がいろいろと出てくると思いますが、赤ちゃんにとって、より良い方法を考え、関係機関と連携をとりながら周囲の方々の協力を得て運営を行いたいと思っています。