電子書籍は記憶に残りにくい? 脳科学から問う 紙の本VS電子書籍
ダ・ヴィンチ 5月9日(水)15時40分配信
|
『脳を創る読書』酒井邦嘉(実業之日本社) |
詳しい記事はこちらから
よく「電子書籍だと内容が記憶に残りにくい」と言われる。これは科学的な根拠があるものなのだろうか?
「まず、科学的なデータがあるかということをいわれると、そういう科学的な調査をしたわけではありません。また調査の方法によっても結果が変わってくると思います。“内容を覚えていますか?”という割と表面的な聞き方をすると、ほとんど変わらないかもしれない。けれども意外と、頭に自動的に残ってくるような“言い回し”とか、“ちょっと気になるような表現”とか、そういうものをターゲットにして調べると、差が出てくるかもしれませんね。仮にそうだとすると、紙のほうが“手がかりが豊富にある”ということなんですよ」
手がかりとはいったいどういうことだろう?
「我々は気にしていないようでいて、実は脳はたくさんの特徴を頭の中に刻み込んでいるんです。
例えば本棚の中に沢山の本があって、そこに目当ての1冊が隠れていても、様々な特徴の記憶からあそこのあの本っていうふうにわかるぐらいに、です。実は我々の脳は自動的に相当たくさんの情報を記憶している。
だから電子書籍になって、これは余分だろうと思って排除されたことによって、実は記憶の手がかりを失っているという可能性は、充分ありうることなんですね」
文字情報以外の――例えばページの厚みとか重さといったものも記憶定着の要素として大切、ということになるのだろう。認知科学の世界で最近注目されている「身体性」(体という物理的な存在が周囲の環境と相互に作用し、学習・知識構築を行う様)にも通じるものなのだろうか。
「そうですね。ただ、“身体性”といういい方は、確かにトレンドではあるけど、僕はあまり使わないんです。身体性を完全に取り除いたとしても、おそらく視覚的な記憶の手がかりだけでも、相当あるだろうと考えているからです。視覚的なインプットは人間にとってかなり強いものなんです。
ページをめくっていくと、このレイアウトのなかのだいたいこの辺りに書いてあった――という具合に、非常に自然に頭に入っているものなんです。だから、そういう量的な手がかりというのは、身体性だけではなくて、明らかに視覚的な手がかりが入っている。もちろん電子書籍でスクロールバーなどによって、現在の位置というのが記憶に定着するような形でわかればいいんだけど……」
しかし、これだけ電子書籍に注目が集まっていて、国内外で様々なサービスが生まれているにも関わらず、根本的なところで従来の紙の本に対する弱みがあることがわかる。
「人間の脳は大昔にデザインされたものですから、それ自体は大きくは変わりません。 ただ、日常的に電子書籍に触れることによって、どんどん適応をしていくのです。逆に適応してしまって、今までの読書スタイルが変わってしまうことも。いい場合も悪い場合もあるとは言えますが。
とはいえ、色々試してみるのは、やっぱり良いことだと思います。私もそうやっていろいろな電子書籍に実際触れて、何が足らないのかということが分かった。問題を意識しながら読むことができるようになった訳ですね。その結果、これはやっぱり紙の本で読もうとか、これは電子書籍でもサクサク読めるとか、そんな使い分けが大切だと考えるようになりました」
(ダ・ヴィンチ電子ナビ 「まつもとあつしのそれゆけ! 電子書籍」より)
【関連記事】
日本の電子書籍の普及率が低い3つの理由
樹林伸が語る「出版社への隣接権を完全否定するただ1つの理由」
知っておきたい、電子書籍の最新動向
Kindleが日本に上陸しない理由とは?
ラノベ、コミック――電子書籍と相性のいいコンテンツとは?
最終更新:5月9日(水)15時40分
記事提供社からのご案内(外部サイト)
【表紙】堺雅人
|